最初に言っておく!
剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ。
大事なことなので、もう一度言っておく。
剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ。
たった一度きりのチャンスなのである。
二度目は……ない。
怪しいカジノを進め。剣が刺さってる男を助け出せ。
急になに!?……と困惑したかもしれないが、今回紹介するゲームのことだ。
その名も文字通りの『剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ』!
2020年4月27日、Windows PC用フリーゲームとして公開された。作者はあの笑撃作『怖い人形が出るKowai』のナンシー氏……もとい。『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』(以下、知らナンシー)のべるず氏である。略して「剣ささ」。ええ、もちろん今回もzipファイルに書かれている通りでございます。異論は認められないはずと思われます。
内容も単純明快。「怪しいカジノ」を探索し、剣が刺さってる男を発見して救出するだけ。そのまんまじゃないかと言われても困る。実際、そんな内容なのだ。ちなみに「怪しいカジノ」も作中の名称通りである。
そして、剣が刺さってる男の名前も「剣が刺さってる男」である。
後々言及するのが面倒くさくなりそうなので以降、「剣ささ男」と称す。
対し、主人公には「無月(むつき)」と名前が付けられている。
基本的に彼女を操作してカジノ内を進む。中では様々な仕掛けに加え、そして剣ささ男を捕らえた数人の「鎖鎌の男」が行く手を阻む。それらを突破し、剣ささ男のいる部屋を目指すのが大まかな流れだ。
「鎖鎌の男」は知らナンシーで言う所の「怖い人形」に当たる。ただ、「祝ってやる」と言いながら襲い掛かってはこない。そんな風に襲い掛かってきたら逆に怖い。ジェイソンとフレディも逃げ出しかねん。いや、むしろ対抗しようとするか?……って、それはともかく。
そんな彼らは特定の部屋にだけ、ツーマンセルで徘徊している。接触すればゲームオーバー……にはならない。カジノの入口に戻されるだけだ。名前とは裏腹に優しい殿方でした。うーん、惚れちゃいますね。
なので、大した脅威ではないのだが、接触すればその分、剣ささ男の元へ着く時間が長引いて、(後述するが)色んな意味で面倒なことになる。ゆえに回避推奨だ。なお、避け方はただ横切るだけでいい。
しかしながら、彼らはステルス迷彩を装備。部屋に入った時は姿が見えるが、しばらくすると消えてしまう。よって彼らの位置を覚え、その隙を狙って横切るのが基本となる。
接近したら気付かれるんじゃ……と思うかもしれないがご安心あれ。ステルス迷彩には”大変都合のいい”欠陥があり、姿を消している時は装着者の視界が狭まってしまうのだ。そのため、触れない限り問題なし!だが、彼らも移動速度が速いなど、動き方に特徴があるので、その点を念頭に入れて行動するのが重要。
このように潜入ゲーム(ステルスゲーム)的な要素も多少備えた探索アドベンチャーゲームになっている。そんな本作の魅力をズバリ一言で申すならば。
剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ、である。
我々には”一度”のチャンスと”運”しかない。
「だから何なんだよ!」と、突っ込まれそうだが、本当に剣ささ男を救えるのは一度だけなのだ。二度目は……ない。一体、どういうことか。全ては本作最大の特徴、ある機能の不在(非搭載)に由来する。その機能とはセーブ!
つまり、途中経過を保存できない!最初から最後まで、通しでプレイしなければならないのである。しかも、それだけじゃない。終盤に用意された剣ささ男の救出イベントで失敗してしまうと、特殊なクリアデータが自動生成される。データが生成されると何が起きるのか?タイトル画面の「救う」が「救えなかった」へと変化し、以降、二度とゲーム本編をプレイできなくなってしまう!幾ら起動したところで、門前払いされてしまうのだ。
ゆえに”救えるのは一度だけ”。二度目のチャンスはないのだ。
なんたる無慈悲!だが、ご安心あれ。それでも再挑戦したい、頼みますよ御代官様のトキメキが止まらない人にお応えする救済措置として、本作のゲームデータを改めて「ふりーむ!」のページからダウンロードし直すか、セーブファイルが格納されたフォルダを直接削除するかの突破口が用意されている。それなら問題なく遊べそうだ、と思うかもしれない。
だがしかし……さらなる罠が本作には存在する。
それは終盤の剣ささ男を救出するイベントだ。
結論から言おう。彼を助けられるかどうかは全て運だ!確率にして推定五百数分の一!そのため、例えゲームデータをダウンロードし直したり、セーブデータを削除してやり直したとしても、彼を救出できる保証は”絶対に”ない。よほど幸運なプレイヤーでなければ、助けるのは無理に等しい、狂気のロシアンルーレット的イベントになっているのだ!
このため、1周目の流れをそのまま再現すれば、失敗の運命はほぼ確定する。
逆に言えば、”変えれば”その可能性が減る。
何を変えるのか。それは主人公、無月の運だ。ステータス画面で確認できるが、彼女には「運」のレベルがある。最初は0だが、カジノ探索中に特殊な行動を取ることによって、この数値が上昇。高ければ高いほど、救出イベントの成功確率が上がるのだ。
しかし、その行動の詳細は救出失敗時だけに表示される、たったひとつのヒントからしか得られない。残りの運を上げるための方法を知りたくば、何度もゲームをやり直し、救出に失敗してはメッセージを確認し、メモを取らねばならないのだ。しかも、ヒント表示も完全に運。何が出るかはサイコロトーク並に分からない!よって、既に見たヒントが表示される骨折り損のくたびれ儲けなオチを迎えることもある。
これこそが本作のさらなる罠。周回前提の作りになっているのだ。そのため、ひとりでプレイするとその回数が膨れ上がる。運次第では2桁行くことも!だが、他の友人数名を巻き込んだ上でプレイすれば、ヒントを効率的に集められ、数を抑えられる。
要は本作、シングルプレイ非推奨なのである。そもそも、本作の正式なジャンル名は協力型探索ホラーコメディ。例え救出失敗に終わっても、他のプレイヤーにそれを託せることが魅力のゲームなのだ。
まあ、先の打開策が象徴する通り、ひとりでもやろうと思えばできるのだが。だが、ゲームデザイン的にはこれ以上なく高い説得力が醸し出されており、まさに一度きりしかチャンスがないためのもどかしさ、スリルが光る内容に完成されている。トンデモ仕様の有効活用とも言える。
それもあって、本当にひとりプレイは辛い。友人が居ないとなお辛い。切なくなっちゃうくらい辛い。そういう意味では、心を抉るゲームと言えなくもない。
だが、そんなプレイヤーへの配慮も万全。周回前提なのを踏まえ、1周に要する時間は長くて1時間半、早ければ20~30分程度なので、やり直し自体、それほど苦にはならない。
マップの作りも丁寧だ。探索範囲を明確に区切る方針で構成されているので、今、やるべきことを見失いにくい。作者の前作に当たる知らナンシーでは中盤以降、探索範囲が急に広がり、どこから手を付ければいいか困惑しやすい難点があったが、その反省が見事に活かされている。
鎖鎌の男と合わせて行く手を阻む仕掛けこと謎解きもホドホドな難易度。解法も単純なので煩わしさを感じさせない。一部、複数回調べないとフラグが立たない仕掛けは、無駄な右往左往を招きやすい難点があるが、あくまでも初見時限定の話。2周目以降は経験と記憶が確かである以上、あっさり解ける。そのまま残る運を上げる行動に集中できる設計だ。
他に救出の成否は運に左右されるからこそ、場合によっては最小の周回数で決着する余地もある。確かに協力すれば、もっと早く決着できるが、ひとりでもその可能性はゼロにならない。この辺はまさに”運”さまさま。上手い具合に設定を活かしている感じだ。
セーブなしで一度きり、助けられるかは運。全てにおいて”トンデモ”すぎるが、実はそれが協力する面白さを演出するためであり、シングルプレイヤーをフォローする救済措置になっているという、驚くほど高度に絡み合った仕上がり。
そして、タイトルの「剣が刺さってる男は一度だけ」を見事に表した内容に構成されているのだ。その特徴からネタゲーやバカゲーの匂いを感じるかもしれないが、それだけではない高度な策が仕込まれた出来。なんとも侮りがたい深みを持つゲームになっているのだ。
この巧みな作りは、同様にネタゲー・バカゲーの側面を持ちつつも、ひとつの探索アドベンチャーとしても完成されていた知らナンシーの作者らしい。そのセンスの巧みさに拍手を送る次第だ。いやはや、鎖鎌の男たち以上に惚れちゃいますね。
それでもこの男を助けるか?助けたくば、行くがよい。
また、ストーリーの(いい意味での)酷さも秀逸。名の通り、本作は捕まった剣ささ男を助ける内容だ。剣が刺さったままの男性とか、過去に酷いことをされた人なのかな、見るだけでも可哀想……と思うかもしれない。
だが、実の所は全くその欠片もないワンダフルクズ人間(※作中より引用)である。「おい!幾ら何でもその言い方は鬼畜すぎるでしょう!思いやりを持てよ!」……だと!?
ならば、要所ごとに挟まる彼と無月の過去の出来事(回想イベント)を見てみるがいいわ!きっと、彼を救う気が失せていくはずだ!むしろ、主人公の無月へ同情の念が湧いてしまうだろう。また、彼の救出イベントにて登場する”脅威”に対してもがく然となること必至。きっと「うわー……」と呆れる!そして、救出成功時に見れるエンディング!きっと頭の中が疑問符で埋め尽くされ、想像力が大暴走のお祭り状態になるはずだ!
なお、無月もなかなかに濃いキャラクターになっている。特にカジノ内に置かれたゴミ箱、観葉植物、スロットなどを調べた際に呟く独り言がどれもこれも珍妙の極み。また、そんな台詞を呟くがゆえ、物を調べる寄り道も楽しい。どこからそんな発想が……と言いたくなるネタ満載なので、ぜひ隈なく調べてみていただきたい。
そこまで長い訳ではないが、イベントデモのスキップ機能がないのがやや煩わしいほか、運を最大まで上げても助けられるかの保証はない、装備欄にある「しゃもじ」と言った気になる点もある。しかし、全体的に思い切ったアイディアと相応のプレイスタイルが異彩を放つ怪作に完成されている。探索アドベンチャーとしても謎解きの面白さと適切なマップ構成など、ツボを押さえた仕上がり。このシステムに少しでもピンとくるものがあるなら、ぜひ保険として3~5個ダウンロードした上で遊んでみて欲しい1本だ。
最後に改めてお伝えしよう。
剣が刺さってる男を救えるのは一度だけだ。もがけ、もがけ。
[基本情報]
タイトル:『剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ』
作者:べるず
クリア時間:1~1時間半(※シングルプレイ時は運次第で大きく上下)
対応OS:Windows
価格:無料
備考:殺傷・犯罪表現”紳士な程度に”あり
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/22667