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Channel: フリーゲーム –もぐらゲームス
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あなたの言語野の限界に挑んで鍛える、革新的”ことばのパズル”RPG『ベビーシッター2XXX』

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なるほど、ベビーシッター。
赤ちゃんをあやすゲームか。
それも近未来の世界で。

という具合にタイトル画面から想像できる本作『ベビーシッター2XXX』だが、赤ちゃんをあやす要素など無いに等しいロールプレイングゲーム(RPG)である。
またの言い方で、3文字で敵を殺すRPG。

物騒すぎると言われても仕方がない。
本作は次のようなオープニングと共に始まるからだ。

3文字の”コトダマ”で戦うRPG

その昔、日々飽きもせず悪口ばかり言う男がいた。
ある日、彼がいつものように口を開くとぽろぽろと”かな”文字が出てきた。

しばらくして、その”かな”文字を上手に使えば人を殺せることが分かった。
彼は悪口を止めず、やがて”かな”を巡る大戦争が勃発。
人類は滅びかけてしまったという。

『悪口男大戦争』より。

お察し頂けただろうか。

なお、舞台となるのはそんな戦争から大分先と思しき未来。仮名文字拾いで食い扶持を稼ぐ少女「ククル」が、森の中で出会った謎の少女を世話しながら、仮名文字集めと両親捜しに勤しむという物語である。

ゲームとしてはノンフィールド型RPG。その名の通りにマップは存在せず、会話シーンと戦闘を主軸に展開されるRPGだ。

本編はステージクリア方式で進行。画面左上に表示された歩数分、歩き切る(前進し続ける)ことを目指す。残り歩数が0になればステージクリア。そのまま次のステージが始まり、再び歩数分歩き切るのを目指すことになる。基本的にはこの繰り返しだ。

ルート分岐もなく、ひたすら前進することに徹するので探索要素も薄い。ただ、前述の通り戦闘は存在。歩いている途中で強制的に発生する上、逃走もできないので、勝利しなければ先に進めない仕組みとなっている。

戦闘システムも奇抜。現在手にしている仮名文字から、3文字の”コトダマ”を作って攻撃や防御、回復などの行動を実施していく。言うならば”ことばのパズル”をしながら敵と戦うのである。もっと露骨に言うばらば”ぴったん”である。なんだか愉しげな歌が聞こえてきましたね……。

とにもかくにも、「あんた」、「せなか」、「きたい」と言ったコトダマを手持ちの仮名文字の中から作り、行動を起こしていく形になる。攻撃、防御のどちらが発動するかはコトダマの意味によって変化。例えば後者なら、場所や体の部位に関するコトダマを作れば発動する。「せなか」がそれに当たる。他にも種類によっては回復、基礎ステータス上昇と言った効果が出たりもする。

また本作最大の特徴として、仮名文字は使い捨ての資源(リソース)というのがある。読んで字の如く、コトダマを作る際に用いた仮名文字は一度使うと無くなってしまうのだ。厳密には攻撃用のコトダマを作って発動させると、3文字全部無くなる。防御や回復のコトダマの場合は1文字だけ消失し、ランダムで2つの仮名文字が追加される。

なので、下手に使いすぎるとコトダマが作れなくなる。しかも、持てる仮名文字は最大18個。50音全てではない。さらに追加の仮名文字を入手する機会もステージ進行中に拾うか、行商人から買うことに限定されている。加えて、何の仮名文字が手に入るかはランダム。

コトダマの組み合わせも基本、プレイヤーが手探りで考える。全部という訳ではなく、特定の敵との勝利時に現れる「タマゴ」を割ると新たなコトダマの組み合わせが分かり、「コトダマ辞典」に登録されるようになっているが、それでも持っている手札(手文字?)の中から考え、作り出さなければならない。

まさにカードゲームとローグライクの要素を掛け合わせた、独特な工夫が凝らされた作りになっているのだ。これもあって、戦闘中ではプレイヤーの語彙力と、手札の中から次のコトダマの組み合わせを考え出す発想力が勝利へのカギとなる。

相応に頭もズキッと来るほどに刺激。
ゆえに”脳を鍛える”系のRPGにもなっている。

制限の数々が脳を刺激し、時間を吸い取る。

そんな本作の魅力は、ここまで紹介した通りである。
”ことばのパズル”に高い戦略性をプラスした戦闘システムだ。

特に18個しか仮名文字を持てない制限が絶妙。これにより、次の戦闘ではどの文字を使い、どの文字を残したままにして後の強敵に備えるかという戦略を練るのが非常に楽しい。仮名文字の補充手段が限定されていること、ランダムなこともその楽しさを引き立てており、やり直す度に全く違った展開になる。

さらに本作には「ぞろ目コンボ」なる技もある。3文字同じ仮名を並べれば発動する強力な必殺技だ。その威力たるや、攻撃に防御などの全コトダマの効果を最高レベルでまとめて発動させるというもの。名実共に窮地を打開する際に役立つ技になっている。
だが、3つ揃えるのは結構難しく、仮名文字が大量に集まって連続してコンボを出せるようになったとしても、それは所持制限の圧迫に繋がるため、反って作れるコトダマが制限されてピンチを招くことにもなる。そうならないためには使うものと残すものを選別し、コンボを作れる流れを作り上げていかなければならない。しかし、それが上手くできるかはプレイヤーの判断と仮名文字のラインナップ次第。

このことから、クリア後も再度、やり直してみたくなる面白さがある。

難易度も良心的。前述の通り、残した仮名文字によってはコトダマを作れなくなってしまうことがあり、その場合はステージクリア不可能な”詰み”になる。
だが、ステージの最初からやり直すリセット機能が備わっているので、完全な行き詰まりは起きない設計。しかも、ククルと謎の少女こと「コトコ」のステータスをステージクリア推奨の値に設定してリトライする選択肢も用意されていて、力に任せた再挑戦も実践可能となっているのだ。もちろん、それを選ぶことによるデメリットもなし。それまで戦いを通して覚えたコトダマの記録(図鑑)も引き継がれる。

基本的な難易度設定自体は高めで、特にステージ2以降からはプレイヤーの戦略が結果を左右するバランスになるのだが、この配慮のおかげで詰んだ状態になってもモチベーションを殺がれにくい。正攻法で挑むもよし、甘えるもよしの良心的な設計で、気負わず遊べるのだ。しかも、甘えた場合でも仮名文字を管理する面白さは損なわれない。むしろ、やり直す度にコトダマ作りのコツ、安易に使わない方が良い仮名文字も分かるようになって、プレイスタイルが露骨に変わっていく。同時に自分なりの管理方法も身について、戦略的な判断が下せるようになってくるのである。この辺の上達が目に見える形で現れてくる調整も絶妙で、易しくしても戦闘システム上の醍醐味は厳守するという見事なこだわりが現れている。

何より、3文字のコトダマを作り出すのが簡単そうで難しいのがイイ。プレイすると思い知らされるのだが、これがなかなかどうして出てきそうで出てこない。3つほど作れる有利な状況下でも、答えを出すのに時間を要する己を知ることになるのだ。
個人差もあるが、この出せそうで出せない感覚には猛烈なもどかしさを感じること間違いなし。そして、気付いた頃には数十分も経過していたという、無意識に時間を吸われてしまう戦慄の恐怖体験を味わうことになるだろう。

裏を返せば、時間的に余裕のない最中に手を出すのは危険なゲームである。また、コトダマは実に3800以上が登録されているのだが、ちゃんとしたコトダマのはずなのに何の効果も発生しない”ハズレ”も相応にあり、ストレスを感じてしまうところもある。

コトダマを作る際にも辞典を参照できるのだが、現在の手札の中で作れるコトダマを教えてくれる機能はなく、基本索引から探し出さねばならない点も同様の思いを抱くかもしれない。とは言え、そのような機能を入れるとコトダマを作り出す面白さそのものが壊されてかねないので、無いのは自然な措置と言えるのだが。

ハズレ絡みの粗は色々と惜しいが、システム自体の面白さは盤石。また、制限時間のような急かす要素がないのも嬉しい。おかげで落ち着いて言葉を作り出すことに集中できる。戦闘も相手となる敵が次にどのように行動するのかが可視化されるので、常に公平な展開が繰り広げられるのも秀逸だ。

複数の強敵との戦闘が展開されるなど、ワンパターンにならない工夫が凝らされたステージの構成も見事。後半にはストーリー展開に応じた意外な出来事も用意されており、工夫を凝らしたことの真価を思い知らされるはずだ。

コトダマごとに表情が変わる演出も楽しい傑作

そんなストーリーも、前述の「悪口男大戦争」に象徴されるゾッとする設定はあれど、基本的に明るい作風。お金大好きなククルと無邪気なコトコの愉快な掛け合いで楽しませてくれる。

2人は作ったコトダマに対し、様々な表情(リアクション)を見せてくれるのも面白い。主に下ネタ系のコトダマを決めた際が面白いのでぜひ、お試しあれ。どんなコトダマが用意されているのかは自主検閲により載せません。各々ご想像ください。

他に戦闘システムが象徴する通り、操作はマウス主体なので仮名文字選択は非常にスムーズ。辞典もキーボード操作に対応しているので、全くもってストレスを感じさせない。また、インターフェース周りもイベント中はイベント中と露骨に表示されるなど、個性的な作り。背景やキャラクターデザインも手作り感溢れるもので、独特の雰囲気を醸し出している。中でもククルの母親のデザインは大変衝撃的なので要注目だ。きっと「ええぇ……」となる。

ボリュームもエンディングまで大体2~3時間ほどで、ステージごとの変化の付け方もあって、物足りなさはほとんど感じさせない密度。とにかく”ことばのパズル”風の戦闘システムが異彩を放つ仕上がりで、このために体験する価値があると言ってもいい傑作に完成されている。執筆時点でも「第12回 WOLF RPGエディターコンテスト」(ウディコン)公式サイトの応募作品ページからしかダウンロードできないのが勿体ないと思うほど。

今後、「チャレンジモード」を始めとする新要素追加のアップデートが検討されているようなので、それらが実装されてから公開されるのかもしれないが、現段階でも遊んでおくべき魅力がある。一風変わったRPGを求めの方はもちろん、”ことばのパズル”のファンも遊んでみて欲しい1本だ。かなりおすすめです。

[基本情報]
タイトル:『ベビーシッター2XXX』
作者:二六千里
クリア時間:2時間~3時間
対応OS:Windows
価格:無料

※ダウンロードはこちら
https://www.silversecond.com/WolfRPGEditor/Contest/entry.shtml#73


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