「ススム」の兄が行方不明になってから1ヶ月が経過した。
近所で店を営むおじさんと話し合った末、彼に探してもらうことを決め、店を後にするススム。するとそこに奇妙な黒いウサギが。不思議に思ったススムが追いかけると、ウサギは工事用バリケードが置かれた先にある、森の奥へと行ってしまった。
後に続くようにバリケードを越え、森に入るススム。
その先にはトンネルと、進入禁止の標識が。
ススムは森を進んでいる最中に手に入れた、奇妙な「ステッカー」を標識へ叩きつけるように貼る。すると標識が言葉を発した。目の前に立っていたのは、意志を持つ特別な標識だったのだ。さらに標識を説き伏せ、トンネルの先へと進んだススムに待っていたのは、兄が落としたとされる家の合鍵。彼がここにいたとされる手がかりだった。
かくして兄の足取りを見つけたススムは、森の奥へ進む決心を固める。
その先に何が彼女を待つのだろうか?
『THE STREET FRIENDS.(ザ・ストリートフレンズ)』は、2019年9月29日に「ふりーむ!」、「RPGアツマール」にて公開された「RPGツクールMV」製探索アドベンチャーゲーム。行方不明の兄の足取りを追って、不思議な森へとやってきた少女と不思議な標識たちの交流を描いた作品だ。
正統派で親切設計、けど”罠”もある探索型ADV
ゲームとしての作りはシンプル。舞台となる森のフィールド上を歩き、ストーリー展開に応じて挟まれるイベントをこなし、時に標識たちとの会話しながら進めていくものだ。「RPGツクールMV」製探索系アドベンチャーとしては定番の内容である。
基本的には目的地とされる場所を目指したり、アイテムを回収するなどを繰り返す形で進む。しかも、プレイヤーが次に取るべき行動はストーリーのイベントのみならず、ガイドメッセージでも表示される親切設計。探索周りも一部、洞察力が試されたり、ゲームオーバーに繋がる罠があったりするものの、総じて難易度は低め。サクサク進めていけるバランスになっている。
マップもスケール小さく、怪しいポイントは露骨なぐらい怪しく指し示すデザインが凝らされているので、しらみ潰しの捜索が求められる頻度も低い。
ただ、中盤を過ぎた辺りから、目的地到達やアイテム回収とは違った種類のものも登場するようになるなど、構成はワンパターンにあらず。先の通り、本作にはゲームオーバーの概念があるので、何かしら間違った行動を取れば、やり直しの憂き目にも遭う。それがゲーム開始間もない序盤の時点から存在する、というだけでも、決して甘口な探索アドベンチャーゲームでないことは察せるだろう。
似たように「RPGツクールMV」の探索アドベンチャーで、生ぬるすぎるゲームオーバーが存在したケースやら、ない代わりに罵倒に次ぐ罵倒が繰り広げられて新性癖開拓への架け橋になるケースもあったりするが……それはさておいて。
全体としては、世界観とストーリーを楽しむことに焦点を絞った作りだ。例によって、本作のキモはそこにある。何より、登場キャラクター達がいずれもメルヘンチックで可愛らしい。ほのぼのとした物語なのだろう、と想像するかもしれない。
だが、実の所は全く違うのである。
メルヘンな雰囲気の深奥に隠された、おぞましい”なにか”
そもそも、本作はゲーム開始と同時にこのような警告が表示される。
一体、これが何を意味するのか。
実は本作、随所に暴力的で黒い”罠”が用意されている。
具体的にどんなものかはプレイして確かめて、の一言に集約されてしまうのだが(※ただ、ひとつだけ言うと、ここまでピックアップしたスクリーンショットの一枚が罠である)、比較的早い段階で初見時は体験することになるだろう。そして、思い知らされるのである。この作品はメルヘンの皮を被った”なにか”だと。
特に中盤以降、作中のキーキャラクターである意志を持った標識たちの秘密に迫るイベントが起きてからは空気が一変する。それまでは主人公のススムに協力的な標識たちとの交流を主とした、優しい感じの展開が続くのだが、件のイベント以降は、緩やかに不気味な空気が漂ってくる。
そもそも、なぜ標識が意志を持ち、森の中限定で人間の姿になるのか?
どうして、兄が持っていたはずの家の合鍵が落ちていたのか?
序盤の時点で、そんな謎が浮上するのだが、一連の事柄は中盤終わりにかけ、”管理人”と呼ばれる人物への接近と同時に解明されていくことになる。そして締め括りにおいて、森に隠された”狂気”を目撃する形になるのだ。
この序盤と中盤以降で180度雰囲気が変わり、そこかしこに暴力と黒さがうごめくストーリーの作風が本作最大の特色となっている。
ただ、結末は意外にも穏やか。ススムの思いも果たされ、幸せなこれからを予感させられるもので、誰もが「いいものを見せてもらった」という気持ちになるだろう。
しかし……である。本作はそれで終わりとはならない。
多少、ボカして紹介すると、あることを始めると変化が起きる。
同じイベントを見ているはずなのに、何かが違う。
そんな違和感を抱かせる事態になるのだ。
そして、流れるがままに進めていくと決定的な”違い”に直面。
そこからストーリーは先とは全く違う方向に展開し、幕を引くのだ。
最初に抱いた印象を根底から覆す、おぞましい”絵”と共に。
例によって、詳細は語らない。
ただ、それを見た感想はこの一言に尽きた。
「恐ろしいものを見てしまった、もう何も信じられない……」と。
また、ストーリーに隠された真のテーマもここで見ることができる。特にエンディングへと繋がる”道”に置かれた小物には、何を描き、何を伝えようとしたかの意図が込められており、テキストを用いず、プレイヤーそれぞれに考えを委ねる演出が炸裂した場面に仕上がっている。その小物に関しても、本作の第一印象からは想像もつかないものと同時に、その見た目を想像するだけでも背筋に何かが流れ落ちる感覚に襲われる。
こんな優しそうな雰囲気の作品なのに……と不思議に思うかもしれない。実際、序盤の展開はそのイメージ通りだし、中盤以降、雰囲気こそ不穏になれど、その片鱗は残る。だが、この”変化”にはあらゆるものを全否定する力がある。
その力の正体を知りたいのなら、もはや言うことはただ一つ。ダウンロードして遊ぶべし、だ。一旦、クリアまで進める必要はあるが、ぜひその”違い”を成すがままに受け止めていただきたい。そして、おぞましい”絵”へと辿り着いて欲しい。
起動時に表示された警告の意味を身を持って思い知るはずだ。
心に傷を負う危険性を秘めた戦慄の一品
他にストーリーは、細かい所にゾッとする伏線が貼られているのも見所になっている。中には露骨な類もあるが、周回を重ねたり、件の”違い”にまつわる展開を体験した後、気付かされるものが多くある。いずれも一連のストーリーに対する印象を一変させるもの揃いなので、可能であれば全て終えた後もプレイいただきたい。深掘りすればするほど、心の中にモヤがかかっては、取れなくなってしまう感覚に襲われるだろう。
周回しやすいボリュームも魅力。スムーズに行けば1時間程度で終えられる。全てを体験するとなれば、2~3時間ぐらいだ。やり込み要素などはなく、アッサリしているが、その過程で体験するものは簡単には忘れないほどに濃い。いや、むしろ”ねちねち”している。少々表現が適してないかもしれないが、本当にそういう感じなのだ。これ以上は本編にて。
グラフィック周りでもキャラクターのドットはオリジナル、デザインもメルヘンチックで印象に残る。特に先のスクリーンショットで紹介済みだが、クマさんは色々な意味で驚きのキャラクターになっているので必見だ。
探索アドベンチャーとしては難易度低めで、遊び応えも弱い方だ。道中、イベントは充実しているが、そんなにトライ&エラーを重ねず攻略できる。同ジャンル特有の手応えを求めると物足りなさを覚えるかもしれない。
だが、それを補うほどにストーリーと世界観、テーマ性の面で傑出したものになっていて、プレイした人に爪痕を残し、振り払えないモヤをまとわせる仕上がり。まさに見た目からは想像もつかない”なにか”が詰まっている本作。
雰囲気に惹かれて遊ぶも、隠された何かの正体を知りたくて遊ぶも良し。
この不思議の森で繰り広げられる少女「ススム」の活躍を追いかけてみよう。
唯一無二にして、心に傷を負うかもしれない結末がアナタを待つ!
[基本情報]
タイトル:『THE STREET FRIENDS.』
制作者: Q助
クリア時間: 1~3時間(エンディング分岐あり)
対応OS: Windows(※スマートフォンのタッチ、スワイプ操作にも対応)
価格: 無料
備考: 推奨年齢12歳以上(※暴力、出血、ホラー表現あり)
ダウンロードはこちらから
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/21181
※RPGアツマール(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm9242