個人開発者のカナヲ氏(てりやきトマト)が株式会社ドワンゴのゲーム配信サイト「電ファミニコゲームマガジン」にて、フリーゲームとして連載中のアドベンチャーゲーム『被虐のノエル』。小説化や漫画化もされるなど盛り上がりを見せる同作だが、12月10に公開された「Season7」にて物語の大きな節目を迎えた。そこでこの機会に作品を振り返りつつ、本作の魅力に迫っていきたい。
両手両足を奪われた少女と大悪魔のコンビによる復讐の物語
本作の作者であるカナヲ氏は、ゲームデザイン、シナリオ、グラフィック、そして作曲も手がけるクリエイター。制作ジャンルも『虚白ノ夢』などのアドベンチャーゲームや『積層グレイブローバー』などのRPG、さらにはSLGと多岐に渡っており、ゲーム制作ツール「SMILE GAME BUILDER」による制作を実演する弊誌の企画では3D視点を活かした探索ホラーADV『虚毒ノ夢』を制作するなど、ゲームデザインによる演出も作品の大きな見どころとなっている。
『被虐のノエル』はそんなカナヲ氏が2016年4月から連載を開始した作品。ゲームデザインやシナリオ、キャラクターイラストはもちろん、一部のBGMも同氏が手がけている。契約によって願いを叶える悪魔が実在する世界の港町「ラプラス市」を舞台に、市長「バロウズ」の策略によって両手両足を奪われた少女「ノエル」が大悪魔「カロン」と共に、その身を復讐へと投じていくという物語だ。
大事なピアノコンクールが不本意な結果となってしまい落ち込むノエル。そこを市長に付け込まれ、悪魔の力を使うためのスケープゴートにされてしまう
市長の企みによって悪魔としての矜持を傷つけられたカロン。彼自身の思惑もあり、ノエルに復讐を持ちかける
個性的なキャラクター達とゲームならではの物語演出が魅力
本作の魅力はなんといっても、個性的なキャラクター達。両足が義足、そして契約によって左腕を取り戻すも代償として右目をなくしたノエルは、直接的な戦闘力はほぼ皆無。しかしカロンに導かれ戦いに身を置く中で、その強い意志で苦難を乗り越え、相対する者達の心を動かしていく。打倒バロウズという共通の目的による利害関係から、戦友とも呼べるような関係へと変わっていくノエルとカロンの関係性も見どころだ。
復讐を描く物語だが、シリアスな場面ばかりではなくコメディタッチな展開も。共に戦う中で変わっていくノエルとカロンの関係も見どころだ
敵側も尖ったキャラクターばかり。悪魔と契約し、特殊な力を手に入れた「魔人」達がノエル達と対峙することになる。「魔人としての名乗り」「それぞれの特殊能力を駆使した戦闘スタイルに、どう立ち向かっていくか」といった異能バトルもののような展開も本作の大きな見どころ。かつて戦った敵との共闘など、アツい展開も物語を盛り上げる。
魔人はそれぞれ「魔人名」を持つ。そこには己の執着や矜持が現れている
またゲームならではの演出、システムによる物語表現も大きな特徴。魔人や悪魔とのバトルではアクションパートが挟まれ、敵ごとの戦闘スタイルやシチュエーションに応じてその内容もバラエティに富んでいる。ここぞという場面で流れる自作曲も魅力で、タイトル画面でも使われている旋律がさまざまな形でアレンジされることにより、テーマ曲のような形で物語を盛り上げ、作品に統一感を与えている印象だ。
強敵を相手に、貨物列車の上という足場の悪い場所での死闘に臨むカロン。さまざまなシチュエーションでバトルが繰り広げられる
市長の資金源を絶つためカジノの陥落を目指す作戦では、実際にプレイできるカジノゲームなどで稼いだチップをもとに、ノエルが支配人とのブラックジャックに挑む
本来は無味乾燥なシステムメッセージが、ときにキャラクターの想いを代弁する……なんて演出も
大きな節目を迎えつつ、さらなるスケールアップも予感させる作品
10日に公開された「Season7」では、仲間を増やし、市長の手駒となる魔人達を倒し、またその資金源を絶ち、今や市長に十分対抗し得る勢力となったノエル達による総力戦が描かれる。それと同時に、ノエルと因縁を持つある少女との物語に決着が付けられるなど、ここまでの集大成と言えるようなエピソードとなっている。
「Season7」では仲間を集め市長を追い詰めるまでに至ったノエル達による総力戦、そして宿敵との決戦が描かれる
これまでの戦いを振り返るような流れもあり、今後も連載は続くが今回が1つの節目となっているのは間違いないだろう。12月28日には、Season7までの内容を収録した「被虐のノエル 公式ファンブック Collection 1」の発売も予定されている。連載開始から約1年半で大きな区切りを迎えつつ、物語も周辺展開もさらにスケールを増していく予感も感じさせる『被虐のノエル』。今後の展開にも期待したい。