食事に休憩などの実生活も含めた、ゲームの最速クリア時間を競う競技「RTA(Real Time Attack)」。その起源はゲーム雑誌、個人のWEBサイト上でのやり込み企画と言われ、当時は文章を通して経過を報告する形が取られていた。
やがてネットワーク技術の発展、動画配信サイトの台頭により、報告の形は文章から映像へ移行。実際のゲームプレイ模様を公開する形での経過報告が可能になった。それにより、取り組む側も観る側も楽しむハードルは格段に低下。劇的に普及するに至った。
現在では大会イベントも幅広く開催されるようになり、日本でも「RTA in Japan」がその代名詞として定着している。
そんなRTAと言えば、動画用の独特な画面レイアウトがひとつの象徴になっている。左上にメインゲーム画面、下部に投稿者・配信者のアバターによる解説枠、右側に補足などの追加情報枠を表示するというものだ。
レイアウト自体は往年のテキストアドベンチャーゲームを踏襲した感じであり、有名所では『ポートピア連続殺人事件』、Nintendo Switchでのリメイク版発売が記憶に新しい『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』がある。
近年ではNintendo Switch版『不思議のダンジョン 風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス』のように、このレイアウトを機能のひとつとして搭載するなど、RTAで誕生したものがゲーム側へと逆輸入される例も出てきている。
そしてまたここに、レイアウトどころかRTAそのものを題材にしてしまったゲームがひとつ。その名も『ハイテンダンジョンRTA』である。
ダンジョンを走り抜け、目指すは最速タイム!
『ハイテンダンジョンRTA』は「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」、「ゲームアツマール」の3サイトで公開中のWindows PC及びブラウザ用フリーゲームだ。2021年4月に公開された作品で、後にゲームモードの追加、キャラクターの顔グラフィックを新規のものへと差し替える大型アップデートも実施された。
本記事では、7月配信の最新版「Ver2.1.0」を元にその内容と特徴を紹介する。
まずゲームの内容だが、端的に言えばダンジョンをRTAするゲームである。
「なんのこっちゃ」と言われそうなので、もう少し具体的に。ジャンルとしてはフィールドマップが存在しないロールプレイングゲーム(RPG)、いわゆるノンフィールドRPGだ。
プレイヤーは主人公の「チェシャ」に扮し、全部で7つのダンジョン攻略に挑む。各ダンジョンは移動(前進)と、特定ポイント到達で発生する敵との戦闘を繰り返しながら進行。最終的に奥で待ち受けるボスを倒せばダンジョンクリアとなる。
最終目標は「深淵」と呼ばれるダンジョンの攻略。実は本作、最初から7つ全てのダンジョンが選択可能で、いきなり「深淵」へと挑めるようにもなっている。
だが、「深淵」の難易度は全ダンジョン中最高レベル。始めて間もない頃に挑めば、どんなエライコッチャの大惨事になるかは想像に難くないだろう。
そんな訳で難易度の低いダンジョンから攻略し、チェシャを十分に強化した上で挑むのが正攻法である。画面下部の解説枠でプレイヤーに助言を送る女性「アリシャ」もそれを薦めてくるので、慣れない最初は黙って従おう。信ずるものは救われる。
システム周りは前述の通り、ダンジョン構成はノンフィールド型RPGの定番とも言える、ステージクリア方式を採用している。対照的に戦闘周りは非常に独特。
仕組み自体はプレイヤー、敵の順番を交互に繰り返すコマンド選択型のターン制。しかし「行動回数」なる概念があり、この数値分だけコマンド(行動)を決定し終えるとプレイヤーのターンが終わり、敵のターンに移るという仕組みになっている。つまり「行動回数」が「2」なら、2回分のコマンドを選べるという感じだ。
これは敵も同様。本作では敵のターンに移った時、どんな行動をしてくるかが予告される。その予告の表示が2つ並んでいる場合は、その分の行動を意味する。「攻撃」が2つ並んでいたら、2回攻撃がこちらに来るという具合である。
こうした行動回数を念頭に、行動を決めていくのが基本戦術となる。行動は攻撃、防御に限らず、ゲームが進むと特殊技こと「スキル」も追加。相手の行動回数を減らしたり、攻撃を絶対回避する戦術も駆使できるようになる。
さらに特殊なシステムで「戦闘カット(カット)」がある。戦闘を強制勝利&終了させてしまうぶっ飛んだ機能だ。だが、発動には3ターン以上連続してノーダメージを達成する必要がある。ノーダメージは防御を選んだ際に展開されるシールドの値が敵の攻撃値(※これも予告に表示される)より上回るか、スキルによる絶対回避のいずれかが実現すれば判定される。ノーダメージが決まると、戦闘画面右上のランプが点灯。ランプを3つ点灯させ、次のターンでもノーダメージが達成されれば「カット」が発動し、戦闘が強制勝利になる。逆に一度でもダメージを受けてしまうとランプはリセット。1からやり直しになるという仕組みだ。
ノーダメージと並行して若干、敵にダメージを与えておく必要もあるため、非常にシビアな条件となっているが、相応に効果は大きい。しかも雑魚敵に限らず、ボスにも通用するので、やり様によってはダンジョンの爆速攻略も夢じゃない。長期戦を強引に短縮させてしまうとの下りから、その種のテクニックを決める瞬間が注目を集めやすいRTAらしさも滲み出ていて、まさにそれを題材にした作品なりの独自性と驚きを秘めた技になっている。
他にも戦闘終了と共に実施されるレベルアップ、持つだけでステータス強化の効果が働く武器と防具、それらと消費アイテムが混在する小容量のアイテムウィンドウ(画面右枠)など、独特なシステム及び要素は多々ある。
さらにタイムカウントも表示。ダンジョン攻略時などの本番に限らず、選択画面やアイテム購入でお世話になるお店でも諸行無常のなるがままに時が刻まれていく。
そして極め付け、本作では途中経過の保存(セーブ)が不可能。仮にゲームを終了させたり、システムメニューからタイトル画面に戻れば、全部リセットされてしまうのである。何故ならRTAだから!
そのため、本作は一発勝負型のRPGとも称せる。別の言い方では「アーケードライク」とも言え、RPGとしては前代未聞の遊び心地を持った作品になっている。
それも全ては本作がRTAを題材にしたゲームだからである!
大事なことなので、二度言わせていただいた。
これはもはやアクションゲーム!?驚異のテンポと絶妙な難易度
本作の魅力はそのRTAを題材にしたことで生まれた、アーケードライクな手応えだ。実は本作、ゲームクリアに要する時間は短め。じっくり進めたとしても1時間はかからない。
そのため、RPGとしては短編に属する。
だが、前述の通り途中経過の記録はできないので、クリアを目指すなら通しプレイは必須となる。その通しでクリアしなければならない作りが、非常にアーケードゲームらしい。古きよき時代のアクションゲーム、シューティングゲームが脳裏を過ぎるような、途中で足を止める訳にはいかない緊張感、そこから生じる高い熱中度が交差する、RPGらしからぬ手応えが演出されているのだ。
これに加えて本作、ゲームテンポも爆速と評しても何ら過言ではないほど速い。特に戦闘は驚くべき速さで進行する。ナレーションメッセージ、コマンド決定操作、魔法攻撃を始めとするエフェクト演出といったものを徹底してそぎ落としているためだ。
取り分け強烈なのはコマンド決定操作。いずれかのコマンドにカーソルを合わせ、(キーボード操作時)方向キーの上を倒すだけで瞬時に実行される。一切の間を挟まないのである。さらに敵のターンも秒速で終わる。行動回数が0になった瞬間、敵の攻撃などがまとめて一気に行われ、すぐにこちらのターンへと移行するのだ。あまりに早く移行するだけに、慣れない頃は困惑必至。間を挟むRPGの戦闘に慣れ親しんでいるプレイヤーなら、何が起こったのか思考が追いつかない状態に陥る可能性すらあり得るほどだ。
このような手数と無駄に時間がかかりかねない要素を減らし、スピード感を出す工夫が凝らされていて、アクションゲームかと錯覚してしまうほどのテンポが実現されている。まさにRPGらしからぬ手触りで、さながら「アクションをコマンドする」とも称せるようなシステムに完成されているのだ。それもあって、ひとつのダンジョンに要する時間も短く、本編もスピーディに進行する。
加えて秀逸なのが、本編全体の密度が薄くないこと。中でもダンジョンに登場する敵の個性付けが素晴らしく、どこにおいても異なる戦術が試される作りになっている。内容は最後の「深淵」も含め、前進して最奥を目指すことで一貫しているのだが、それによる単調さを防ぎ、起伏を付ける目的で敵の個性付けが徹底されている。
また、筆者が感銘を受けたのがきちんと「壁」を設けていること。システム全般を理解しないと突破できないダンジョンが用意されているのだ。具体的には前述の「カット」、使用後しばらくスキルが使えなくなる「クールダウン」を理解していないと返り討ちにされるバランスになっている。正攻法たる攻撃を仕掛けていく戦術が通用しないのである。
これが本作が単純な力押しだけでは攻略できないゲームであることをよく教えてくれると同時に、システムを深く理解する場(機会)として完成されている。
まさに今後のダンジョンに挑むために乗り越えなければならない「壁」になっており、いい感じにプレイヤーを鍛えてくれるのだ。この作りには本当に唸らされた。そして、難易度調整に対する本気というものを垣間見た次第。
ハイテンポで進むからといって終始、行き詰まらず進んでしまうとそれはそれで味気ない。印象にも残らない。システムの特徴も伝わらないまま終わってしまう。そうした思いが件のダンジョンのほか、本作の難易度調整には滲み出ているような感じで、短めながらも密度が濃く、印象にも強く残る内容が描かれているのだ。
さらにプレイヤー自身の上達を強く実感させられるのも見事。それを最も強烈に伝えてくるのがタイムカウントであり、クリア後に挑む周回プレイだ。どのような達成感を提供してくれるのかは大よそ想像が付くはずなので割愛しよう。
こんな感じに本作はアーケードゲームらしい手応えと楽しさがある。その種のアクションゲームもシューティングゲームも本編は短いが、密度は濃く、周回プレイで以前よりも上達した自分に気付かされるのが楽しい。それと全く同じものが本作にはある。そこにRTAという巷で話題の題材と組み合わせ、ユニークな作品に仕立て上げているのだ。
こうした特徴から、本作はアクションゲーム、シューティングゲームが好きな人こそ遊んでみて欲しい。もちろん、RPGが好きな人にもシステム面のユニークさもあって強く推せる。中でも戦闘の個性付けとバランス調整はとても秀逸なものがあるので、RPGの中でも戦闘の面白さを求める人ならば要チェックである。
アーケードライクの真髄というものを思い知らされるはずだ。
RTA用のタイトルとしても十分!?個性的すぎる意欲作
RTAを題材にしているなりの”らしさ”も見逃せない。
そもそも画面レイアウトからしてそれっぽさ全開だが、細かい部分でもRTAをよく観戦されている人ならニヤリとしてしまうネタがチラホラある。「カット」に象徴される、RTAで炸裂するテクニックをゲーム中のシステムとして翻案し、組み込んだ手法の数々も必見。
中でも特定のダンジョンクリア時に手に入るアイテムには、いい意味で物申したくなること請け合いだ。「それはRTAじゃなくてTのアレでは!?」と。
どんなものが手に入るかはその目でお確かめあれ!(大よそ検討が付いたかもしれないが)
ネタに関しては、攻略中に手に入るアイテムの名前にも注目。一部、そのまんま過ぎるものもあったりするので、元を知る人ならば苦笑いしてしまうこと確実だ。
なお、上のスクリーンショットに映っているアイテムはちゃんと効果を発揮するので安心いただきたい。技を決める直前に吹っ飛ばされて退場なんてことは無いぞ!絶対にだ!
他に地味なところだが、音楽の選曲も素晴らしく、全体的にハイテンポなゲームの進行と絶妙にマッチしている。また、ゲームシステム重視の作りに見せかけて、実はちゃんとしたストーリーもある。ただ、その描き方はあまりに大胆。どう大胆かはゲームをクリアするところまで進めれば分かるので頑張っていただきたい。
念のため、心の余裕を持っておきましょう。
初見時はターン経過が把握しにくかったり、行動回数を上昇させるアイテム「クイック」の効果とその重要性の説明がややサッパリ気味など、ハイテンポすぎるゆえの弊害もそこそこ散見される。特に簡略化されたコマンド操作の素早い反応は最たるもので、そのように動作する説明が無いのもあって困惑しやすい。
また、ここまでのスクリーンショットからも分かる通り画面内の情報量も多いため、チュートリアルはもっと段階的、かつ細かく説明する構成だと良かったかもしれない。とは言え、チュートリアルの内容自体は非常に丁寧、かつよくまとまっている。初見時はそこから始めるのを推奨するように作られているのも良心的だ。
総じて良くも悪くも意欲的であり、唯一無二の個性を持ち合わせた本作。短めながら何周も遊び込めるほどやり込み要素も豊富に加え、工夫次第で時間を省略できる攻略法も沢山あるので、極め甲斐も抜群。この特徴的なゲームシステム、アーケード系RPGという言葉に何か心を動かされる思いを抱いたのなら、ぜひプレイいただきたい1本だ。
RTAに取り組んでいる方も機会があればお試しを。ハイテンポかつ、ハイテンションに進むダンジョンを乗り越え、最速タイムを叩きだそう。
[基本情報]
タイトル:『ハイテンダンジョンRTA』
作者:プラ
クリア時間:30分~1時間(※2周目以降:15分~)
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
備考:オンラインランキング対応(※ブラウザ版のみ)
ダウンロードはこちら
※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_9533.html
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/25523
プレイはこちら(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm19362