あるプレイヤーはゲームとしてのやり応えを求め、また別のプレイヤーは深い世界観とストーリー、魅力的なキャラクターを求める。
それまで駒に過ぎなかった存在に個性を与えるなど、ロールプレイングゲーム(RPG)の様式を取り入れた戦略シミュレーション(ストラテジー)こと「シミュレーションRPG」というジャンルは、プレイヤーそれぞれの嗜好が分かれやすいジャンルだ。ことに作品がどちらも作り込まれた内容であれば、続く作品がどこに力を注ぐか否かに注目が集まる。そして、出来上がったものがそのどちらかを犠牲にした作りになっていたとすれば、嗜好の異なるプレイヤー間で議論が起きる。これはRPGにも言えるが、本ジャンルの場合、「将棋」、「囲碁」と言った昔から嗜まれる「駒遊び」が源流にあるだけに、その辺りの議論が非常に起きやすい土壌を持ってしまっているように筆者は考える。
で、あるならば、RPGの要素をゲームに全振りした作品もあっていいのではないのか。そんな考えの元、作られたのかは定かでないが、今回紹介する『ハイアブザード』(作者:熱帯魚氏)は、ストーリー皆無のシミュレーションRPGである。2018年11月14日にWindows PC用フリーゲームとして誕生。同ゲームの配信サイト「ふりーむ!」にてダウンロードできる。
ストーリーなし、確率要素薄めの編成勝負型SRPG
内容は正統派の交互ターン制シミュレーションRPG。個性豊かなユニットをカーソルで動かし、敵ユニットを各個撃破するなりして、勝利条件の達成を目指す。敗北条件に抵触したり、自軍のユニットが全滅すればゲームオーバーだ。
ただ、ペナルティ周りは緩い。というのも、本作にゲームオーバーは実質ないに等しく、敗北するとマップを一からやり直しにはなるものの、それまでの戦闘で得られたユニットごとの経験値、レベルは継続した状態での再開となる。
戦闘不能になったユニットが消滅してしまう「ユニットロスト」もない。ゲームオーバー、マップクリア後にそれまでの戦闘で得られた経験値、レベルを継続した状態で復活する仕組みだ。
武器も使用回数が決められていて、0になると壊れて使えなくなってしまうが、これも敗北によるやり直し、マップクリア後に回復する。一部ユニットだけが使える専用武器も同様なので、制限を気にせず、思うがままに使える設計だ。
このため、多少力任せな戦術でも、いずれはクリアに辿り着ける、気軽に遊べるバランスになっている。毎ターン始めにセーブが行えることも、そのことを象徴している。
さらに確率要素がほとんどない。戦闘は攻撃を仕掛ける前、どのような結果になるかが明示されるので、想定外の事故が起きない。仕掛けた結果、ユニットが戦闘不能になっても、それはプレイヤーの判断ミスだと示される。
相手に倍以上のダメージを与える「必殺」、ユニットの持つ特殊能力こと「スキル」の発動も戦闘前に分かる。後者に関しては、詳細に示されはしないものの、敵のステータス画面をあらかじめ見ておけば、「これが発動するんだな」と読める。
そして、各ユニットの経験値が100に達する度に発生するレベルアップ。これも上昇するステータスはレベルごとに固定となっている。仮にセーブしたデータをロードしてやり直したとしても、全く同じパラメータが上昇。嬉しいことに、一つも上昇しないことも起こり得ない。おかげで、育成も気兼ねなく取り組める。
このような工夫が凝らされているため、純粋にマップごとの戦術、戦略を楽しめる作りになっている。確率要素ではないが、一定ターン経過後、マップの特定ポイントに追加の敵ユニット(増援)が現れることも一切ない。少しネタバレになるが、全てのマップが初期配置の敵ユニットと戦う、公明正大・真っ向勝負の構成だ。
裏を返せば、常に編成勝負。特に注意すべきがマップ攻略中、ユニットの持つ武器、アイテムの交換ができないことで、強いユニットをひいきすれば攻撃手段がなくなって、ただの人形と化してしまう。さらにユニットには「BP」と呼ばれる行動ゲージも設定されていて、攻撃を取った時などに消費。0になると、移動しかできなくなる。
なので、ユニットそれぞれの役割を決め、偏らせることなく手を打っていくことが大事。しかも、本編の全マップにはターン制限が設定されているので、ゆるりと進撃せよな気持ちで挑むと、敗北一直線だ。
確率要素がほとんどないことから、安心してマップ攻略に挑めるのかと思いきや、そうであらず。ある意味、上手い話に裏ありな仕掛けを凝らしたシミュレーションRPGにまとめられている。
そして、さらなる特徴として「ガチャ」なる要素がある。
唯一の確率要素で、戦略を一変させる面白さを含んだ「ガチャ」
大体ご想像の通り、ソーシャルゲームでお馴染みのアレである。しかしながら、用いるのはゲーム内通貨。リアルマネー(現金)ではない。そもそも本作、フリーゲームです。
そして、これが本作におけるユニット補充策だ。先の通り、本作にはストーリーが存在しないので、マップ上で敵ユニットを説得し、仲間する手段が取れない。ゲームの流れに応じて固定加入するユニットはいるが、少なめだ。
そのため、充実化を図るに当たって「ガチャ」を引く形となる。
基本的にマップ攻略開始前の拠点メニューにある、「ガチャ・情報収集」からの「【ガチャ】団員募集」でお金を払う形で実施。その後、拠点メニューへと戻ると、ランダムで選ばれた新ユニットが加入するという流れだ。
ソーシャルゲームよろしく、ユニットにはレア度こと「★」、またの名を「StarPoint」も設定されている。高レアは「★5」で、スキルが豪華。低レアは「★3」でスキル少なめとなる。
それより下に「★1」と「★2」があるが、前者はごく一部のユニット、後者は固定加入ユニット全般限定のレア度となる。さらなる上位で「★6」も存在するが、これは本編クリア後限定の特別なユニットとの位置付けだ。(※詳細は後述)
また、一部ユニットは「クラス変更」実施により、ステータス強化とスキル追加に加えて「★」の数が増加。強力なユニットへと成長を遂げる。しかし、これが「報酬」の獲得条件を圧迫。
マップには、出撃メンバーの★の総数が規定値内に収まった状態でクリアすると、強力な武器、ユニットの特定パラメータを底上げする「チップ」などを獲得できる「StarPoint報酬」なるボーナスが設定されていて、これを狙う場合、ユニットごとの★の数に注意を払う必要があるのだ。そのことから明らかな通り、高レアのユニットほど、報酬獲得の妨げになる。「クラス変更」を実施したユニットもまた然りだ。
報酬獲得は必須ではないので、無理なら狙わなくていいのだが、これを手に入れるか否かで難易度は緩やかに上下。強いユニットを揃えて有利に戦うか、或いは報酬のためにバランスを取るか。もしくは、低レア中心で厳しい戦いに挑むか。
こう言った要素もまた、本作の編成勝負な作りを魅力溢れるものへと引き立てている。何より面白いのが「ガチャ」のシステムそのもの。見ての通りに確率要素だ。マップの攻略と戦闘にない一方、編成側にはそれが存在しているのである。
そして、これが戦略方針を大きく揺さぶり、難易度にも変化を及ぼす。戦闘の結果が保証されるのに、編成が保証されないこの表裏一体な位置づけもとてもユニークで、刺激的なプレイ感を演出している。そして、シミュレーションRPGにおいては、ゲームバランスを不安定にし、時にそれがプレイ中のドラマを生む魅力のある確率要素を、ある意味でプレイヤー側に迷惑がかからない程度に落ち着かせているのにも、こういう使い方なら統率が取れるのではないのか、との一つの問いかけになっていて興味深い。
若干、マイナスイメージも強いシステムで、似たような試みを行っているソーシャルゲームもあるため、革新性は薄めだが、シミュレーションRPGと確率の関係を改めて考えさせるものであるのは間違いなく。なかなかに侮りがたい魅力を持つ作りになっている。
同時ターン制のモードも収録で、遊び応え抜群!
さらに難易度にも周回プレイの面白さを際立たせる意欲的な試みが。本作には最も簡単な「ライト」、高難易度の「ヘビー」に加え、「パラレル」なる三つ目の難易度が用意されているのだが、この「パラレル」、なんと同時ターン制で遊ぶ、事実上の別モードになっている。同時ターン制とは、簡潔に言えば「1ターン」の内に、敵味方が入り混じって行動するシステムだ。有名所では、PlayStation 2の『ベルウィックサーガ』がある。
しかも、このモードに限り、敵配置も「ライト」と「ヘビー」と違う。そのため、他の難易度の経験が一切通用しない独自のマップ攻略が楽しめるのだ。ツール(SRPG Studio)仕様もあって、次にどの敵ユニットが行動するのか見極めるのにやや癖がある(画面右上の行動ユニット数で判断する)が、交互ターン制とは一味も二味も異なる、脳味噌フル回転な展開は(肉体的な意味も含めて)刺激バリバリ。もし、本編の内容に物足りなさを感じたら、挑戦してみて欲しい。
とは言え、その本編もマップ数20以上に加え、クリア後にも★6つのユニットと追加マップの解禁があって、ボリュームは申し分ない。最も簡単な「ライト」でも、システム周りの関係から、力押しの効きにくい調整が図られているので、なかなかの歯応えだ。マップも増援なしの初期配置に特化しているだけに、的確な一手と攻め時、引き際が問われる、戦略シミュレーションの醍醐味が詰まった仕上がり。何らかのストーリーが展開されていることを示唆する描写が凝らされているのも見所だ。
▲凶悪スキルの一例。
後半、凶悪なスキル持ちの敵ユニットが増える関係で、一体ごとに敵ステータスを確認する必要が生じるのが煩わしかったり、ストーリーが一切ないためにラスボスを倒した後のエンディングも非常にアッサリしているなどの難点もあるが、確率要素を戦闘外に回すなどの尖鋭的なゲームデザインが光る本作。シミュレーションRPGを素材そのままの味で堪能したいプレイヤーには特におすすめの一本だ。ユニットロストなし、ゲームオーバー後のペナルティ緩めなど、シミュレーションRPG初心者にも門戸を開いているが、難易度は歯応え十分。腰を据えて挑む姿勢で行こう。
[基本情報]
タイトル:『ハイアブザード』
制作者: 熱帯魚
クリア時間: 20~25時間
難易度:初級~上級者向け
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/18889