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Channel: フリーゲーム –もぐらゲームス
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ランタイムパッケージのキャラクターが織り成す、大長編フリゲSRPGにして力作『ランタイム・サーガ』

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サファイアソフトのシミュレーションRPG(SRPG)制作ツール「SRPG Studio」の発売以降、同ツールを用いて作られたフリーゲームのSRPG作品は大幅に増えた。そのバリエーションも伝統的な長編に留まらず、短編もあったりと、大変豊かになっている。また近年の家庭用ゲーム機では忌避されやすい、人を選ぶ高難易度を持ち味とした作品も多い。それも全てはフリーゲームという、自由な制作が許された環境の賜物と言ったところだ。

もちろん、幅広いプレイヤーを対象にした難易度を持ち味とした作品もある。今回紹介する『ランタイム・サーガ』は、まさにその代表作と言ってもよい1本であると同時に、圧倒的なボリュームを誇る長編……もとい。大長編だ。

その名に反して全部に”手が入った”、こだわり尽くしのSRPG

『ランタイム・サーガ』は2017年9月、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開されたターン制SRPG。その名の通りに『SRPG Studio』のランタイムパッケージ(RTP)のキャラクターたちの活躍を描く作品である。


▲このツール収録のサンプルゲームのキャラクターたちが名前そのままに登場する。

題名と特徴から、ゲーム中のグラフィックなどもRTP素材で作られていると想像するかもしれない。
だが、用いているのはキャラクターの名前、衣装などの元設定のみ。

デザインそのものは、作者が描いた独自のものになっている。

また、一枚絵(スチル)も豊富に収録。イベントデモを盛り上げる。

メニュー周りもデフォルトのものではなく、アレンジしたものを採用。

ターン開始時の演出も、これまたデフォルトのものは使用していない。

極め付け、戦闘シーンも大幅なアレンジを施した設計だ。
特にキャラクターはビックリするほどよく動く。
どれだけ動くのかは……

このgif動画で大よそお分かりになるだろう。

システム周りも同様に工夫が凝らされている。
基本はSRPG Studioの定型に沿った王道路線。味方のユニット(駒)をカーソルで選び、マップ上を移動させたり、敵ユニットに攻撃を仕掛けるなりして勝利条件の達成を目指すものだ。武器の回数制限のほか、某有名SRPGにちなんだ「攻速」のステータスが相手より4以上だと追撃(2回攻撃)が発生する戦闘の仕様、命中率を上下させる武器ごとの相性(三すくみ)も踏襲している。ユニットそれぞれに設定された特殊技能こと「スキル」もまた然りだ。

そして、ユニットが永久に失われるロスト制も採用されている。だが、体力(HP)がゼロになったら即退場とはならない。本作のロストの条件は、キャラクターそれぞれに設定された「生命力」が0になった時になっている。

なので、これが0でない限りは例え戦闘で敗北したとしても撤退扱い。いわゆる”猶予”を持たせた、緩いロスト制になっているのだ。主人公ユニットだけは対象から外れるが(※敗北すればゲームオーバー)、この特徴も相まって、システムとは裏腹に気負わずマップ攻略を楽しめ、集中できる作りになっている。

「生命力」以外にも独自要素で「戦術点」がある。いわゆるボーナスポイント。マップごとに設定された特殊な条件を達成すると1点換算される。沢山溜まれば、マップ開始前の拠点メニュー内にある「戦術点消費」から特別なアイテム……。

もとい。”平凡な”アイテムと交換ができる。
いや、それはあんまりでは、と思うかもしれないが実際、沢山溜めた所で特典はない。
むしろ溜めれば溜めるほど、ゲーム全体の難易度が上がる。

要はこれ、プレイヤーの実力を可視化させる数値なのだ。ゆえに値が高いと敵のステータスが強化されたり、増援が増えるなど、厳しい展開が増加。腕前に応じた調整が行われるのである。

このため、無理に狙う必要はなく、熟練者を対象としたチャレンジ要素としての位置づけになっている。「戦術点消費」はその手の展開を避けるため用意された選択肢なのだ。昨今はゲーム開始前に難易度を選び、プレイヤー好みの加減で遊ぶのがSRPGの定番になったが、それとは異なるアプローチをしたシステムで、非常に意欲的、かつ興味深い魅力を秘めたものに仕上がっている。
ただ、難易度選択機能自体は本作にも備わっているのだが。

ほかに本作独自ではないが、ユニットの育成とお金稼ぎに最適な「闘技場」、2種類の上級職を選択できる分岐式クラスチェンジと言った要素も。

特に前者は拠点メニューから選択する形式かつ、ユニットをひとり出撃させて対戦相手を決めて戦う独特なものになっている。しかも、敗北しても生命力は減らない親切設計。ただ、武器は所持しているものを持ち込む形のため、耐久値の減り具合に気を配らなければならない。また、これが選べるのは特定のマップのみ。さらに「難しい」以上の難易度では、挑戦回数が限定されるので注意が必要だ。

若干、割愛した点もあるが、このようにゲーム側も「SRPG Studio」の定型に則りながらも、「生命力」と「戦術点」で独自の手応えを表現した内容にまとまっている。RTP由来な箇所はキャラクターの名称と衣装周り以外、ほぼ無し!その名とは裏腹に細かい所にまで手が入った、こだわり満載のSRPGに完成されているのだ。

「そこまでやる!?」と言いたくなる、作り込みの数々

魅力は何と言っても、全編に及ぶ深すぎる作り込みの数々だ。
その中で最も際立っている所はと聞かれれば、戦闘シーンを挙げる。

gif動画とセットで紹介した通りだが、本当にキャラクターがビックリするほどよく動く。特に必殺(クリティカル)攻撃は見ているだけでも楽しく、爽快な気持ちにさせてくれる。しかも、クラスチェンジ実施後の上級職では、それらがより仰々しいものへ進化。まるでサーカスの曲芸のような、派手にも限度があるアクションを見せるようになるのだ。

特定の武器に限定されたアクションも派手。主にゲーム終盤に初登場する武器のものは、どれもこれもクライマックスに相応しいインパクトに満ちている。さすがにこれらはgif動画による紹介はできないが、一連の演出に込めた作者の熱量を汗が噴き出す程度に感じさせられる仕上がり。そこまで到達して拝むだけの価値があるものになっているので、ぜひその目で確かめてみて欲しい。

戦闘シーンと並ぶもので、クラスチェンジ後に変化する各キャラクターの立ち絵も凄い。本作には総勢50名近いキャラクターが味方ユニットとして参戦するのだが、なんと大半に上級職専用兼ステータス画面用の立ち絵が用意されている。最初から上級職のユニットは例外だが、それを抜きにしても40名近い結構な人数。さらに敵、同盟軍の一部キャラクターにも専用の立ち絵を用意。もちろん、何度か出番のあるキャラクターには2種類用意し、戦闘シーン用にも独自の動き(アクション)を設定しているのである。

控え目に言って、やり過ぎとしか言い様がないこだわりぶりだ。そして、このように作られているだけに、どのユニットも上級職にクラスチェンジさせたい、それぞれの戦闘シーンも見たい気持ちになる。そのための過程である育成も、マップの攻略も、時間を忘れる勢いでやってしまう。そんな具合にゲームを遊ぶ動機付け、モチベーションを維持させるための施策としても機能させてしまっているのである。

これを「そこまでやる!?」と言わずとして何と言おう。冗談も何もなしに、本当にこれだけでお腹いっぱいになるほどの魅力がある。文字通りの作り込みの深さを叩きつけられるものになっているのだ。いくら何でも言い方が大げさと申されても、本当にそう言いたくなる凄さゆえ仕方がない。少しでも気になるなら、ダウンロードして最初のマップをプレイしてみていただきたい。大げさに言った意味を思い知らされるはずだ。

SRPGとしての作り込みも凄い。何と言ってもボリュームが圧巻。マップ総数60以上、平均クリアタイムは30~40時間、やり込み要素も網羅するなら約3倍は要すことになり得る、紛うことなき長編となっている。

さらに本作独自の「戦術点」によって、プレイスタイルに応じて攻略の過程も変化。1周だけで全容を掴むのは無理に等しい、複雑な展開を演出する。また、選択肢によって以降のマップが分岐したり、味方になるユニットが変わる仕掛けも。当然、どれも”一期一会”なので、全部の変化を確かめたいならセーブファイルを個別に作るか、作り損ねたなら最初からやり直すしかない。敵に関しても一部、トドメの刺し方によって顛末が変化するので、やはり全パターンを確かめるなら複数回プレイ必須。

ほかに4種類用意された難易度でも全く異なる手ごわさを表現。中でもセーブが行えるターンが限定される「難しい」、「ベテラン」は熟練のSRPGプレイヤーも唸るバランスと”手ごわいシミュレーション”を堪能できる。

標準難易度の「普通」も優しすぎず、難しすぎずの適度な塩梅。ユニットを育て過ぎることで後半の難易度が低下する、SRPGにありがちな展開も武器にスキル、勝利条件などの要素を駆使して防ぐ措置が取られており、終始、緊張感を保ったまま遊べるのが素晴らしい。マップの作りも豊富なイベントと、著名なSRPG作品のオマージュネタも仕込んだユニークな仕上がりで、どこも強い印象を残す。

裏を返せば、量が量だけに胃もたれしかねない部分もあるが、これだけの物量を破綻なく詰め込み、まとめ上げているのは単純に凄い。どうしても見た目の方に注目してしまうが、こんな具合にゲーム側の密度も相当なもの。こう言った所も「そこまでやる!?」と言いたくなる作り込みが炸裂しているのだ。「どんだけ……」ともボヤいてしまうかもしれない。

SRPG Studio製タイトルの象徴的一作にして大作

ストーリーも2部構成で、1部では小国を舞台にした内乱、2部では大陸全土に及ぶ戦乱と歴史の謎に迫る展開が描かれる。主人公も1部は『SRPG Studio』のシンボルキャラクター「ナッシュ」、2部は帝国の皇太子「イジュラン」とそれぞれ異なる上、内容の規模も大きく差別化されている(※1部が短編、2部が長編と言った具合)。ただ、1部と2部のどこからでも始められるようなことはできず、構成的には1本道。その関係で周回を楽しむには若干、重く感じやすい作りになっている。

肝心のストーリーも愚直なほど王道ファンタジー一直線。国家間の腹の探り合い、どんでん返しなどを求めると物足りなさを感じるかもしれない。ただ、節目ごとに驚きの展開はあり、つい先が気になって進めたくなる訴求力はある。特に終盤、決戦の地はそれまでの世界観から一変した場になっているので必見だ。

キャラクターたちも個性豊か、かつ好感の持てる人物が多い。特に最序盤で仲間になる「ルーシー」は、つい優遇したくなる魅力があるので注目だ。

気になる箇所では出撃枠の小ささがある。50名に及ぶキャラクターが登場しながら、大人数が参加するマップが少なく、二軍落ちが生じやすい。これほど多くのキャラクターが登場するなら、過度に絞り込むような設定は避けて欲しかった限りだ。ただ、プレイヤーの攻略の幅を狭め、自由な遊び方を否定する複数人強制出撃系の展開があまりないのがせめてもの救いではある。

それ以外では武器熟練度、ストックに溜められるアイテムの最大数。前者は武器を使い込んで熟練度を貯めることでランクが上昇し、高位の武器が使えるようになるシステムだが、ランクアップに必要な熟練度の値が高い。その影響で高くしたい場合は若干の作業が生じてしまう。バランス的に難しい所だが、もう少し値を下げても良かったように感じた。後者も本編で結構なアイテム、武器が手に入っては溜まっていくのを考えると300は少ない。せめて500ぐらい確保してくれればと思ってしまった。

それら惜しい箇所はあるが、全体の完成度は高い。紹介が漏れたが、音楽のチョイス、それを用いた演出も素晴らしく、ここぞという場面で、曲が相応のものへ切り替わるのが熱い。サウンドテスト機能が備わっていて、自由に聴き放題なのも嬉しい所だ。

とにかく語り尽くせないぐらいの魅力が詰まっている本作。SRPG好きも、あまりSRPGを遊ばないプレイヤーにもおすすめできる力作にして傑作だ。「SRPG Studio」のゲームの中で最初に遊ぶべきタイトルは、という時の最有力候補としても申し分なし。RTPキャラクターたちの熾烈な戦いの軌跡を追いかけよう。

[基本情報]
タイトル:『ランタイム・サーガ』
作者:ちゃぼすけ
クリア時間:30~40時間
対応OS:Windows
価格:無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/15629


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