つい先ほどまで、コンビニの前でアメリカンドッグとチーズフォンデュ……ではなく、鮭茶漬けを食べていたヤンキーの「ヤン子」は何者かに背後から襲われ、眠らされてしまった。
気が付くと、そこは薄暗い地下の密室。その壁には……
おまえを 監禁(かんきん) した
ここからは 出(で)られない
……と、親切に振り仮名付きのメッセージが貼られていた。
ありがたいけどナメてんじゃねえぞとガチギレのヤン子は、謎の地下空間から脱出するために行動を開始する。だが、この地には緑色の禍々しき”なにか”が徘徊していたのである。
『カッパがマジやべえVR』は、アメリカはカリフォルニア州には住んでいないヤンキーがたったひとりで作り上げたVR探索ホラーアドベンチャーゲーム。20XX年□月△日にWindows PC向け無料ゲームとして公開された。ヘッドセットはValve Index、HTC Vive、Oculus Rift(Rift S)、Oculus Quest、Oculus Quest 2、PlayStation VRなどの現行の主要機器に完全非対応。言語も日本語のみ。Steam、Viveport、Oculus Store、itch.ioではヤンキーの登録及び申告漏れにより作品ページが存在せず、どういう訳か日本のフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」の方に開設されている。
お察しの通り、正式名称は見出しの序文です。
……なんか聞き覚えのある前置きだな、と感じた人はお察しの通りである。
正式名称は『VRをよく知らないヤンキーが作ったガチ系ホラーVR』。2020年12月29日、Windows PC用フリーゲームとして「ふりーむ!」にて公開された。その名が匂わす通り、架空のアメリカ人女性が作った和風探索ホラーアドベンチャーゲーム『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』(紹介記事)のコンセプトを継承した事実上の続編である。そのため、作品の略称も「知らヤンキー」と前作を完全踏襲している。もちろん、zipファイルにもそのように書かれている。
寒いとか言っちゃいけない。今回は作者が作者だ。ガンとばされた挙句に腹パンされるぞ。
なお、前作に当たる『知らナンシー』は『RPGツクールMV』で制作されていた。今回は最新の『RPGツクールMZ』製。満を持してのもぐらゲームス初登場のMZ作品である。めでたい。だが、これを記念すべき1本目にしていいの……って、殺気を感じたので、とっとゲーム内容紹介に入る。グダグダやっているとメロンパンにされかねない。
とは言うものの、基本的な内容は単純明快である。
地下から脱出せよ。
それ以外に何をしろというのか。
ただ、本作はVR。視点構成は一人称(主観)で、この形式で地下空間内での移動、探索を行っていくことになる。ファースト・パーソン・シューター、略してFPS(えふぴーえす)のようなものと言えば想像しやすいだろう。本作の場合、シューター要素が皆無のため、ファースト・パーソン・アドベンチャー、略してFPA(えふぴーえー)が正しいが。
また、この視点と言えば懸念されるのがVR酔い。あの乗り物酔いに近い気持ち悪さを発症させる現象のことだ。本作もプレイ中、その恐れがあるのかと警戒心を抱くかもしれないがご安心いただきたい。移動及び視点変更はVR酔い対策に最適なワープ方式を採用。スムーズに動くのではなく、コマ送りで各種動作が実施される仕組みだ。そのため、酔う心配は皆無。上下方向に視点を切り替える操作も用意されていないので、その点でも安心。VR初心者には大変優しい設計になっている。
VRヘッドセット完全非対応だが。
ただ、薄暗い地下の舞台設定を反映してか視認可能な範囲は狭い。このため、奥に何があるかは詳しく確認できない。これが何を意味するのかと言えば、探索においては地形を覚えることが求められる。下手に動き回ると、同じ所を何度も行き来して右往左往するハメになり得るため、道の繋がりなどを頭に叩き込みつつ、一歩ずつ進んでいかねばならないのだ。ヤンキーが監禁された状況を踏まえてか、地図(およびオートマッピング機能)もないので尚更。地味にシビアな設定だ。
さらに地下空間内には、ヤンキーをつけ狙う禍々しき緑色の怪物……
その名も「きゅうり人間」が徘徊している。
こいつに出会えば、ヤンキーはパニック状態になり、地下空間内を雑に動き回ってしまう。ゲームオーバーにこそならないが、それまでプレイヤー側が覚えていた地形、道などの記憶がリセットされてしまうのである。しかも、こいつに遭遇するか否かは完全に時の運。またの言い方でランダム。冗談でもなんでもなく、普通にビックリさせてくる存在なのだ。ガチで怖い。ククリナイフ持っててマジヤバい。「祝ってやる」の人形の方がまだ優しかった。嬉しかった。あの頃は良かった。
いや、でもゲームオーバーになる点ではこっちの方が優しいか?
とにもかくにも、そんな具合に知らナンシー同様、内容は単純なのだが、本気でビビらせてくるVR探索アドベンチャーゲームになっている。そして、魅力もまた知らナンシー同様、VRをよく知らないヤンキーが作ったことに集約される。要は全編先入観の塊である。
VRを知らず、先入観に身を委ねた結果がご覧の有様です。
そもそも、何度か書いたように本作はVRヘッドセットに完全非対応である。
普通にモニターを通してプレイする。
主人公のヤン子が見ている世界をそのまま体験するなんてことはできない。VR酔い対策に有効なワープによる移動方式を採用していると言っても、そもそも覗き込む訳でもないから、酔いなんて起きるはずがない。
つまるところ、本作のプレイ感はいかなるものなのか。答えはシンプルだ。
一人称視点のダンジョンRPGそのものである。
著名な作品の名を挙げれば、ほぼ『ウィザードリィ』なのだ。
念のため、『世界樹の迷宮』も挙げておく。
さすがに探索アドベンチャーゲームゆえ、戦闘要素は無いが。ただ、1マスずつコマ送りでゲームが進んでいく過程には、その手のゲームのプレイ経験があるなら、「ただの一人称視点のダンジョンRPGじゃないか!」、「どこがVRやねん!」と言いたくなるだろう。ガンは飛ばさないようにしてください。
しかし、VRをよく知らないヤンキーが作った設定を思えば、VR未経験者の先入観というものを地味に考えさせられる内容ではある。
現に作中では数多くの先入観ネタが仕込まれている。例として、
無駄にデカい焼きそばパン。
無駄にデカいメモ。
デカい焼きそばパンを持っている時の左斜め上向き表示。
釣り要素。
いずれも、VRが一人称視点であることから連想されるネタで、よく知らないとそのような考えに結びつくのかと、色んな意味で頭を抱えたくなるインパクトを醸し出している。探索時の脅威として登場する「きゅうり人間」もまた然り。
”本当の”VRホラーゲームだと、前触れになる演出を挟む、音を鳴らした後、ズドンと来る伏線パターンが目立つが、本作は何ひとつ前触れもなく現れる。「これがVRだったら心臓が持たんぞ」と物申したくなるキャラクターになっているのだ。まさにVRをよく知らないがゆえに生み出された怪物。
そもそも、ヘッドセットなしでも十分にビックリさせられる。何せ出現の法則は時の運という名のランダムだ。登場時の演出こそマヌケなノリだが、思わずビクッとしてしまうだろう。ましてや、ククリナイフを手に持って、ヨダレを垂らしながら「ガチで刺す」と一言発するだけの巨匠リドリー・スコットもビックリの見た目である。人によってはきゅうりに対する恐怖を植え付けられるかもしれない。場所が場所だけに助けも来ない。地下ではあなたの悲鳴は誰にも聞こえないのである。
正直、前作に当たる『知らナンシー』に比べると、ネタのインパクトは弱く感じるかもしれない。現にプレイ感が3DダンジョンRPGのそれのため、似非VRゲームらしさは序盤間もない内に消え失せる。エンディング直前まで進んだ頃には多分、VRを名乗っているだけの探索アドベンチャーとの印象が支配的になるだろう。
ただ、各種先入観を元に作られたネタ要素の数々は相応にクスリとさせられる仕上がりだ。取り分け、本作のキーパーソンたる「きゅうり人間」は普通にビックリさせられるキャラクターとして存在感を発揮しているので、ぜひ彼の者に翻弄されつつ、VRじゃない本作のありがたみを味わってみていただきたいところだ。
同時に彼の者の正体が明らかになるラストも必見。ヤン子を閉じ込めた張本人の正体も含め、あまりにくだらないオチに脱力すること間違いなしだ。きっと、きゅうり人間に同情的な念を抱いてしまう……かどうかは人それぞれ。
基本コメディ。だが「きゅうり」は本当にビビるぞ。
全体のボリュームは『知らナンシー』と変わらず大体30分~1時間ほど。今回は探索に比重を置いている関係か、謎解きの難易度が抑えられているので、人によってはそれ以上に早くエンディングに辿り着けるかもしれない。謎解きのネタも相変わらず斜め上な発想が炸裂したものが揃っていて、その思いもしない解き方と展開には笑ってしまうこと間違いなし。
ただ、数ある謎解きの中で、前述でも取り上げた「釣り」は少し難あり。実は確実に成功させるための法則が存在するのだが、それに関するヒントが作中にほぼ無く、手探りで見つけ出す以外に無くなってしまっているのだ。
しかも、場合によってはここで30分以上、酷ければ1時間以上行き詰まる恐れもある。難所の意図を込めたのかもしれないが、せめて法則にまつわるヒントは用意すべきだったのでは。同じ作者が作った『剣が刺さってる男を救えるのは一度だけ』(紹介記事)にも似たようなネタは存在し、そちらにはヒントが用意されていただけに、全く存在しないのには首を傾げてしまった。見落としている可能性もあるが……。
他にマップ背景も終始、灰色しかパターンが無いのは地味過ぎる印象。地下空間は幾つかの階層に別れているのだが、それぞれ違う色を設定し、現在地と進捗具合を分かりやすくしても良かったように思える。ストーリーも所々笑える場面はあれど、オチがくだらないとは言え、穏やか気味だったのにもやや物足りなさを感じた次第だ。
似非VRゲームとしてはもうひと押しな所もあるのだが、先入観由来のネタの数々、マヌケながらも十分ビビる「きゅうり人間」を始め印象的な特徴が揃っていて、愉快な作品に仕上がっている。あくまでもコメディのため、本格的な恐怖を期待してはいけないが、VRに関して詳しくないヤンキーが作ると、いかに先入観に染まった探索アドベンチャーゲームになるのかを良くも悪くも思い知らされる本作。この手のジャンル好きはもちろん、作者べるず氏のこれまでの作品を楽しんできたプレイヤーにも注目の意欲作だ。
最後に余談として、本格的なVRホラーゲームをお求めの方に向けて丸得情報を。
根強い人気を誇るテーブルトークRPG(TRPG)「ワールド・オブ・ダークネス(World of Darkness)」シリーズのひとつ、「Wraith: The Oblivion」を原作とした「Wraith: The Oblivion – Afterlife」が2021年春、発売予定だ。
ヘッドセットはValve Index、HTC Vive、Oculus Rift(Rift S)、Oculus Quest、Oculus Quest 2、PlayStation VRと現行の主要機器に完全対応。日本語もサポートしている。Steamではストアページも公開中。
本作の最新情報は、当もぐらゲームスの姉妹サイト「MoguLive」でも報じている。興味があればぜひ、チェックいただきたい。以上、丸得情報でした。
[基本情報]
タイトル:『VRをよく知らないヤンキーが作ったガチ系ホラーVR』
作者:べるず
クリア時間:30分~1時間
対応OS:Windows
価格:無料
備考:”ガチ”の驚かし表現・演出あり
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/24666