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膨大なテキスト、人間の邪さを暴く毒気の強いストーリーで攻めた”人を選ぶ”傑作RPG『TOWER of HANOI』

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結論から言えば、本作『TOWER of HANOI』は屈指の傑作である。
だが、非常に人を選ぶ作品である。

主にストーリーに精神的苦痛を誘発する台詞、演出が多々含まれる。暴力・出血表現も多少、ボカされている部分はあれどだいぶ刺激的だ。

下記に綴る本作の概略、見所に大きな関心を抱いた時は特に意識いただきたい。

それでも体験してみたい、堪能したいなら……ようこそ。
仮想現実空間が舞台の交流系RPG『TOWER of HANOI』へ。

HANOIたちの心を癒すため、仮想空間の塔を登る拠点型RPG

遥か未来。AI搭載型アンドロイドとして開発された「HANOI」(ハノイ)は、今や人類の良きパートナーとして世界へ広く普及するに至った。だが近年、ストレス診断テストを通し、世界の半数以上のHANOIが人間を憎んでいるとの結果が出された。

これを受け、人類は「TOWER」なるものを開発。
HANOIたちのストレス発散を目的とするバーチャルゲームである。

しかし、完成間もない影響からゲーム内には多数のバグが残された状態にあった。

そのテストプレイ担当の「監察官」に抜擢された主人公コーラル・ブラウンは、10人の問題を抱えたHANOIたちとの交流を図りつつ、ゲーム内に設けられた3つの「塔」の攻略へと挑む。

何ごとも無ければ、塔3つ攻略でゲームクリアのはずだが……?

『TOWER of HANOI』は、人類とそのパートナーとして開発・製造されたアンドロイド「HANOI」たちとの交流を題材にしたRPGだ。プレイヤーは主人公コーラル・ブラウンとなり、バーチャルゲーム「TOWER」のテストプレイと、ストレス診断テストにおいて芳しくない結果を出した10体のHANOIたちとの交流を図っていく。

本編の構成およびRPGとしてのゲームデザインは「拠点型」を採用。基本的に「本部」と称されたマップから外出して「塔」へと出向き、内部の攻略に挑むという形で進む。

塔攻略の主要目標は、最上階への到達並びに件の階層で待ち受ける「ボスエネミー」の討伐。「ボスエネミー」を倒せれば塔はクリアとなり、次の塔が解禁される。そして再び、最上階への到達と「ボスエネミー」討伐を目指す攻略に挑む。基本的にはこの繰り返しでゲームを進めていくことになる。

また、塔に挑む前には本部にて10体のHANOIの中から3体を選び、パーティを編成する必要がある。

誰をメンバーにするかはプレイヤーの自由。それぞれ異なる特技などを持つが、誰を選んでも塔の攻略は可能なバランス調整が図られているので(※戦闘難易度への影響こそ少しあるが)、お好みで決めてしまって大丈夫だ。

前述の通り、HANOIたちは皆、ストレス診断テストにて芳しくない結果を出した者たちである。プレイヤーことコーラルは、塔の攻略と並行し、彼らのストレス解消も兼ねた交流にも取り組むことになる。HANOIたちとの交流の度合いは「親密度」と称されたアルファベットのランクで表記され、Aに近いランクほど親密な関係が構築できていることを意味する。

「親密度」は、主に塔の攻略中に発生する戦闘を重ねると上昇。ランクアップが発生するとHANOIとの会話イベントも発生し、彼らの性格などを深く知ることもできる。さらに親密度が上昇すれば、戦闘において「アシスト」なる追加攻撃、回復行動も発生しやすくなる。なるべく多くのHANOIとの交流を重ねるほど、有利に立ち回れるようになるので、極力色んなHANOIたちとパーティを組んでは試してみることが推奨される感じだ。

そんな親密度の上昇と絡む戦闘は伝統的なターン制。敏捷性の高いキャラクターから順に行動する仕組みだ。少し特徴的な部分としては、件の親密度に応じて発生する「アシスト」のほか、属性相関がある。相性に応じて与えるダメージが変動するというものだ。とりたて珍しいものではないが、本作が面白いのは属性が火や水といった物質ではなく、人間の性別・年代で設定されていること。男性、女性、老人、子供の4つから成り立っているのだ。

これを踏まえ、本作は敵も属性に基づく設定が凝らされ、明確に区別が付くようになっている。区別が付きやすいため、弱点属性を突く戦術が直感的に立てられるというのも大きな特徴だ。こう言った分かりやすさを出す工夫が傑出しており、独特な遊び心地を表した作りになっている。難易度も属性相関の意義を強く押し出す調整で、いかにそれを突く戦術が勝敗を左右するかということを教え込まれるだろう。

そのほかにもバーチャルゲーム特有の「ログイン」の概念を設けたことによる簡易的な行動制限(※2回外出すると、一旦ログアウトしなければならない)、ストーリー展開に影響を及ぼす「役職ストレス値」など、様々な独自要素が存在する。本部、塔とは別に「娯楽施設」なるマップもあり、敵から得られた素材を用いての武器・防具の作成のほか、ゲームの進行に応じた特殊なイベントが解禁されるといったお楽しみ要素も盛り込まれている。

まさに至れり尽くせり。拠点型のRPGとしては正統派だが、主にHANOIたちとの交流に並々ならぬ力が注がれており、キャラクターとストーリーを重視した方向性の軸が顕著に浮かび出た作品に完成されている。

読み切るだけでも長時間を要すテキストと、毒気の強すぎるストーリー

魅力も明瞭でストーリー……具体的にはキャラクター描写の異様すぎる濃さだ。

その象徴とも言えるのが膨大な会話テキスト。誇張抜きに1回本編をクリアするだけでは相当な見落とし不可避なほどの物量になっている。ストーリーの進行に関係しない何気ないイベント、その時限りの変化が生じる場面にまで専用の会話を仕込むという凝りっぷりなのだ。本当に僅かでもゲームが進むと同時に、見れなくなるものが何個もある。

一番象徴的なのは、「特別監視タグ」なるアクセサリを装備させたHANOIたちとの会話だ。このアクセサリを任意のHANOIに装備させると、塔攻略中に発生するストーリーイベントにその者1人が参加し、会話を繰り広げる。逆に言えば、装備していない者(残る2人、パーティメンバー以外)は参加しないので、会話が見られない。当然、一度見てしまえばイベントは再発生しなくなるので、他のパターンを確認したいなら直前のセーブデータをロードし、アクセサリを付け直して確かめるしかない。何ともストーリーを楽しみたい人の頭を悩ませ、悶々とさせる仕様になっているのである。

また、会話が膨大だからこそ、キャラクターたちの人物像も深いところまで掘り下げられる。とりわけ徹底しているのはHANOIたち。親密度上昇のたび、元々の性格とその過去、悩みが明らかになって、より素の姿へと迫っていける。ごく一部のイベントでしか知れない感情的な反応もあったりと、その作り込み具合たるや”鬼気迫る”という表現がこれ以上なくマッチする。

おかげで彼らへの愛着も湧きやすいので、様々なキャラクターの一挙一動を楽しむという”出会い”を求める人なら、本作の徹底したキャラクター作りと人間味あふれる表現の数々には虜になってしまうだろう。ちなみにHANOIたちに限らず、コーラルを始めとする他のキャラクターたちの掘り下げも徹底しており、それが様々なドラマを紡ぎ出す。

そんなドラマが描かれるストーリーも濃厚、かつ毒気の強い作風が異彩を放つ。登場キャラクターの容姿から、本作のストーリーに対して明るい内容を想像するかもしれないが、実際は真逆。人間たちの邪さを白日の元へと晒し、抉りに抉る毒々しいものになっている。特に本作の主な舞台となる「塔」では、階層ごとに人間の闇を題材にした仕掛けと直面することになる。

会社をモチーフにした塔なら、他の人間を(文字通り)蹴落としながら道を切り開いたり、病院がモチーフの塔なら凶悪な感染症による集団感染を引き起こすなど。どれもこれもプレイヤーの良心を抉る攻略が試されるのである。バーチャルゲームという設定なので、プログラムが”役目”を担っているだけに過ぎないが、そこに込められたメッセージは重く、生々しい。そんなプログラムをプレイヤーこと攻略する者が”役目”のため、倒さねばならないというえげつなさ。

まさに心を抉られる、(よくも悪くも)悪趣味の極みな体験が連続するのである。また、ゲームが進むと意志と心を持ったプログラムは生命と言えるのかといった哲学的なテーマが描かれ、プレイヤーの取り組む塔の”攻略”の是非も問われるようになる。

並行してプログラムたちを唆す”謎のバグ”が暗躍し始めると同時に、信頼していた者たちの内面に隠された闇も暴かれていき、混迷の一途を極め始める。それらを経験した末に待ち受ける運命的にして心揺さぶる結末。

会話の物量もさることながら、よくぞこんな強烈なものを……と唸る作り込み具合なのだ。そして、毒気が強いだけにかなり人を選ぶ。とりわけ一連の描写の中には、思い当たる過去を持つプレイヤーの気分を過剰に害するものもあるため、最悪、本作および作者に対して敵意を抱いてしまう可能性もある。故に本作をプレイする時には、相当な心の準備と覚悟が試される。

裏を返せば、驚異的な作家性と唯一無二の個性に秀でたストーリーでもある。決して出来が悪い訳ではない。それどころか頭ひとつ抜きんでている。しかし、猛烈に人を選ぶ。敵意を抱きかねないほどの劇物になっている。それほど他に類を見ない闇があるのだ。

正直、一通り経験して衝撃を受けた身としては、薦めたい思いと薦めたくない思いが逡巡している。だが、秀逸なストーリーであるのは間違いなく、作り込みの凄さもあってこうして紹介に至った。これを味わうか否かは完全にプレイヤー次第だ。繰り返しになるが、正真正銘の劇物である。精神的なダメージを負いかねない描写が満載だ。

あとは各々、判断いただきたい。
色々心揺さぶられ、気持ちを害されつつも最後まで楽しめることを願っている。

RPGとしても盤石の出来。だが、この毒々しさは……人を選ぶ。

ストーリーを重点的に取り上げたが、RPGとしての出来も良い。マップは毒気の強いネタ満載だが、そのバリエーションの豊富さは素晴らしいものがあり、あれこれ試行錯誤しながら攻略していく楽しさはしっかりしている。

塔ひとつ当たりのボリュームも大きい。また、階層ごとに常に違った景色が広がるので、次にどんなものが待っているのかとの期待から、率先して進めていきたくなる魅力がある。階層ごとの仕掛けにも、景色の違いを踏まえた個性付けを図っているというこだわりぶり。様々なダンジョンを攻略していく醍醐味を押さえた仕上がりには、決してストーリーだけに力を注いでいる訳ではない本作の凄味を感じ取れるだろう。

戦闘難易度も一方的になり過ぎず、手ごわくなりすぎずの良好なバランスが光る。あまりにも強すぎて勝てない、という敵やボスも、弱点属性を集中的に突くパーティを編成すれば驚くほど簡単に倒せてしまうなど、相手に応じた戦術を組み立て、実行に移す楽しさもちゃんと押さえている。この手の駆け引きが好きな人なら納得の手応えと満足感が得られるはずだ。

また、ストーリーとも関係するが、ボス戦では一定量のダメージを与えると会話が発生し、それによってどこまで追い詰めたのかを感覚的に掴める配慮が凝らされているのも見逃せない部分である。(この会話も凝っているので注目)

ボリュームもストーリーを進めるだけなら8~10時間程度と適度ながら、会話パターンなどの寄り道を含めると3~4倍以上に膨れ上がるのが面白い。HANOIたち全員の親密度を上昇させる、武器を揃えるなどのやり込みも盛り沢山なので、全てをやり尽くそうとなれば一般的な長編RPGに匹敵するほどの満足感が得られるだろう。

グラフィックもマップ、キャラクター共にオリジナルのドット絵で描写。特に戦闘シーンにて、細々と動くコーラルとHANOIたちのアニメーションは非常に凝っていて、見ているだけでも楽しい。演出面でもアシスト発生時のキャラクターグラフィックのバストアップ表示のほか、バーチャルゲームの世界であることを意識させるバグ絡みのエフェクトが強烈。雑魚敵たちの名状しがたい容姿など、所々にサイコホラー的な要素やカットもあり、そのジワジワ訴えかける表現はよくも悪くも強烈な印象を残すだろう。

他に戦闘を含め、静かで不気味な楽曲が揃った音楽も独特の雰囲気を醸し出しており、戦闘から闇に満ちたストーリーまでを大いに引き立てる。若干ながら、ボイスが用いられているところにも注目である。

少し気になる点で「親密度」の上昇は戦闘を何度もこなすことが基本になるため、HANOI全員を対象にすると作業感が爆発してしまったり、武器作成や全体マップ移動画面などのメニューが独特で、使い勝手がよくないというのもある。

また、雑魚敵たちのデザインも人によっては生理的嫌悪感を過剰に刺激するなど、ストーリーの次に好みが分かれる。出血、身体欠損などのグロテスクな描写もあり、可愛いキャラクターが無残にも潰される場面がある点も要注意だ。

そのような人を選ぶ部分が強すぎるため、推したくても自重したくなるのがもどかしいが、それがあるからこそ本作は屈指の傑作に仕上がっているところもある。

繰り返しになるが、本当に人を選ぶ。だが、刺さった人ほどもの凄く愛でたくなってしまう作りにもなっている。ひとつのRPGとしても確かな遊び応えがあり、その醍醐味も押さえているので、RPG好きも相応に楽しめる出来だ。

あとは心を抉られる覚悟を持てるか否かだ。「どんと来い」となれば突撃を。少し不安なら、序盤だけ遊んでみるというのもいいかもしれない。その末に塔を登る気持ちが勝ったなら……行こう。改めて、ようこそ毒々しいバーチャルゲーム『TOWER of HANOI』へ。

[基本情報]
タイトル:『TOWER of HANOI』
作者:せがわ
クリア時間:8~10時間(※寄り道込み:25~40時間)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
備考:12歳以上対象(※出血・暴力表現、不快な言語表現あり)、『RPGツクール2000』RTPのインストール必須

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/24302

※作品公式サイトはこちら
https://nantekotodesyoune.wixsite.com/towerofhanoi


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