のどかで平和な「ピール王国」。
ここにツノの生えた女の子「キャッピー」が住んでいた。
ある日、キャッピーが目を覚ますと、自宅が大変なことになっていた。内部がいびつに曲がりくねって迷宮のようになり、至る場所に見知らぬモンスターたちが「がおー!」である。
一瞬、見て見ぬふりをしようとするキャッピー。
だが、このまま放置しておけば、さらに面倒くさいことになるのは確実。そんな自制心の働きにより、キャッピーは異変の元を探るため、しぶしぶ旅立つ決意をする。
だが、その前に自宅をどうにかしよう!
さもなくば何も始まらぬぞい!
……という感じに始まるのが本作『ぐれいてすとキャッピー』でありんす。
『WWA』オマージュ&独自の工夫満載のパズルRPG
『ぐれいてすとキャッピー』は2022年5月より、「ふりーむ!」にて配信中のWindows PC用フリーゲーム。ツノの生えた女の子で主人公のキャッピーを操作し、自宅を迷宮のように歪ませた異変の原因を辿るというのが主な内容だ。
ジャンルはステージクリア型のパズルRPGとなる。複数のエリアマップから構成されるステージを進み、ゴールへの到達を目指す。ゴール到達でステージクリアになり、次のステージが解禁。以降はその繰り返しだ。
具体的に本編の流れを紹介すると、ワールド単位で設けられたステージを順に辿りながら進行する。ワールドはドクロマークが記されたステージ、別名「ボスステージ」を攻略することでクリアになって、次のワールドへと移る仕組みだ。世界的な人気を誇る某赤い配管工のアクションゲームとほとんど同じ流れと言えば想像しやすいはずだ。そんなステージクリア型の定番に則った構成でまとめられている。
肝心のステージ全体は邪魔な敵を倒す、アイテムを拾う、仕掛けを乗り越えるの3つを基本に進めていく。RPGを名乗ることから、システム面では経験値とレベル、それに伴うプレイヤーキャラクターの成長、ターン制のコマンド選択式バトル、武具の装備などを連想するかもしれない。
だが、本作にはいずれも存在しない。成長要素自体はあるが、ステータス上昇用のアイテム(赤の「ATアップ」、青の「DFアップ」)を取得するだけで瞬時に成長する仕組み。戦闘も相手に近づき、Zキー(※キーボード操作時)を押せば自動で始まり、どちらかが倒れれば自動で終了する。武具に至っては「なにそれ?」である。
そんな大幅な簡略化を施したシステムになっている。
そして、この一連の仕様に古くよりインターネットに触れている人は既視感を覚えたかもしれない。「これは『World Wide Adventure』(通称『WWA』)では?」と。
ズバリその通りである。本作は『WWA』のフォロワー作品なのだ(公にも明言されている)。特に戦闘システム(「プレイヤー⇒敵」の行動順序)、成長要素周り、そして色分けされたカギのアイテムを拾って、扉を開錠する要素はほぼそのまま。『WWA』経験者なら、即座にピンとくるものになっている。
ただ、本作特有の仕様も。ひとつに既に言及済みのステージクリア型の本編。小分けされたダンジョンを攻略していく構成で、アクションゲーム的な味を秘めた遊び心地になっている。
もうひとつにステータスリセット。キャッピーのステータスはステージクリアのたび初期化される。どんなにアイテムを拾って強くしても、そのステージ限りのステータスで終わってしまうのだ。そのため、クリアしたステージを再プレイして強化を図り、力に任せで未クリアのステージを進めるみたいなRPG的戦術(攻略法)は実践不可能となっている。
逆にリセットされないものもある。それが3つ目の「スキル」だ。一部ステージに潜む「わざ教え仙人」を発見すると習得でき、カギなしで扉を開ける、ノーダメージでの敵の撃破時に体力回復といった特殊な技(能力)が繰り出せるようになる。中には被ダメージの軽減、扉を開けるたびにお金が手に入るといった補助効果を及ぼすもの、2回攻撃可能だが戦闘は敵先制から始まるというデメリットありの大技もある。これら3種はそれぞれ「アクティブ」「パッシブ」「パッシブ・デメリットあり」と名付けられて分類されている。
また、スキルは装備することで効果を発揮するのだが、付けられるのは最大3つまで。装備するかしないかで難易度が一変することもあるので、ステージによっては適切な判断も求められる。そのような戦略性も演出し、ステージ攻略に奥行きを与えるシステムになっている。
他にも敵との戦闘は近づいてZキーを押すと始まる(接触するだけでは”絶対に”始まらない)、戦闘に敗北しても直前に戻されるだけでゲームオーバーにはならない、ステージごとに「ノーマル」と「イージー」の難易度が選択可能なども本作特有の仕様となる。「スコア」の概念とその総合点に応じた金銀銅のメダル授与、突破済みエリアへのワープ移動といったやり込み要素・便利機能の存在もまた然り。
ベースはまさに『WWA』だが、その味わいは本作独自のもの。特にステージクリア型という点は際立っていて、さながらRPGのようなパズルアクションゲームとの印象を強く抱かせる作品に完成されている。
また、出口を目指すのが基本なことから「迷路ゲーム」とも称せるだろう。
ステージクリア型の醍醐味を押さえた構成と珠玉の遊びやすさ
本作の魅力は、ステージクリア型特有の遊びやすさにある。地続きの広大なダンジョンマップではなく、小分けされたマップをひとつずつ、順に攻略していく構成なので、単純に遊びとして取っつきやすい。
また、どこもゴールを目指す(ボスステージは除く)ことを意識すればいいと、迷路を解く感覚で楽しめるのも見所だ。区切りも明確なので、自分なりのペースで止め時を作りつつ、本編を進めていけるのも大きな強みだ。
そして、様々なステージを設けているなりに構成面での工夫も光る。
ジャンプ台やトゲを始めとする仕掛け、罠が登場するのは序の口。目の前に出口があるのに遠回りさせられたり、指定された敵を撃破するイベントが発生したりと、先へと進むたびにユニークな展開が繰り広げられていく。
また、本編は常に順番通り進行していく訳ではない。ステージ内に隠されたあるアイテムを回収すれば、先のステージへの近道も解禁されるようになっている。それとは無関係に道が分かれ、後半ステージが選べるようになる展開も設けられている。その場合、近道すれば厳しい展開になったりもするが、それを選ぶか否かは基本的にプレイヤーの自由。
そのような意表を突く仕掛けもあって、飽きさせない作りになっているのだ。そして、某赤い配管工のアクションゲームを知る人をニヤリとさせる。手法自体は本当に定番中の定番だが、そのお約束にして最も面白い所を的確に押さえているのは見事。プラス、スコアの総合点に応じてメダルがもらえる要素によって再プレイへの意欲も刺激している。これぞステージクリア型の醍醐味と言わんばかりの作りには、このタイプの遊びが好きな人ほど充実したひと時を楽しめるだろう。収録ステージ総数が結構多いのも見所。具体的な数はあえて言わないが、件の配管工のアクションゲームの第1作目並にあるとだけは言っておこう。
また、最終ステージが”エライコッチャ”な作りになっているのもあえて言及しておきたい。どう凄いかは「見れば分かる」としか言い様がない。ストーリー上の設定を絡めた”本気”を思い知らされる。同時に、このゲームが嫌でも忘れられなくなるはずだ。
遊びやすさはゲームシステム面においても際立っている。
とりわけ「事故」が起きにくい作りは特筆に値する。意図せず敵に接触して戦闘が始まる、扉に接触してカギを消費してしまうのがそれだ。元の『WWA』がそんな作りだったが、本作はどれもZキーを押さない限りは絶対に発生しない。敗北するか、消費してしまうかの結果は全てプレイヤーの判断で導かれることに徹しているのである。
それもあって、難易度面にも理不尽さがなく、公平なバランスが保たれている。仮に行き詰まった時にもメニュー画面を開いて「お手上げ」を選べば難易度を下げられる(※「ノーマル」限定)ので、力任せの攻略にシフトするのも可能だ。(※ただその場合、ステージ攻略時のリザルトに「イージー」でクリアした証が表示されてしまうのだが)
セーブもステージ攻略中であれば自由に行えるし、即座に戻したければロードも可能。戦闘に敗北してもゲームオーバーで最初からやり直しにならず戦闘に挑む直前の状態に戻されるだけなので、ストレスは皆無だ。成長によって、敵へ与えるダメージがどうなったかも画面左端の情報欄で逐一確認できたり、一度突破したエリアに戻る際にもワープ機能を使えば即座に戻れるのも便利の極み。
本当に「ここまでやるか」と言わんばかりにこだわり尽くしているのだ。さながら現代仕様の『WWA』。経験者ほどこの作りには驚きと戸惑いを覚えるかもしれない。同時に未経験者(初心者)はこの手のシステムの魅力がよく分かり、堪能できる。そして敵を倒す順序、スキルを選別する戦術・戦略を練る楽しさに没頭していくようにもなる。
そんなバランスの良さが全編に渡って炸裂している。これぞストレスフリー、と言わんばかりのまとめ具合なのだ。ステージクリア型特有の工夫を凝らした構成もインパクト十分だが、こちらも負けず劣らない。特に事故を防ぐための対策は、シンプルながら理にかなったものにまとまっているので、プレイしながらその利便性を味わってみて欲しいところだ。
画面下の”心の声”も見逃せない、遊び応え抜群の良作
このような多彩なステージ、快適なシステムと共に描かれるストーリーもゆるふわギャグ満載で見所多し。作中で起きる事件こそ割と深刻ながら、ゆるいノリで展開される楽し気なものになっている。登場キャラクターも主人公のキャッピーを始め、個性豊か……というよりはクセ強め。ワールド限定のゲストキャラクターからモブにすら強烈な個性付けが図られていて、嫌でも印象に残ってしまう。
また、画面中央下のウィンドウにはキャッピーのコメント(心の声)が挿入される。主にキャラクターに話しかけたり、物を調べた時などに表示されるのだが、このバリエーションがやたら豊富。そして、基本ツッコミ中心なのでいちいち楽しい。メイン画面の下に表示される関係で見落としやすくもあるのだが、特にキャラクターに話しかけた時はぜひ、こちらを注目いただきたい。ただでさえ、ゆるくて楽しい雰囲気が引き立つはずだ。
ストーリーに関してはワールドクリア後には専用のデモが挿入されるなど、演出周りも凝っている。その真価が発揮されているのが、前述にも取り上げた最終ステージなのだが、例によって見てのお楽しみである。
このほかグラフィックもキャラクターのドット絵が非常に可愛らしい。敵のドット絵は特にその傾向が現れており、雑魚敵のスライムはその象徴。思わず「本当に敵か?」と疑ってしまうほどである。残念ながら敵です。倒しましょう。慈悲はない。
ボリュームも普通にエンディングを目指すだけでも10時間以上は要する規模。メダル集め、隠しステージといったやり込み要素も豊富なので、それらも遊び尽くそうとなれば2割増し不可避である。その物量には熟練者も手こずるかもしれない。
全体的に作り込まれている本作だが、地味に気になる難点も。中でもステージ攻略中、次のエリアへ移行して画面が切り替わった際、キャッピーがどこにいるのかを見落としやすい。
これは画面内の情報密度が高いのが影響している感じだ。幸い、本作はZキーを押さない限り戦闘に移行しないため、これがもとで事故に繋がる心配はない。ただ、テンポが犠牲になるデメリットこそあるが、切り替わった際にアイリスイン・アウトの演出(画面を丸く閉じながら暗転させる表現)を入れると良かったように思える。
また、本作のセーブは手動形式になっていて、メニュー画面を開いて該当項目を選ばないと実施されない。すなわち、ステージクリア後に自動的にセーブされない。クリア直後にリセットすれば、それまでの進捗は無に帰してしまうのだ。当然といえば当然の仕様だが、その辺の説明がなくてやや紛らわしく、事故に繋がりやすい。とりわけ昨今はオートセーブが定着しつつあるだけに尚更。せめて、ワールドマップ上にセーブを行うキャラクターを設けて誘導するみたいなことはあっても良かったように思う。
他にこれは完全に好みだが……ストーリーにて、キャッピーが対立する悪役キャラクターが口癖のように「フ●ック」と言いまくるのは人によっては気になる……かも。(※念のためですが、本編は伏字なしです)
最後に長々と指摘してしまったが、完成度の高いゲームなのは間違いない。『WWA』のオマージュ作品としても見事にまとまっているだけでなく、事故が起きにくい遊びやすさとステージクリア型ならではの構成は秀逸なものがある。『WWA』を知る経験者はもちろん、全くの未経験者やこのゆるい世界観に惹かれる人にも自信を持っておすすめできる力作だ。
歪みくねった迷宮のようなステージを進み、異変の解決へと挑もう。
そして、この事件を引き起こした者を”ペシペシ”しよう。
[基本情報]
タイトル:『ぐれいてすとキャッピー』
作者:あきろう(Unrecorded Futon Nukunuku)
クリア時間:10~20時間(完全攻略:20~30時間)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/28310