探偵事務所を営む「砥上弦(とがみ げん)」は、女子高生で唯一の親族「来海沢光(くるみざわ ひかる)」と共に暮らし、その面倒を見ながら日々を送っていた。
ある日、事務所に一通の手紙が届く。
その内容は探し物の依頼だった。
差出人の住所は×県の「八木沢村(やぎさわむら)」。
約30年前、住人と招待客が全員死亡、行方不明になる謎の火災事件が起きた神代(かみしろ)一族の屋敷がある、都心から離れた村だった。その屋敷から依頼が送られてきたのである。
屋敷は今や、ネット上で幽霊屋敷とまで謳われる心霊スポット。
なぜ、そのような場所から依頼が来たのか?
弦と光は現地へと向かい、屋敷に足を踏み入れる。そこで待っていたのは……。
『迷い子たちのララバイ』は2019年12月29日より、「RPGアツマール」及び「ふりーむ!」で公開中のWindows、Mac PC用フリーゲーム。配信形態はブラウザ、ダウンロードの2種類。後者は「ふりーむ!」で公開されており、ダウンロードに当たっては「ふりーむ!ID」の作成が必須となる。
霊が見える探偵、物の扱いに長けた女子高生のタッグで屋敷を探索
公称で「ミステリーホラーアドベンチャー」を謳う本作。実際の内容は探索型のアドベンチャーゲームで、見下し視点(トップビュー)で構成されたマップを進み、謎を解きながらストーリーを進めていくというものである。
プレイヤーの成すべき目標は単純。
依頼主の”探し物”を見つけ出すこと。
そして、屋敷からの脱出だ。
前述のオープニングの続きになるが、大方の予想通り(?)、弦と光の2人は屋敷内に閉じ込められてしまう。屋敷は30年前に大きな火災があったという割には原型を留めた状態にあるのだが、内部では当時の事件で命を落としてしまった住人、招待客たちの霊魂が多数、成仏できずにさまよっている状態にある。
弦はそんな彼らを目視でき、さらに言葉を交えたやり取りが可能な能力を持つ。これを駆使して情報を集めたり、時に悩みごとを解決しながら、探し物と脱出の手がかりを探っていく。基本的にはそのような過程を踏みながら進める構成だ。探索型のアドベンチャーゲームとしては王道寄りの作りとなっている。
ただ、特徴的なシステムが2つ。
キャラクターの切り替え、それに関連付いた環境変化だ。
前者は読んで字の如く。本作は弦だけでなく、光もプレイヤーキャラクターのひとりで、探索中には彼女に切り替え、仕掛けなどに対応することも求められてくるのだ。この手のシステムと言えば、個々が独立した行動(例:弦は広間、光は寝室を探索)を取るものを想像するかもしれないが、そのような要素はなし。その場で切り替えるだけの簡単な仕組みだ。ストーリー上、2人は常に行動を共にしているという設定を踏まえたもので、直感的に探索、謎解きに挑める設計になっている。
そして、2人を切り替えるたび、後者のマップ全体の環境が変わる独特な仕掛けが凝らされている。紹介した通り、弦には霊魂たちの姿を目視できる能力がある。反面、光にはそのような能力がない。
なので、弦がプレイヤーキャラクターの場合、マップ上に霊魂たちが現れる一方、光だとマップから消えてしまう。弦と同じように直接話しかけたりできないのだ。
裏を返せば、彼女なら霊魂たちの邪魔を無視できる。屋敷内でさまよう霊魂の中には友好的でない者もおり、一例として、弦を通過させないよう通せんぼしていることがある。
だが、光には見えないので、そんなことをした所で無意味。そのまま素通りできてしまうのだ。また、弦は霊魂以外に怪奇現象も目視できる。この怪奇現象も邪魔してくることがあり、一例として貼り紙を血染めの状態にして、書かれた内容が読めなくなってしまうことがある。しかし、光なら見えないので普通に読める。弦では得られない情報を引き出せるのである。
さらに彼女は道具を使いこなす技術にも長けている。一例として施錠の仕組みが簡単な扉であれば、カギのアイテム無しで開けられるようになっている。他にも弦には扱えない道具を使いこなせたりと、まさに若いなりの強みを持ったキャラクターになっている。逆に言えば、霊魂たちから情報を集める場面では活躍の機会なし。その能力を持つ弦で対応する形だ。
このように役割分担しながら謎を解いたり、ストーリーを進めていくことが本作の醍醐味。2人のキャラクターを操作するなりの意義を込めたゲームデザインが光る、ユニークな探索アドベンチャーゲームになっているのだ。
”2人”と”迷い子”たちの様々な形を描き出す、珠玉のストーリー
そんな本作の魅力は、謎解きの面白さ……もさることながら、ストーリーである。始まり方こそ、まさにホラー作品の十八番。怪しすぎる手紙、それに導かれるよう現地に足を踏み入れたら閉じ込められ、怪奇現象が発生。コテコテすぎる、と思ってしまうかもしれない。
しかし、本作は霊魂たちに直接話しかけながら情報を集め、脱出の手がかりや依頼にある”探し物”の発見に挑んでいくため、ホラーと言うには若干際どい内容になっている。そもそも、友好的ではない霊魂こそ居るものの、主人公2人に直接的な危害を加えてくる者は居ない。基本的に対話、特定の霊魂からの協力を通し、解決を図ることがほとんど。襲い来る脅威から逃げる類のイベントも全く存在しないので、その点でも若干、一線を画している。
どちらかというと、ミステリーに比重を置いているのだ。特に約30年前、屋敷で起きた火災事件の謎に迫っていくイベントが多く、霊魂たちとの交流と内部の探索を経るにつれ、真相が見えてくるようになっている。しかも、中盤に差しかかると何と、目標の内のひとつが達成されてしまう。なので、これで終わり……と思いきや。そこから件の火災事件と主人公2人の過去に思いもしない共通点があることも明らかになり、意外な方向へと事態が傾いていく。その先にも、なぜ光は弦にとって唯一の親族なのか、光が常に弦と共に行動している理由など、2人に関するさらなる掘り下げが行われ、事件とも結びついて思いもしない結末へと進んでいくのだ。
いわゆる”怒涛に次ぐ怒涛の連続!”みたいな勢いと熱さはなく、ゆっくりひも解くように語られていくのだが、思わず「まさかこんなことになるとは……」と、呟いてしまうほど釘付けになってしまう内容にまとめられている。下手に没頭すれば、徹夜もあり得る。そのため、これからプレイするという方は御注意いただきたい。
筆者が特に唸ったのが、弦と光を含め、様々な「2人」の人間関係に焦点を当てた展開と場面の数々だ。実は真相部分にも「2人」が強く関連していて、それが事件の発生に繋がった過程が細かく語られていくのである。関係の形も友情から憎しみまでと明暗様々。そして、現実にもあり得ると感じてしまうようなエピソードばかり。それらが弦と光の関係と隠された過去にも影響を及ぼしつつ、探索と謎解きのゲーム部分にも影を落とし、一連の展開を一層印象深いものにしている。
まさにこれは2人あってのゲームであり、ストーリーでもある。全てを体験した後には、きっとそのような感想を抱くだろう。また、これらの展開が秀逸ゆえ、タイトルにある「迷い子」にまつわるイベントも強烈な印象を残すものになっている。最もその威力を思い知るのはラストだ。そもそも、『迷い子たちのララバイ』なるタイトルが意味するものとは?ぜひ、それが明かされる場面には刮目いただきたい。全てが幕を下ろした後、改めて本作は2人の人間関係にこだわり尽した作品であるとの印象が強固なものになるだろう。
ストーリーに限らず、探索周りも秀逸な出来。広すぎず狭すぎないマップ構成、適度に頭を使う謎解き、意表を突いたイベントの数々で飽きさせることなく楽しませてくれる。中でも終盤、”探し物”があるとされる場所に向かうまでの展開は必見。本作のシステムならではとも言える、意表を突いた仕掛けには唸ること間違いなしだ。
不気味な演出こそあれど、ホラーが苦手な人にも遊びやすい良作
また、約5~6時間以上に及ぶボリュームの大きさも魅力のひとつ。エンディング分岐、それらを全て見終えた後のおまけ要素も網羅されているので、ゆっくり進めた場合なら10時間弱は要すほどの密度になっている。
このほかグラフィックも弦と光、それぞれ見えるものが違う特色を活かして細かく差別化。
光の場合、何の変哲もない食堂が弦に切り替えると血染めの光景に一変するなど、その露骨な表現の違いには徹底したこだわりを感じさせられるはずだ。
マップ上のキャラクターのドットもオリジナル。会話シーンでの顔グラフィックも多彩な表情パターンが用意されているほか、ごく僅かながら一枚絵もある。それもまた美しい仕上がりになっているので要チェックだ。
全体的に高い完成度を誇るストーリーだが、終盤にはやや唐突な展開も。特にようやく顔を見せるキャラクターに関しては、もう少し掘り下げる場面があって良かったように思える。探索も序盤の時点で広範囲を動き回れるほか、具体的な行き先が指示されないので、少し右往左往しやすい。
また、本作は弦の時にだけ現れる猫に話しかける形でセーブを実施するのだが、これに関する説明が欠けているのも少し気になった。興味本位で調べたくなる存在感があるから省いたのかもしれないが、最低限、説明はあっても良かったかもしれない。
さらに本作はホラー風のため、その手の演出はかなり抑えているが(驚かし系は皆無)、精神的にじわじわ来る類の演出はそこそこにある。苦手な方は念のため、注意しておくといいだろう。
些細な難点はあれど、秀逸なストーリーと趣向を凝らした探索で楽しませてくれる本作。ボリューム的にもじっくり楽しめる内容になっているので、探索アドベンチャー好きには強く推せる良作だ。キャラクターの雰囲気に惹かれるがまま遊んでもよし。主人公2人はその期待に応える掛け合いをしてくれるので、きっと満足できるはずだ。
さあ、謎多きこの屋敷に隠されたドラマを解き明かそう。
[基本情報]
タイトル:『迷い子たちのララバイ』
作者:三番目の羊
クリア時間:5~6時間(※エンド数:4つ)
対応OS:Windows、Mac、スマートフォン・タブレット
価格:無料
備考:軽微な流血、ホラー表現あり
※プレイはこちら(RPGアツマール:ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm13225
※ダウンロードはこちら(要:ふりーむ!ID)
https://www.freem.ne.jp/win/game/21734