今回紹介するのは、フリーゲームとして公開されている中編RPG『精神仕掛けの浪漫劇』。大正浪漫チックな世界観や、戦闘を劇的に盛り上げる独自システムが魅力の作品だ。
本作は、今年6月の初公開からバージョンアップを重ね、ゲームバランスや遊びやすさの面で改良が行われている。とくに9月に公開されたバージョン1.5で格段にとっつきやすくなったので、この機会に本作の魅力を紹介したい。
大正浪漫風×神と魔法の世界観で描かれるRPG
本作の物語は、純喫茶で働く少女「神楽椿」が、病気の治療のため異国からやってきたという男性「ジェラード・チャーチル」に出会うことから始まる。治療のためには神の世界にある6つの鍵が必要で、そこへ赴くには椿の力が必要だと協力を依頼するジェラード。椿はジェラードと共に神の世界へ向かうが、やがて椿の許嫁で彼女を巻き込むジェラードを良しとしない武道士官学校予科生「宗近勇一郎」や、ジェラードを犯罪者として追う国際魔法警察の「フレイヤ・ウィーゲルト」も加わり、それぞれの思惑も抱えつつ神の世界を巡っていく。
本作の“現実世界側の”舞台となるのは、自国と異国の文化が交わる「交流街」。国や時代は明言されていないが、和装の女性店主が切り盛りする純喫茶にマントと制帽をまとう士官学生など、大正浪漫を感じさせる雰囲気をもつ。それに加えて、神のもたらす魔法の力が異国からもたらされるという時代背景が本作の世界観を作り上げている。台詞のテキストにおける言葉選びが、近代日本文学めいた趣を醸し出しているのも独特の魅力だ。
二つの独自システムによって“劇的”に展開するバトル
ゲームは拠点となるジェラードの屋敷から神の世界(ダンジョン)へと転移してこれを攻略し、最奥にて神と戦って鍵を得るという形で進行する。戦闘は敵味方が入り交じって行動するいわゆるCTB方式のコマンド選択型。剣、槍、銃といった武器あるいは炎、水、天といった魔法の各種スキルを駆使して戦っていく。そしてこれを盛り上げる二つの独自システムが、本作の戦闘における大きな特徴となっている。
一つは「演出コンボ」。すべてのスキルには序・破・急のいずれかが割り当てられており、敵の行動を挟まず序→破→急の順番でスキルを使うことでさまざまな能力アップのボーナスが発生するというものだ。このボーナスは戦闘中永続する。
もう一つが「フィナーレスキル」。敵味方で共有する「フィナーレゲージ」がスキルを使うことで上昇し、ゲージをフルにしたキャラクターが非常に強力な固有の技を発動できる。ただしこれは敵も同様で、敵がゲージをフルにした場合はこちらが大技を食らってしまう。
これらのシステムは、とくに長期戦となるボス戦で真価を発揮する。演出コンボは積み重ねていくことで戦力が着実に上がるので、色々なスキルを使ってみるきっかけにも繋がるだろう。フィナーレスキルには大ダメージの攻撃技だけでなく、全体全回復や一定ターン不死身化といった効果を持つものもあり、一気に畳みかけたりピンチを立て直したりと、戦況を劇的に変化させる。「Romancing finale!」の表示と共に挿入されるカットインも華やかに戦場を盛り上げる。
とはいえ敵味方でゲージ共有という性質上、いつでも確実に狙ったフィナーレスキルを発動できるとは限らない。とくに敵が複数いたり、複数回行動する場合は防御などでゲージ増加タイミングをずらすといった立ち回りもポイントとなるだろう。
また、スキルを使ったりダメージを受けると「BP」が上昇し、フルになるとHPが全回復、スキル使用で消費するSPが50%回復、さらに能力値が上昇して即座に次の行動へ移れる「ブースト」を発動可能。これ自体は比較的ポピュラーなシステムだが、ポイントは「敵もブーストをしてくる」こと。さすがにHP全回復はないが、通常とは異なる連続行動でフィナーレスキルを奪われる、なんてことも起き得る。敵のBPは確認可能なので、ブーストをどう凌ぐか、あるいは状態異常などで阻害するかといった戦術も重要だ。
こうしたシステムで演出されるボス戦は、ボスごとにコンセプトを感じるような調整で、なかにはシナリオの展開と連動するような特殊な状況が発生することも。力押しだけで勝つのは難しい戦闘もあり、RPGとしての歯応えはなかなかのものだ。
一方で、本作ではキャラクターにレベルの概念はなく、戦闘に勝利するたびにランダムで能力値が上昇する仕組み。もともとザコ戦はテンポよくこなせるレスポンスのよい作りなのだが、さらには設定で「クイック戦闘」をオンにすると格下との戦闘を一瞬で勝利扱いにできる。ちょっと戦力が足りないな、というときの稼ぎをサクサクこなせる遊びやすさも魅力となっている。
劇的展開を見せるシナリオに、システムも作り込まれた良作
物語が進むと、初対面の人間からの怪しい依頼をあっさり引き受けてしまう椿の異様にすら感じる献身ぶりや、フレイヤのジェラードに対する複雑な想いなど、キャラクター達の抱える事情も紐解かれていく。同時に神の世界を巡って鍵を集めるという目的に秘められた真実にも迫っていくのだが、終盤にはさらにもう一段階、はっと目が覚めるような劇的展開が待ち受けている。大きな流れに翻弄される中で、それぞれの意思や覚悟を固めていくキャラクター達も見どころだ。
また、交流街を巡るときの会話などでは、キャラクターのさまざまな一面を垣間見られることも。自己主張が控えめな椿と実直な勇一郎という許嫁同士の初々しいやり取りなどは、また別の意味での浪漫を感じさせるものがある。
本作のプレイ時間は、進め方にもよるが交流街で発生するサブシナリオなどもこなしていくと10時間ほど。今回の記事では本作を特徴付ける二大システムに焦点を当てて紹介したが、他にもスキル種別ごとの熟練度など紹介しきれなかった要素もまだまだある。大正浪漫テイストに惹かれる人はもちろん、システム面もぱっと見の印象よりもかなり作り込まれているので、遊び応えのあるRPGを探してる人にもぜひ触れてみてほしい作品だ。
[基本情報]
タイトル:精神仕掛けの浪漫劇
制作者:セピア色の庭園
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/28417