ある時期より、毎年12月(時々不定期)にはフリーゲーム界隈において、とあるサンタクロースが出没するようになった。
そのサンタクロースの名は「ミコ」。
サンタ小娘とも言う。サンタ黒須ではない。
2021年も案の定、彼女は現れた。
それがこちらの『サンタク・ローグ』である。
サブタイトルは『ミコのクリスマスけいかく2021』。
このミコが主演する『ミコのクリスマスけいかく』は、実に10以上のシリーズがWindows PC用フリーゲームとして配信されている。本作はその最新作である。ちなみにPCダウンロード版以外にブラウザ版もある。
そして、なるほどすなわち過去作を遊んでおかないとダメな類だな!?……となるかもしれない。
ここで本作付属のreadmeファイルから一部を引用して紹介。
秩序や理性とはかけ離れたストーリーに前も後もあってないようなものなので、本作から遊んでもそれほど支障はないものと思われます。
それではごゆっくりお楽しみください。
作者 秋月ねこ卿
……ということで、ご安心いただきたい。
本作から始めても”ほぼ”大丈夫だ。
何を隠そう、筆者も本作がシリーズ初体験である。
はっはっは。(何かすみません)
探索、戦闘、イベント。全てが三択で決するローグライク
さて『サンタク・ローグ』のゲーム内容である。
名前からしてローグライクだろう、と考えるかもしれない。その通りである。思わせぶりに書く必要もないが、あえてそうした。
正確には「ランダムダンジョンRPG」。足を踏み入れるたびに地形が自動生成され、敵の配置、手に入るアイテムも変化するダンジョンの最深部を目指していくというゲームである。システム面でもその種のゲームお約束の要素を網羅。
ダンジョン探索の過程で力尽きてしまうと、最初の階層からのやり直しを問答無用の異論は認めぬ勢いで強いられるペナルティはその象徴だ。
そこに本作ならではのユニークなシステムが導入されている。そのシステムこそがタイトルにもなっている「サンタク」、漢字に変換して「三択」である。
その言葉通り、本作はゲームの全てが「三択」で構成されている。ダンジョンの探索も、戦闘も、イベントも全てが三択。選択に次ぐ選択が試されるのである。
具体的にその仕組みを解説すると、探索なら次に進むマス目を選ぶ(三択する)。本作の舞台となるダンジョンのマップ(階層)は、四角形のマス目で構成。その中央に主人公ことプレイヤーの分身になる「ミコ」が表示され、右側に向けて移動していくようになっている。この右へ進もうとする直前に3つのマスが黄色で囲われて表示され、どこに進むかを選ぶのだ。
このマス目の3択を繰り返し、階段を目指すのが各階層の主な流れになる。また、スクリーンショットが物語る通り、マス目には様々なアイコンが描かれている。
このアイコンはマス目に足を踏み入れた時に何が起こるかを示す情報。「弱、中、強」と描かれたマス目ならその強さに応じた敵との戦闘が、宝箱なら「N、R、SR」のレアリティに応じたアイテムの入手が、スイッチなら罠によるダメージが発生するといった感じだ。こういったマス目ごとに発生するイベントをこなしつつ階段を目指していくのである。
中にはアイコンが描かれていないイベント未発生のもの、「?」と描かれた足を踏み入れてみないと分からないものもある。さらにダンジョンの階層は上下左右方向に無限ループしている仕組みで、何度か動いているとスタート地点に戻ってくる。
だが、一度イベントを発生させたマスに足を踏み入れても同じイベントは発生しないほか、3度(※種類によっては2度)同じマスに足を踏み入れればそこには「死」と描かれ、通過するだけでダメージを受ける危険地帯になる。
そのため、長居するほどプレイヤーことミコが追いつめられてくる。ゆえにできる範囲内でイベントを発生させ、アイテムの調達などを効率的にこなすのも求められる設計になっている。
戦闘も同様。これも基本は三択。選択肢は現在、持っているアイテムを元にランダムで表示され、それぞれに備わった効果を加えた攻撃、回復技を繰り出せる。
仮にアイテムが少なかったり、ひとつもない場合だと「ホーリーキック」、「アイテム探し」の選択肢が現れる。なので、できることが無くなって詰むことはないものの、前者の攻撃は威力が低いため、アイテムを用いた時ほどの決定打にはならない。
それに本作は戦闘やイベントを通して攻撃力、体力の最大値は上げられるが、防御力は一時的に上昇させられるだけ。基本的にミコ自身は脆く、長期戦になるとかえって不利になりやすい。だからこそ、速やかな一手とアイテムを適切に管理する戦略が重要。探索とは毛色は異なれど、こちらもこちらで計画的な判断が試されるのだ。
そんな具合に本作は徹底して三択を突き詰めたローグライクになっている。他に本編はエピソード単位で構成されているのだが、このエピソードの数も3。どこからでも始められるため、ゲームスタート時に三択で決定する。
探索中に手に入るアイテムも8つを超えると9つ目入手時に捨てることになるのだが、例によってこれも三択。極めつけ、3の倍数の階層ごとに可能な中断セーブもするかしないか、説明を聞くかの三択である。
さすがタイトル名の半分以上が三択で構成される“サンタク”ロースのゲームといったところ。こんな細かいこだわりも炸裂しており、タイトル通りの「三択」なローグライクを満喫できる作品に完成されている。名を体で表すことを地で行っているのである。
ちなみに実はこの「三択」自体は過去の『ミコのクリスマスけいかく』にも存在し、そちらはRPGだった。本作はそれをローグライクに改めた作品な訳だが、結果的にありそうでなかった独自の一作が誕生するに至っている。
”見えそうで見えない”面白さと脳が震える怒涛の戦略性
一連の特徴が物語る通り、本作は三択に特化したゲームデザインが最大の魅力になっている。
とりわけ秀逸なのが、何が起きるか分かっているが、その先に何が待つかまでは分からないという”見えそうで見えない”もどかしさと面白さが描かれていることだ。なんだか表現的に卑猥な感じがするかもしれないが、気にしてはならない。
前述の通り、本作の階層はマス目で構成され、それぞれに何のイベントが発生するかを示すアイコンが描かれている。このおかげで、プレイヤーはそこに移動すると何が起こるのかが”分かる”。
弱と描かれたアイコンなら弱い敵との戦闘が発生し、Nと描かれた宝箱のアイコンなら相応のレアリティのアイテムが手に入る。そういった踏み込んだ際の内容が分かるので、あらかじめ発生するイベントに対して、心の準備をできるようになっている。
だが、そこから先の結果は”分からない”。何故なら手に入るアイテムの詳細は出ていないし、敵だって誰が相手になるかも分からない。教えてくれない。
さらには戦闘中に現れる選択肢もランダム。一撃必殺を決められる効果を持つアイテムの選択肢が確実に現れる保証はなく、場合によっては選択肢全部が攻撃ではなく、回復行動に限定される可能性すらある。それが元で手持ちのアイテムが過剰に消耗されたり、酷ければ体力をゼロにされてゲームオーバー、なんてことも起こり得る。
しかも、前述では触れなかったが、戦闘中の選択肢には「罠」も紛れ込む。そこに書かれた内容をちゃんと読んで決めなければ、こちらが一撃必殺となりかねないこともあるのだ。だが、それも読めば対処できるというのが”分かる”ので、危機は回避できる。しかし、そこから先は何もかもランダムな事象に左右されるために”分からない”。
こうしたことが常に繰り返されるので、気が抜けない。そして、退屈することがない。明確な回答と曖昧な回答が繰り返されるがゆえに集中して取り組み続けてしまう、圧倒的なスリルと中毒性を提供し、紛うことなき「三択のローグライク」という確かでどこか新しい遊びを楽しませてくれるのだ。
ローグライクはそのランダム性の強い作りから、パターン化が保証されないスリルと、それにどう対処して挽回するかというアドリブ力が試される作りを醍醐味のひとつとしている。本作はその醍醐味を押さえつつ、「三択」という題材を用いる形で大変ユニークなゲームの流れを作り出している。
その道を行けばどうなるのかは”分かる”。しかし、そこから先の結末は”分からない”。まさに見えそうで見えない。ある意味、選択の本質というものを思い知らされるような、秀逸な仕上がりになっているのだ。
特に結果を意識しながらの攻略、未来を想定する戦略を頭に浮かべながら遊ぶことで、このシステムの魅力は殊更に大きくなる。同時に本作が実は大変手ごわいストラテジーゲームということにも気付かされたりもする。
なので、本作はその手のゲームが好きな人ほど刺さるものがある。実際、マス目を辿っていく構成からしてそれっぽさがあるので、細かい仕組みを理解するたび、様々な戦略を頭に浮かべては実施後の結果に一喜一憂する過程が癖になってくる。
もちろん、ローグライクが好きな人にしても、ありそうでなかった新鮮味があるので、ぜひ試してみていただきたい限りだ。この”見えそうで見えない”感覚と、見た目以上に思考を巡らせる設計に唸らされるだろう。
システム周りにおいては、制約が上手く働いている所にも注目だ。現在の階層に長居すればダメージ地帯が増えて追い詰められていくマス目の仕様に、アイテム最大所持数の少なさはその最たる一例。特に後者は捨てる時に三択で問われてくる上、捨てるアイテムもランダムで選定されるので、いかんともしがたいもどかしさに悩まされ、時に悶絶するはずだ。ただ、割とアイテムの入手頻度が高く、早い段階でいっぱいになってしまうのは引っかかりを覚えるかもしれないが。
他に前述でも言及した罠の選択肢も、三択という題材とその制約を巧みに活かしたアイディアとして機能していて、仕組み的には嫌らしいのに憎めない面白さがある。言葉遊びを凝らしている所もあるほか、アイテムの使い方にも奇想天外がすぎるものが盛り沢山なので要注目である。何気なしに使った技が一撃必殺技になった時の瞬間もまた然り。
そう、サンタクロースの半分以上は三択で成り立つ!
奇想天外な選択肢が象徴する通り、ストーリーも色々ぶっ飛び気味。そもそも、最終的な目標からして相当にぶっ飛んでいる。クリスマスを台無しにしようと目論む、ハロウィンの軍勢をぶっ殺せである。逆『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』かよ!
登場キャラクター勢もエキセントリック。そして、露骨なネタとブラックジョークのオンパレード。人を選ぶのは否定しないが、不条理系ギャグマンガが好きな人ならば恐らく、あらゆるキャラクターに愛着が湧くだろう。
なお、ストーリー要素自体は最小限。本編にはそれほど長いイベントはなく、演出も全体的に簡略化されているため、大変スピーディに進行する。相応に効果音周りの演出は仰々しく、中でも敵を撃退した時の打撃音には笑いを誘う爽快感がある。簡略化した撃退時の演出も併せ、ギャグマンガっぽさも全開なのでそこも注目だ。
ボリュームも全3エピソード攻略だけでも10時間以上となかなかの密度。まさかの裏エピソードもあって、そちらも含めれば約2倍に膨れ上がりもする。
エピソードごとのボリュームも入門編に当たる最初のエピソードはクリアまで最長でも30分以内と遊びやすく、逆にエピソード3は3時間以上もかかるなど、露骨に個性付けされているのも面白い。後半エピソードほど難易度も上昇し、「?」のマスを始めとする独自の仕掛けが登場するようになるのも注目だ。
ゲームの基礎部分は純粋にローグライク(ローグ)なので、救済要素はほとんどなし。昨今は永続的にキャラクターのステータスを上げるシステムなど、難易度を下げる施策を凝らすタイトルも多いが、本作は一貫して戦略と判断力が試される構成のため、ジャンルに苦手意識のある人には辛い作りかもしれない。
また、全体的に手探りで各種システムを理解することを前提にしている設計のため、チュートリアルは簡素。何度も挑んで敗北しては覚えていくスタイルに徹している点もまた、人によっては拒否感を覚えるだろう。他に細かい部分で先も触れたアイテム最大所持数の少なさ、エピソード3のボリュームなど調整の余地があったのでは、と思える箇所もある。
ただ、それを意識させにくくする程度にシステムの完成度と独自性は突き抜けている。一見、ダジャレのようなタイトル名だが、三択とローグライクがいかに相性がよく、組み合わせることで新しい遊びが作れるのかという真理を思い知らされる内容。このジャンルが好きな人は言うまでもなく、ストラテジー好きにもぜひ試してみていただきたい意欲作だ。
例え今がクリスマスシーズン真っただ中でなかろうと、ハロウィンの季節でなかろうとも、このゲームの独自性は唯一無二に等しい。
サンタクロースの半分が三択で構成される理由(わけ)を確かめてみよう。
[基本情報]
タイトル:『サンタク・ローグ』
作者:あきね工房(秋月ねこ卿)
クリア時間:5~10時間(※3エピソード合計)
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/27334
※プレイはこちら(ブラウザ版)
https://plicy.net/GamePlay/126367