OLのヨルは、日々の激務が祟り、帰りの電車にて眠りに落ちてしまった。
目が覚めると、彼女は知らない街へと辿り着いていた。
既に終電を迎えてしまったため、次の電車が来るのは明け方の午前4時頃。
途方に暮れていたヨルは、唯一動いていた循環バスを発見し、乗車する。
だが、そのバスと運転手は、どこか奇妙な雰囲気を醸し出していた。
そしてヨルは、バスと共に不思議な街を巡り、様々な人たちと出会うことになる。
これはそんな彼女が”大切なもの”を見つける、長い夜の旅を綴った物語である。
『Re:Bus(リバース)』は2021年8月より、「ノベルゲームコレクション」にてWindows PC、ブラウザ向けに公開・配信中の短編ノベルゲーム。その名とあらすじの通り、循環バス(路線バス)の旅を題材にした作品である。
某テレビ番組風に言えば、『夜のぶらり途中下車の旅』である。
いや、それはバスじゃなくて電車だろう、との意見は認めます。そもそも『路線バスで寄り道の旅』という、もっと適切な例があるではないかとの指摘はその通りとしか言い様がありません。大変申し訳ない限りでございます。
明け方まで、循環バスと共に12の地域を巡るノベルゲーム
テレビ番組云々はさておき。基本的な内容は台詞などの文章を読みながらストーリーを進めていくノベルゲームである。ただし、その進め方と本編の流れ、システム周りは一風変わったものになっている。
最初に進め方と流れを紹介すると、本作は循環バスに乗車し、舞台となる街に点在する地域(※バス停のある場所)を巡っていく形になる。
地域は全部で12あり、本編開始の時点から自由に移動可能(※厳密にはスタート当初の「大学病院」の強制イベント終了後より移動可能)。移動及び降車方法は路線図風の全体マップ画面でマウスカーソルを動かし、地域の名称欄をクリック。その後、画面中央に現れる「降車ボタン」をクリックすれば、該当地域へと降り立てる。
すると、降りた地域に応じたストーリーが進行。加えて画面左上に表示された時刻も進む。そして、ストーリーが終了すると再び全体マップ画面へ。その後はまた降りたい地域を選んでは、その先でストーリーを進めるという具合である。このような過程を繰り返していくのが本作の基本的な進め方及び本編の流れとなる。
ただし、延々それが繰り返される訳にあらず。システム紹介へと移るが、前述の通り本作には時間の概念がある。これが一定の時間を迎えると夜が明け、本編が自動的に終了。そのままタイトル画面へと戻ってしまうのである。
一定の時間とは、冒頭のあらすじで振れている通りに午前4時頃。厳密には午前4時に近い時間帯(※午前3時50分以降)で、画面左上の時刻がそれを超過してしまうと、街の地域を巡ることはできなくなってしまう。
そのため、1周で全12の地域を巡るのは不可能。もし、全てを巡って、各所に設けられたストーリー(イベント)が見たいなら、周回プレイが必須になる。本作はそれを前提にしたゲームデザインを図った、繰り返し系のノベルゲームになっているのだ。
ちなみに1周の内に巡れる地域は最大3つ。12の地域全てを巡る場合、最低4周は必須となる(ただし、進め方によっては……?)。また、本作には最終的な目標も課せられている。それは主人公ヨルの”大切なもの”を見つけ出すこと。それを発見することによって、本作は真の意味でのゲームクリア(エンディング)を迎えるのである。
随分と抽象的な目標だが、要はヨルが忘れている”思い出”が何か突き止めればよい。そのためにプレイヤーは周回を重ね、地域ごとに発生するイベントを通して情報を集めていくのだ。だが、例によってそれは一筋縄ではいかず。巡れる地域が時間的都合で限定されているので、きちんと行動計画を立て、進めていくことが求められる。
また、イベントによっては「アイテム」を獲得することもあり、これをヨルが自動的に使う展開が生じると、新たなイベントが解禁される仕掛けも凝らされている。だが、これも基本手探り。地域ごとに出会う人たちとの会話など、僅かな情報を頼りに見つけ出さなければならないのである。中には地域を巡る順番を工夫する必要もあるなりして、ますますもって容易にはいかない。
このような具合に本作は謎解きアドベンチャーゲームとしての側面も持ち合わせており、高い攻略性を秘めたノベルゲームに仕上げられている。
単純にストーリー(文章)を読み進めるだけでは何も進展しない。試行錯誤を重ねながら、最終目標に近づいていくという、プレイヤーの推理力と検証力……という名の根気が試される作りになっているのだ。そして、循環バスで様々な地域を自由、かつ”ぶらり”と途中下車する設定特有の体験も詰まった内容にまとめられている。
タイトル通りの『Re:Bus』、バスを乗り継ぐゲームなのである。
異例の高い攻略性と手ごわさ。そして、その意図が隠されたストーリー
一連の特徴が物語る通り、本作最大の魅力はその攻略性の高い作りに集約される。
時間の制約がある中、手がかりに繋がる情報を何周もやり直しながら見つけ出し、最終的なゴールへの到達を目指していくその過程は、もはやノベルゲームというよりも探索系のアドベンチャーゲーム。全12のどの地域から手を付けても(巡っても)大丈夫な自由度の高さ、アイテム入手によって新展開が起きるといった部分も殊更にその印象を際立たせており、プレイヤーに思いもしない手応えを提供する仕上がりになっている。
特に進め方次第でゲームの様相が大きく一変する構成が面白い。具体的には最初に全12の地域を巡って、一通り終えた後に目標達成のための行動を開始する順序だと、一変の様子がとてもよく分かる。それまでストーリーを読み進めるノベルゲームを遊んでいたのが、途端に探索型のアドベンチャーゲームになるからだ。
それと同時に「あれ?もしかして、大変なゲームに手を出してしまったのでは……」と不安を抱かせ、本番開始と共に少しずつ判明していく恐ろしさ(?)は筆舌に尽くしがたい。事前情報なしであれば尚更だが、知っている前提でも相応にインパクトがある。何故なら、一連の攻略要素全般の手ごわさが頭ひとつ抜けているからだ。
どれほど手ごわいのかは直接遊んで確かめて欲しいとしか言い様がない。筆者個人の感想は「してやられた」の一言に尽きた。紛うことなき「手ごわいノベルゲーム」というものを体験した心持ちだった。ストーリーを読み進めるのが基本のノベルゲームで難易度が高いとはこれいかにだが、本当にその通りなのだから仕方がない。何十周したか分からないほどの試行錯誤が求められ、気付いた頃には推定5~6時間近くを費やしていたのである。1周およそ10~15分しか要しない構成でありながら、だ。
そんな大げさなと思うかもしれないが、遊べば分かる。同時にその本格的すぎる作りに「手ごわいノベルゲーム」としての意味を思い知らされるだろう。良くも悪くも前代未聞の体験が詰まっているのである。
手ごわいと評したが、全体のバランスは理不尽になりすぎないギリギリの程度に落ち着かせている。特に手がかりに当たるヒントメッセージは、気付きそうで気付きにくいという絶妙な表現にまとめられている。また、ヒントに従って行動しても、必ず答えに繋がるとは限らないのも嫌らしくも面白い。そのためには地域の巡り方を工夫しなければならないなど、本編の流れや時間の制約、地域の配置といった本作全体を構成するシステムの活用も試されてくるのだ。このあらゆる要素を活かした作り込みも巧みで、やればやるほどに手の込み具合が見えてくるのも面白いところだ。
そして、ストーリーにもちゃんと手ごわくしたなりの理由が込められている。それがまさしくヨルの”大切なもの”(思い出)であり、「こんなの簡単に発見できたらマズい」と、納得してしまうものになっているのだ。そんなにも容易に見つけ出せないヨルの”大切なもの”とは何なのか。全てはゲーム本編を通し、覚悟を持って確かめていただきたい。さすれば、本作のタイトル名『Re:Bus』の本当の意味にも気付かされるだろう。
ただ、手ごわいとは言うものの、一部意地悪気味なものもある。名を出すと、アイテムの一部である「たばこ」と「花」にまつわるイベントはもう少し気付きやすくするためのヒントを入れて欲しかった。また、地域によってはだいぶ衝撃的なイベントがあり、人によってはドン引きするほどのショックを受けるかもしれない。一体、何があるのかは言葉にするだけで放送コード(?)に引っかかりかねないため自重。対象年齢15歳以上ということから察していただきたい。念のため、直接的な描写は抑えられている。その点はご安心を。また、”制裁”もちゃんとあるので必見……と言っておこう。
意味深なことを書いてしまったが、とにもかくにも本作はノベルゲームとしては異例の高い攻略性と手ごわさがあるのだ。そして、そのようにしたなりの意味もストーリーに込められていて、強烈な印象を残す内容にまとめられている。
手ごわいなりに若干の覚悟と腰を据えて挑む姿勢が試されはするが、それでも興味を持ったのならぜひ、飛び込んでみていただきたい。
ここまで紹介してきたことの意味と、その練り込まれた作りに唸らされるはずだ。
一度きりの夜を何度でも、そして永遠の思い出に
前述でも触れたが、ボリュームも1周約10~15分程度と短めながら、完全クリアには5~6時間近くを要する大変ギャップのある物量。本編ストーリーの完全攻略に留まらず、「称号」という名の実績システムも搭載されていて、こちらも並行すればさらなるやり応えも得られる。また、「称号」はゲーム進行の案内役を担っているのも面白い。どのように進めればいいか、分からくなった時に参照すれば、一定の指標を立てられるので、定期的に閲覧するのがお薦めだ。
ここまでのスクリーンショットが物語る通り、少ない色数でまとめられたグラフィックも独特の味わいがある。中でもキャラクターたちの顔グラフィックには、往年のパソコンゲームらしさがあるので、直撃世代なら懐かしい気持ちにさせられるかもしれない。
キャラクターたちも個性の強い面子が揃っている。また、それぞれ複雑な過去を背負っていて、交流を重ねるたびに意外な素顔も見えてくる。中には「なんだこいつ……」と言いたくなる人物もいて、とりわけ終盤唐突に現れる”女の子”はそのデザインも併せて、強く印象が残るかもしれない。現れる条件もいかにもな感じなので、そこも要チェックだ。
他に音楽もストーリー全体に漂う不思議な雰囲気にマッチした楽曲が揃っているほか、演出も昔のゲームっぽさを出しつつ、地味になりすぎない工夫も凝らした盛り上げ方が素敵。手ごわいノベルゲームであるがゆえ、ストーリーを重点的に楽しみたい人には攻略性の高さがストレスになるかもしれない。だが、あえてそれを体験した上で見る価値と理由が本作のストーリーにはある。少しでも興味を抱いたのならぜひ、プレイいただきたい意欲作にして力作だ。循環バスを幾度も乗り降りしながら地域をぶらりと巡り、隠された秘密に迫っていこう。
そして、その末に待つ『Re:Bus』の真なる意味と”本当の姿”を目撃しよう。
[基本情報]
タイトル:『Re:Bus』
作者:竹関工房
クリア時間:15分(1周)、5~6時間(TRUE END)
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
備考:スマートフォンからのプレイは非推奨、15歳以上対象
※ダウンロード・プレイはこちら
https://novelgame.jp/games/show/5696