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Channel: フリーゲーム –もぐらゲームス
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命を作れ。役目を果たせ。”捧げろ”。ハイテンポで密度濃いめの短編RPG『Die Mutter(ディームッター)』

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彼らは目覚めると不思議な部屋に居た。
その部屋に見覚えは無かったが、自然にそこがなにであるかを理解した。
そして、彼らは自らの役割を果たすため、動き始める。

意味深なオープニングと共に始まる『Die Mutter(ディームッター)』は2021年4月、ブラウザ向けフリーゲームとして公開された”命を作る”短編RPGである。作者は長編RPG『デイドリームリバー』(紹介記事)の莞爾の草(かんじのくさ)氏。公開先は「ゲームアツマール」、「ふりーむ!」、そして「itch.io」となっている。

命を作って戦力強化を図る、育成要素を実装した短編RPG

前述のあらすじ通り、ゲームは”彼ら”こと、男女2人の主人公を選択する所から始まる。どちらかを選んで決定すると、謎の施設の部屋へと移って本編開始。自らに課せられた使命を果たすため、施設内に設けられた「フロア」を巡っていくことになる。

設定が象徴する通り、マップは局所型。「S、A~D」にランク付けされた「フロア」へ繋がる通路とエントランス、回復ポイントを兼ねた自室などで構成された狭い作りになっている。このような場所でプレイヤーは、計5つのフロア内部を攻略していく。

各フロアの攻略条件は単純。奥で待ち受けるボスを倒すことだ。倒せば最奥の部屋に入れるようになり、次のフロアの扉を開錠するカギを始めとするアイテムが獲得できる。そして、手に入れたカギで施錠された別フロアの扉を開け、中へと入って再びボスの撃破を目指す。基本的にはこの繰り返しで本編が進んでいく仕組みになっている。

ボス撃破が目的の通り、当然ながらフロア内では戦闘も発生。発生形式はランダムエンカウントで、戦闘システムは敏捷性の高い順から行動する伝統的なターン制のコマンド選択型となっている。RPGの王道を地で行く作りだが、特徴的な要素で主人公以外の仲間(パーティメンバー)は作らなければならないというのがある。

”命を作る短編RPG”の公称が物語る通り、本作では「生命体」を作ってパーティを編成していくのである。「生命体」とは、フロアごとに敵として現れる者たちのこと。戦闘を通して倒すと、彼らの「設計図」が手に入る。そして、必要な素材アイテムが一定数集まると作成が可能となり、仲間に加えられるようになるのだ。

素材アイテムは主に戦闘とフロアの探索を通して入手する形になる。その内のひとつ、「コア」は稀少な存在という設定で、入手経路はフロア内の宝箱、もしくはボスに勝つことに絞られている。また、コアにはフロアに準じたランクも設定されている。なので、別ランクのコアを手に入れたい場合は、該当するフロアに出向いて探索するという感じだ。

必要なアイテムが集まった後は、エントランス右側の部屋に入り、そこに置かれた「ディームッター」なる装置を起動させ、生命体を作るだけだ。こう言った形で本作では戦力の強化を図り、フロア攻略を進めていくことになる。システムの特色からして明らかだが、本作はいわゆる育成系RPGなのだ。そのため、生命体にもレベルの概念があり、戦闘を通して成長させることもできる。さすがに某世界的有名作品にちなんだ”進化”はなく、仕組みとしてはシンプルだが、ジャンル特有の成長度合いに一喜一憂する醍醐味は押さえられていて、好きな人の琴線を刺激するシステムにまとめられている。

ちなみに「ディームッター」で作れるのは生命体だけではなく、武器、防具などの装備品も作れる。一応、エントランスに置かれた自動販売機からも装備品は買えるのだが、高性能なものは「ディームッター」での作成が必須。当然、そのためには専用の素材アイテムも必要で、生命体同様に戦闘、宝箱の中身を回収するなりして集めていくことになる。こう言った、いわゆる「ハック&スラッシュ(ハクスラ)」風の要素も実装。

これを踏まえてか、各フロアはクリア後も再訪可能になっているほか、入り直す度に宝箱の中身もリセット。以前とは違う素材アイテムがランダムで手に入るようになっている。ついでにボスとも再戦可能。コアの回収、仲間にした生命体を育てる際にも嬉しい仕様だ。ただし、フロア内ではセーブができないため、引き際を誤れば苦労が水の泡。便利なりに大きなデメリットも設けられた作りだ。

このようにRPGとしては遊び方も含め、単純明快かつ王道寄りだが、”作る”ことに焦点を当てたシステムの存在もあって、独特な遊び応えとやり込む面白さを持ち合わせた内容にまとめられている。そして、生命体を作る目的、関連するシステムが象徴する通り、生命倫理学的なテーマも込められており、作品全体に漂う空気もどこか不穏。そんな闇を秘めた作風も光るRPGになっている。

ハイテンポな進行とは裏腹の密度の濃さ

本作の魅力は短編ながら、育成系とハクスラ系RPGの醍醐味を見事に押さえた作りにある。

先んじて紹介しておくと、本作のボリュームは短編だけあって小さい。エンディングまで早くて1時間、じっくり進めても大よそ2時間半程度だ。だが、そんな短いボリュームの中に育成系RPGの育てる楽しさ、ハクスラ系RPGの素材を集める楽しさを余すことなく凝縮しており、確かなやり応えと高い満足感が得られる内容にまとめられている。

その特色を引き立てているのがハイテンポなゲーム進行の中に、再プレイ意欲を刺激する仕掛けを凝らす工夫だ。特に本編の主要な舞台となる5つのフロアは、その特色が最も際立っている。

そもそも、フロア1つの規模は大きくない。ひとつ攻略するのに要する時間は長くても数分程度だ。さらに道中には複雑なパズルと言った謎解き要素はなく、ボスの元(最奥)を目指す展開に終始。それもあって、本当に途切れなく進む。一応、高ランクのフロアになると、移動床などの仕掛けも出てくるが、多少の起伏を付ける要素で、進行の腰を折る程度の”お邪魔感”はない。本題はボスの元を目指すこと、それだけと熱弁するかのように一貫性が強く、潔い作りに収まっている。悪く言えば、アッサリしている。

だが、おかげで生命体、装備品作成に必要な素材アイテムの回収に集中しやすい。さらにフロアごとに手に入る「コア」が変わる、入り直す度に宝箱の中身がリセットされる仕様もあって、仮にボスを倒してクリアしたとしても、それで完全にお終いとはならない。新たな生命体、装備品を作るための素材アイテムが必要な場合は再訪の必要が生じる。誕生間もない生命体を育てるに当たっても、本作はフロアでのみ戦闘が発生するため、再訪が必要なのは言うまでもない。

そんな具合に他のシステムを活かす形で本編の攻略とは別の価値も設定し、単なる通過点で終わらない存在感を演出。短いのに物足りなさは皆無、それでいて印象にも残るものに完成されているのだ。ある意味、育成とハクスラという、特徴的な要素ゆえ実現できた側面もあるが、ちゃんとその魅力を活かして確かな意義付けをしているのは秀逸の一言だ。

その育成とハクスラもボリューム感がありつつ、快適に楽しめる作りになっているのが見事。特に育成はエンカウント率の高さが大きな評価点。普通、RPGでエンカウント率が高いのは批判点として挙げられやすいが、本作は逆に高いおかげで生命体に戦闘を経験させやすく、テンポ良く育てていけるようになっている。

また、戦闘とは別に経験値を会得させる専用の消費アイテムが用意されているのも嬉しいところ。おかげで経験を積む手間も少し簡略化できるため、早めに戦力にしたいとの欲求にも応えてくれる。育成系となると、育てる際の面倒臭さと作業感に抵抗を覚える人がいるかもしれないが、その辺も本作は苦にならない程度に設計。それでいて、生命体の数は結構居たりと、遊びやすさと同時にボリューム感を出す工夫も凝らし、やり込み甲斐も申し分ない仕上がりにまとめられている。

もうひとつのハクスラ周りも、戦闘以外にもフロアの宝箱という入手手段が設けられていたり、種類は限定するなりして取っ付きやすさを演出。それでいて、稀少な素材アイテムを手に入れる難しさ、それを手に入れて強力な装備品を作れた時の達成感もあって、絶妙な塩梅に収まっている。

RPGに限らず、短編のゲームで充実感を出す場合は、いかに必要な要素を厳選し、制約下の中に凝縮させられるかに左右される。無理矢理入れ込めば長編にした方がいいと言われかねず、逆に絞り込みすぎれば物足りなさが際立ちかねない。それをごまかす意図で作業的なプレイを強要する仕掛けを加えれば、返ってストレスフルな作りになってしまうだろう。
本作はその厳選と凝縮のさじ加減が素晴らしく、短くも確かな遊び応えと充実感があり、印象にも残る短編RPGにまとめられている。システムの特色や難点を念頭に作ったのが察せる仕上がりで、大変侮り難い魅力を持つ内容に仕上がっているのだ。

最初に触れた時は、そのあっさりしたフロアごとのマップとハイテンポな展開にサクッと終えられそう、と思うかもしれない。だが、進めれば進めるほど、その印象は変化していく。特に短編RPGに対し、アッサリ終わって印象にも残りにくいものとの先入観があるなら、ぜひ今すぐにでもプレイしてみて欲しい。
この工夫された作りと短編だからこその魅力に、認識を一新させられるはずだ。

昔懐かしのグラフィックも味わい深い、ダークな良作

ゲーム部分のほか、ストーリーも意味深かつ、不穏な空気に満ちた印象深い内容だ。同じ作者の『デイドリームリバー』ほどの強いストーリー性はなく、イベントも最小限でサッパリしているのだが、謎だらけのオープニングと施設内に遺された謎のメッセージ、生命体作りに勤しむ主人公の行動など、考察意欲を刺激する興味深い要素が仕込まれている。

また、本作は全部のフロアを攻略すればエンディングを迎えると思うかもしれないが、実際は違う。攻略後、とある”何か”を作る展開が待ち受けているのだ。さらにそれを成し遂げた後、なんと2周目が開始。1周目の流れをなぞりつつ、以前辿り着けなかった結末に向けて進んでいくのだ。詳細は見てのお楽しみだが、一連の展開には本作全体に漂う不穏な空気との正体にハッとさせられるだろう。エンディングもまた、意味深かつ余韻を残すものになっているので、ぜひ脳味噌フル回転で直面してみて欲しい。

ここまでのスクリーンショットの通り、グラフィックも色数の少ないドット絵で描かれた懐かしの作風。特に色使いはどことなく任天堂の携帯ゲーム機『ゲームボーイカラー』の専用タイトルを思い起こさせるものがあり、直撃世代なら「これ、ゲームボーカラー本体で遊んでみたいぞ」という気持ちになるかもしれない。他に音楽もこの見た目に準じた楽曲が選ばれていて、独特の雰囲気を醸し出している。演出周りもそれっぽく、前述の直撃世代ならニヤリとするだろう。

総じてよく出来た本作だが、生命体の能力バランスに関しては大味気味。特に連続行動の特技を持つ生命体が強く、クリア目的ならそれ一択になって、パーティ編成が偏りやすい。また、「ディームッター」が置かれた部屋や、その使い方に関するチュートリアルが省かれていて、人によっては見落とし、主人公ひとりで後半フロア攻略に進みかねない所があるのも気になる所だ。意図的な可能性もあるが、何らかの誘導はあって良かったように思える。

他に地味な所で自室にある回数制限付きの全回復ポイントは、あまり制限が意味を成していない(※充電用のアイテムが手に入りやすい)のも気になったが、全体的にプレイして過度にストレスを感じる部分はほとんどなく、楽しく遊べる短編RPGに仕上がっている。

その種のRPG好きはもちろん、短編は物足りないものという先入観を抱く人もぜひ、一度でも触れてみて欲しい良作だ。見た目のゲームボーイカラー作品っぽさに惹かれた場合もどうぞ。

[基本情報]
タイトル:『Die Mutter(ディームッター)』
作者:莞爾の草
クリア時間:1~2時間(1周)、2~2時間半(2周)
対応プラットフォーム:ブラウザ
価格:無料

プレイはこちら
※ゲームアツマール
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm19372

※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/25442

※itch.io
https://kanji-the-grass.itch.io/die-mutter


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