10年以上シミュレーションRPGを制作しているTS氏による最新作「Heartium(ハーチウム)」が2016年9月15日にフリーゲームとして公開された。
特筆すべきはなんといってもキャラクターの魅力。サブキャラクターを含めて総勢50人以上いるキャラクターに対し、全てオリジナルでグラフィックを描き下ろし、バトルのドット絵アニメーションも自ら手掛けている。
そしてもう1つの特徴は、「個」ではなく「集」で戦うことを強く感じる絶妙なゲーム性だ。
育成要素があると、どうしても特定のキャラクターが突出して強くなり、1人のキャラクターで敵全員を倒せるような「無双」の状態になりやすいが、本作はそうでない。あくまでも「集」。1人の力ではなく、部隊全員の力で数々の戦場を打破することを実感できる、作品に仕上がっている。
物語を彩る多くのキャラクターたち
まず見てもらいたいのは、キャラクターのグラフィックだ。フリーゲームSRPGの『魔法少女』を筆頭に、これまでTS氏はシミュレーションSRPGツクール95を使用し10年以上フリーゲーム制作を続けてきた。今回、SRPGStudioに制作ツールを変えることによってそのグラフィックをフルカラーで堪能することができるようになった。
主人公の騎士候補生:シキ 探索隊のアーチャー:トラウラ 探索隊の魔導士:ロロージョ
本作のメインビジュアルとしては、主人公の「シキ」を中心とした主要キャラである上の3人娘がよく挙げられるが、Heartiumのキャラクターは「可愛い」だけではない。男キャラのビジュアルもまたHeartiumの魅力の一つである。
シキの弟子となった村人:ランド 寡黙な狩人:ヤンニック シキの同期:アルベール
そして操作できるキャラクターは彼らだけではない。男女比は半々で最終的には18人となり、共に数々の戦場を駆け抜けてゆく。
最強の二刀流剣士:ゼディーラ 上位将軍の魔導士:シェイド 上位将軍の知略家:シュトール
また、Heartiumを紹介する上で、敵将たちも忘れてはいけない。幾度となく立ちはだかる「敵」。その彼らもまた魅力的であるからこそ、Heartiumは面白い。話が進んでも小物化することなく、大物であり続ける彼らの存在があってこその物語に仕上がっているのだ。
1人の力では決して打破できない、数々の戦場
ゲームシステムは、マス目のマップを攻略するオーソドックスなターン制シミュレーションとなっている。
しかし、Heartiumで注目すべき部分は、その絶妙なゲームバランスだ。
ユニットの強さとして、主人公のシキは頭一つ抜けているが、敵の集団に囲まれたらひとたまりもない。味方ユニットを固まらせながら進軍しないとたちまち孤立し、戦闘不能になってしまうのだ。
経験値を稼いでレベルを上げる方法もあるが、それでも一騎当千になるわけではない。逆にレベルが低いからといって戦力にならないわけでもない。Heartiumでは味方ユニットをまとまって動かし、いかに陣形を作るかが鍵となる。まるで将棋などのボードゲームをやっている感覚に近いのだ。
そして10年以上ゲームを作り続けてきた経験を元にした、細かな作りこみの深さ。キャラクターや武器のドット絵はオリジナルで、バリエーションも幅広いものとなっている。
SRPGStudioにあらかじめ用意されたグラフィック素材や、他の素材の力も借りてはいるが、独自のアレンジを効かせることにより、TS氏にしか作り出せないオリジナリティが溢れている。
また、Heartiumの良さはキャラクターのグラフィックやゲーム性だけではない。なんといっても過去作の作風から引き続き見られる「軽快な会話劇」も大きな魅力の一つだ。
キャラクターによって会話の量が極端に偏ることもなく、それぞれの関係性を考えるのに十分な描写がなされている。テンポよくスラスラと読めるが、薄い会話ではないのがTS氏の書く物語の魅力だ。一言一言にキャラクターの心情が詰まっていることが感じられ、台詞の中に込められた気持ちを考えるのも、またひとつの楽しみ方である。
「物語とゲームシステムの融合」を楽しめる作品
他にも本作の良さは数多くあるが、まずはプレイしてもらうのが一番だと思うので、いったんまとめに入りたい。Heartiumは以下のような要素に少しでも興味ある人に強くオススメしたい作品だ。
・多彩で魅力的なキャラクターの数々
・美麗なグラフィック
・集団で戦うことの面白さ
・読みやすい会話劇
・一筋縄ではいかない絶妙なゲームバランス
レベルアップでの能力成長も固定値なので、1人のユニットを重点的に育てて一騎当千の活躍をさせたいという人には、もしかしたら好みから外れるかもしれない。
しかし、このゲームバランスだからこそ出来る「物語とゲームシステムの融合性」がHeartiumの魅力であり、それを体感してこその感動を享受できる。周回要素はないが、やりこみ要素は数多くあるので難しいゲームを求める人にも、触れてみてほしい作品である。
[基本情報]
タイトル 『Heartium』
制作者 TS(制作者様サイトはこちら)
対応OS Windows
プレイ時間 40~50時間
価格 無料
ダウンロードはこちらから
http://www.freem.ne.jp/win/game/9818