ろうそく。漢字表記で「蝋燭」。英語で「キャンドル(Candle)」。
「ローソク」、「ロウソク」と書くこともある。「ローソン」は違う。
錦糸などを芯にし、その周囲に蝋を円柱状に固めたものを指す。
主に芯の部分に点火して、灯りとして用いるのが一般的だ。
ただ、灯している間、蝋は徐々に溶けていき、最終的には火も消えてしまう。
そのため、蝋部分の長さごとに燃え続ける時間は変わる。
この性質に着目したゲームで、『キャンドルちゃん』がある。現在、Xbox Oneのほか、PC(Steam)、PlayStation 4、Nintendo Switchのダウンロード専用ソフトとして配信中だ。
今回取り上げるのは、もうひとつのロウソクを題材にしたゲーム。
その名も『揺らめく蝋燭の12室の部屋』だ。
ロウソク全てに火を灯せ。だが、一度点けた火は消せない!
『揺らめく蝋燭の12室の部屋』は、設立20年以上を誇る老舗の個人ゲームディベロッパー「Whatnot Studios」制作のステージクリア型アクションパズルゲーム。海外名『Flickering Chambers』。itch.ioにて、任意価格の設定も可能なフリーウェアとして公開されている。日本語版もセットで公開されており、その題名が『揺らめく蝋燭の12室の部屋』。こちらは日本のフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」でも公開中だ。
▲海外版タイトル画面
内容は単純明快。「ウィックスター」と呼ばれるプレイヤーキャラクターを動かし、部屋(Chamber)内に設置されたロウソクに火を灯していくだけだ。全てのロウソクに火を灯せればクリアとなり、次の部屋へと進む。
ロウソクの灯し方も簡単。キーボード操作の場合、Zキーを押すとウィックスターが火を帯びる。その状態で、ロウソクの芯の部分へジャンプし、直接触れるだけだ。見たまんまのやり方となっている。
が、しかし。ウィックスターはなんとビックリ、蝋でできた人間である。
それすなわち、火を帯びれば溶け始める!
さらに、一度点けてしまった火は消せない!そのまま燃え続ける!
その行き着く先に待つものとは!?
大体、ご想像の通り消滅である。
またの言い方でゲームオーバー。ステージの最初からやり直しになる。
要は、ウィックスターが消滅するまでの内にロウソク全てに火を灯さねばならないのだ。しかも、恐るべきことに消滅までの時間はたった5秒!蝋の長さ、太さなど知ったことかの血も涙も情けも慈悲もない一心同体設定!
このようにやることは簡単ながら、主人公に課せられた制約が強烈で、一筋縄ではいかないアクションパズルゲームになっている。
そして、本作の魅力もその制約こと”5秒ルール”である。
ギリギリセーフを狙う緊張感と道筋を考える楽しさ
一度、燃え始めてしまえば、もう消すことはできない。
燃え尽きるまで一直線の地獄変だ。
そんな短すぎる制限時間の中、いかにして素早くロウソクに火を灯せるか。この一連の過程を考え、実行に移していくのが面白く、いい意味でもどかしさ満点のものになっている。
時間が僅かしかないがゆえ、正確な操作が要求されるのもアクションゲーム特有のスリルに満ちている。しかも、その嫌らしさを際立たせるかのように、一瞬の気の緩みで挽回不能に陥ってしまう場面も多数用意。ものの見事にハマってしまった時は、それはもう「ぬがーっ!!」となること請け合いだ。
人によっては「迷えば、敗れる…」と、誰かの一言がこだまするかもしれない。
また、火を灯した後に起きるのは消滅の運命だけにあらず。蝋でできた人間であるがゆえ、少しずつ身体が縮んでいく。さらに熱を帯びた状態なので、氷の足場に乗ればその場が溶ける。その結果、辿り着けなかった場所へ到達できたりもする。
そう言った特徴を活用し、ロウソクに火を灯すことも試される。なので、単に素早く動けばいい訳ではない。早く動きつつ、仕掛けの把握、最適な道筋を立てるのが全灯への道。
時間が少ないからこその”ベストな作戦”を実践し、結果に結びつける面白さが力強く表現されているのだ。ネタとしてはありきたりなところはあるが、パズルとしての面白さ、やり応えを表現することに徹した仕上がりには唸ること確実。”5秒ルール”という名の時間制約の凄味も合わせて感じるかもしれない。
このスリルを引き立てるステージもよく出来ている。数はタイトル通り12と少ないのがネックだが、個性豊かな仕掛けを設置、応用するなりして遊び応えのある内容にまとめている。解法もそれなりにアクションゲームに対する自信があれば、半ば力押しに等しい攻略を実践できる余地を設けているのも、懐の広さが現れていて見事。その場合に限り、僅かな判断が取り返しのつかない事態を招く危機を一層強く感じながら楽しめるのも、マゾ(M)な人にはたまらないかもしれない。
そんな訳で、もしアナタがギリギリまで追い込まれることに快感を覚えるマゾを自称するならば、本作は相応のスリルを味わえるイチオシの1本と言ってもいいだろう。今になって明かすが、本作は”もぐらゲームス・プレゼンツ”、マゾな人におすすめするゲーム第三弾なのだ。
ちなみに第一弾は『Sundered』、第二弾は『Follow me, please』だ。
物理的な攻めをお求めなら前者を、言葉攻めをお求めなら後者をどうぞ。
短編なのが若干惜しい、アイディア光る良作
脱線はさておき。
とは言え、ゲームとしてのまとまりは素晴らしい反面、ステージ数は12のみならず、もう少し欲しかった。厳密には仕掛けが物足りない。これは筆者が最初に名を出した『キャンドルちゃん』をプレイした反動もあるのだが、「火を灯す」対象はロウソクだけに留まらないはずだ。例えば「花火」、「大砲」とか、それにちなんだパズルもあると、まだ増やせたのではないのか。実際に考えたけど、面白くならなかった可能性もあり得るが、基本システムがよく出来ているからこそ、もうひと押しあればと思う。
また、力押し抜きにギリギリな操作が要求される場面があったり、クリアするのが常にギリギリ続きなのも一考の余地がある。後者は、それもあってマゾな人におすすめできるのだが。ただ、もう少し、瞬時に決着する類のステージが欲しかったところだ。
ほかにもクリア以外のやり込み要素が無いのも物足りない。スコアアタックはまだしも、タイムアタック的な要素はあればやり込み甲斐のあるゲームになっていたと思うだけに、検討してくれていれば、と感じる限りだ。
難易度は高めながら、短編なのであっという間に終わってしまうゲームではある。しかし、シンプルながら巧みなアイディアとスリルが光るゲームルール、どこか懐かしい作風のグラフィックと最小限の音楽など、見所の多い内容になっている。やり応えのあるアクションパズルが好き、スリルを求めている人ならぜひ、チャレンジしてみて欲しい1本だ。もちろん、ギリギリまで追い込まれることに快感を覚えるマゾの方々も。簡単ながらも一筋縄ではいかぬ”5秒ルール”の真価を味わってみよう。
なお、英語版と日本語版の2種類があると紹介したが、ストーリー性は皆無なので、英語版を選んでも全く支障はない。日本語版も翻訳が怪しい感じだが、ゲームルールさえ把握してしまえばあとは大丈夫だ。どちらにするかはお好みで。もし、一昔前の海外製ゲームの雰囲気を感じながら楽しみたければ、英語版がおすすめだ。
[基本情報]
タイトル:『揺らめく蝋燭の12室の部屋 / Flickering Chambers』
制作者:John D. Moore / Whatnot Studios
クリア時間:20分~1時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
※itch.io
https://jdmgames.itch.io/flickering-chambers/devlog/122155/flickering-chambers-aka-