昔々 ある所に魂を持った楽譜がありました。
その楽譜には 日々少しずつ物語世界が継ぎ足されていき、
いつ完成するのかと 楽譜自身待ちわびていました。
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『未完のエリザ』は、毎年開催されている「WOLF RPGエディターコンテスト(通称ウディコン)」の、2018年度総合グランプリを果たした作品だ。今回はこの短編の魅力を紹介したい。
舞台は豪華客船「サザンクロス」。偉大なピアニストだった祖父にあこがれる「マリン」は、無事ピアノの演奏を披露し終え、船旅最後の夜を満喫していた。
そこで突如、船に異変が起こる。
空が赤くなり、人が一人もいなくなる。マリンは人を求めてさまよい、地下室へと導かれる。
そこには一台のピアノと、「呪われた曲」として伝説になっている「呪奏(じゅそう)のエリザ」の楽譜が置かれている。
少女は部屋に閉じ込められる。どうやらこの曲を弾かない限り、出られないようだ。
意を決してマリンはピアノを弾く。
一度弾き始めると「麻薬のようにトリップ状態に陥って」しまうといわれる「エリザ」は、少女を楽譜の中の世界へと引き込む。
こうして、それぞれが「狂気」によってむしばまれた、5つの楽章を巡る物語が、始まるのだった・・・
さて、「5つの楽章」ということは、世界が5つあるのだ。
序章「-猫ふんじゃった-」
第1楽章「-天国と地獄-」
第2楽章「-月光-」
第3楽章「-運命ー」
第4楽章「-田園の孤独病ー」
これらの楽章は、それぞれが狂気の世界になっている。
序章:鍵盤の上でモンスターから逃げつつ、猫を探す世界
第1楽章:雲の上で羊を集める世界
第2楽章:月が行く手を阻む世界
第3楽章:すごろく
第4楽章:「孤独死」する世界
例えば、雲の上で羊を集める世界。
集めた羊で足場を作って先に進むという、なんともファンタジーな世界なのだが、それでも危険がはらんでいる。
モンスター化した音符や、先に進むのに必要な「鍵」に擬態するモンスターが行く手を阻み、プレイヤーに危害を加えようとしてくる。
魂を持つ楽譜の目的は、その曲を弾いたものを比喩ではなく「虜」にし、楽譜の世界でもてあそぶことなのだ。
「エリザ」は世界を憎んでいる。世界とは、無理やり完成させられた「自身」のことであり、そしてそんな自身を称賛した音楽界である。
彼女は「完成」されたことを憤り、呪いとなった。その呪いは封印されてなお都市伝説のごとく流布し、数百年、存在し続けた。
自我を持った呪いというのは厄介で、楽譜は「未完」であったころを懐かしみ、ひがみから他者を見下すようになった。
マリンが目をつけられたのは、船でピアノを披露し、「祖父の曲が一番」と言ったがためだ。いわは、才能ゆえにまきこまれたことになる。
この作品が優れているところは、「音楽」という題材に、謎解きとホラー要素を組み合わせたところだろう。
「音楽」や「音」を題材とした作品はいくつかあるものの、そこに「謎解き」、そして「ホラー」を組み合わせたものは、少ないのではないだろうか?
ただ、謎解きは基本的にやさしいし、ホラーといってもちょっとした「脅かし」ぐらいのものなので、そこまで身構える必要はない。
音楽にしたって、別に高尚な、とっつきにくいものではない。
この作品は、音楽のパロディになっているのだ。
マリンが出場を控えているのは「ウェーン国際コンクール」であるし、そもそも「エリザ」自身、ある実在する有名なピアノ曲と同じく「名前が間違えられた」曲であるのだ。
その曲がなにであるかは、実際にプレイをし、確認してほしい。
▲音楽に限らず、いろいろうんちくが知れる場所があって、楽しい。
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前述したが、『未完のエリザ』は、「第10回WOLF RPGエディターコンテスト」に出展された。
そして数々の魅力的な作品、秀逸なアイディアの作品、グラフィックの凝った作品、破天荒な作品の中から、みごと投票によって、総合グランプリを果たした。
きれいにまとまったシナリオ、印象に残るキャラ、すごろくまで実装したミニゲームなど、「未完」の名に反した完成度の高さを持ち、そして「未完」という言葉そのものを、考えさせられる作品となっている。
なお、作者様の前作『棺桶時計の動く夜』という作品と、時系列的につながっている。そちらもあわせてプレイしてみてほしい。
[基本情報]
タイトル :『未完のエリザ』
ジャンル:探索型アドベンチャー
制作者 :ナイデン内田 (制作者様サイトはこちら)
クリア時間: 2~4時間
対応OS :Windows
制作ツール:WOLF RPGエディター
価格: 無料
ダウンロードはこちらから
http://www.silversecond.com/WolfRPGEditor/Contest/result10.shtml