「魔王と勇者の戦い」といえばRPGの王道ストーリーの一つ。
目指すは魔王城、立ちはだかる四天王、共に戦う仲間たち、勇者の手には勇者の剣!
……ではその勇者の剣はどこから来たのか。誰が作った物なのか。
これはそんな武器屋、「武器商人の物語」。
『エニスの商人-Encore-』は、2010年に発表された『エニスの商人』のリメイク作品。
「魔王と勇者の戦い」というストーリーの中で、普段は「脇役」の存在である武器商人が主人公のゲームです。
制作ツールがRPGツクール2000からRPGツクールVXAceに変更され、システム、グラフィックが一新、追加されています。(大筋のシナリオは変わっていませんが、一部変更や追加もあり)
王道RPGの「脇役」武器商人の物語
『エニスの商人-Encore-』は、主人公クリフの武器商人としての生き方を描く物語重視の第一部、武器屋の経営が本格化し、自由度が一気に増す第二部、の二部構成となっています。
第一部は、クリフ、ヒロインの勇者セネカ、二つの視点で進みます。
セネカ視点では、様々な人と出会いながら魔王城へ進んで行く王道勇者ストーリー。
対してクリフは武器商人らしく、武器を戦場に売りに行ったり。武器職人要素もあるので、素材集め、武器製造をしたり。
武器屋なのですが、第一部で店に立つ機会はほぼありません。
原因はエニスの町の玄関口に建っているシャイロック商会。
シャイロック商会はライバル店となりますが、その便利さはプレイヤー視点でも理解できる所だと思います。
大量生産により安定して買える武器、防具、道具、薬、アクセサリー。ドロップ品の売却、銀行。この施設が町の玄関口にある!
実際プレイで一度もお世話にならなかった、という人は相当稀でしょう。
エニスの町に道具屋、防具屋は他にもありますが、よっぽどの拘りプレイではないとそちらを利用する事はない……というくらい便利です。
そのようにプレイヤーがシャイロック商会の便利さを理解出来るからこそ、クリフの武器屋がどれくらい厳しい状況かを理解できるという作り。
だからこそ、値段を上げても質を良くする、町で一番近いところがとれないのなら、戦場に直に売りに行く!
第二部からは経営も本格化し、知名度アップのために新聞に公告を載せてみる、看板を出してみる、お店の内装にこだわってみるなどなど、努力するクリフ達に入りこみやすい作りになっています。
商人として売る!買う!
そんなクリフ視点の醍醐味、戦場で武器を売る商人パート。
武器種によって需要も値段も様々で、どれをどのくらい戦場に持って行くかが悩むポイントです。
そして客である冒険者の性格も様々。優しい声をかけてくれる人もいれば、厳しい態度の人も。
筆者はついつい優しい人にはマケてしまうタイプです。
そして、厳しい人には値段を吊り上げてしまう。でもその値段で気持ちよく買って貰えるようになると、ちょっと自分の成長を感じたり……。
と、値段、需要、お客様のタイプで、プレイヤーによって様々な商売が出来るところが魅力です。
そして商人として「買い」の方も個性的。
戦場では、クリフと同じように、雑貨屋や、防具屋なども商売をしています。
第一部では、あまり買う必要はないのですが、第二部からは上位防具、アクセサリーは宝箱と商人からしか入手できなくなるので、積極的に買っていきたいところ。
商人らしく、値切る要素もあります。
そして特徴は、防具、アクセサリーのステータスが分からないところ(店売り商品以外)
クリフ(プレイヤー)は、売り文句と、値段でどれくらいの商品なのか、さらに誰が装備できるかを予測し、買いながら学ばないといけません。
これはきっとお買い得商品だ!と買った物が、後で更なる安売りでやって来て頭を抱えたり、
逆にまだ様子見!と思ったら、後々超お買い得商品だと分かって悔しい思いをしたり、
値切れたぞ!と喜んでいたら、値切れた額でもまだまだぼったくり価格だったり……。
”分からない”からこそ、経験を積み、クリフと一緒に商人として成長出来る要素となっています。
会話、ボイスで魅力が増す個性豊かな傭兵達
商人であるクリフは、基本的に戦闘があまり得意ではありません。
そのため、護衛に傭兵を雇うことになります。
傭兵はタイプによって様々。戦場の適正も様々であれば、レベルによって雇用金額も変わってきます。
傭兵との会話も特定のイベントによって途中で変化したりなど豊富に用意されています。
今作ではさらに追加で、特定の傭兵同士がPTにいると、キャラ会話が起こることも。
会話にはパートボイスもあり(ボイスは傭兵以外のサブキャラクターにも)、
ストーリーに華を添えています。
バトルボイスも豊富に用意されており、今回は同制作元の「TREASURE TROPHY」作品である『アークベリー英雄列伝』でも採用されている声掛け要素が追加されました。
バフや回復を貰った時にお礼を言う、誰かが倒れたら声を掛けるなど、キャラクター、PTに愛着が増す魅力的な要素です。
じっくり楽しむかサクサク飛ばすか選べる戦闘システム
戦闘は手動、自動、節約(通常攻撃だけ)を選べ、戦闘の挙動を飛ばせる高速処理もあります。自動(オート)では、使うスキルや魔法をON,OFF出来るという便利要素も。
回復も、新しく出来た弁当装備で自動で出来るので、雑魚戦は本当にサクサク進行できます。
ボス戦もTP技(攻撃すると溜まるTPで放つ必殺技)を叩きこめばそこまで苦戦はしないはず。戦闘が苦手な人のためにイージーモードもあります。
基本的には、商人要素の方がメインで、戦闘は戦闘好きな人が拘ればOKという印象を受けました。ゆえに拘る人はTP技をある程度縛るのがおすすめ。
雇用する傭兵が増える二部以降ですが、ターン初めに隊列を自由に変更できるようになります。この辺りも『アークベリー英雄列伝』に近しいシステム。
回復が必要な時だけ回復役を前にだしたり、バフデバフ要員は使ったら下げ、魔法が効く相手は魔法使いを~と戦況によって自由に入れ替えながら戦えます。
終盤の一部ボスは形態変化するボスや、タイプの違う敵との連戦などもあるので、このシステムがとても活きてきます。
戦闘を楽しみたい人はTP技を縛りつつ、バフデバフを使いながらじっくりと。
その辺りをサクサクやりたい人はスムーズに飛ばせるシステムとなっています。
王道RPGの一部から、自由度の高い二部へ
一部のストーリーは、魔王も四天王も、あえてどこかで見たような既視感を感じる者となっています。
そうすることで、今までどこかで見た「魔王と勇者の戦い」を想起させるような作り。
その中で、どこまでも自分の「武器商人」としての役割を全うしようとするクリフの姿に胸をうたれました。
そして一部が終わると、ぐんと自由度が上がった二部が始まります。
さながら、一本のRPGをクリアした後に、その世界で自由に暮らせるような雰囲気。
二部には、メインストーリーとは別に、傭兵達のキャラクターエピソードが発生します。一部では少ししか出ていなかった傭兵達の背景。
彼らなりの生き方が、クリフの生き方をさらに考えさせる構造になっており、テーマに深みを与えています。
日数によるデメリットは基本的にないので、経営と商売、キャラクターエピソードを楽しみながら、二部もじっくり楽しんで欲しいです。
[基本情報]
タイトル: エニスの商人-Encore-
制作者: 雪桐せいら
クリア時間: 推定15~30時間程度
対応OS: Windows
価格: 無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/22900