『ミチル見参!』というフリーゲームをご存じだろうか。恐らく、2000年代初頭よりフリーゲームを嗜んでいる人なら、ピンとくるかもしれない。
『ミチル見参!』とは、2004年公開の「RPGツクール2000」製フリーゲームで、第1作の後、続編が相次いで制作・公開され、シリーズ化を遂げた。
中でも2006年公開のシリーズ第3作『ミチル見参!旅は道連れでゴザルよ』、2007年公開のシリーズ第5作『ミチル見参!カラクリ大騒動』は、1994年から2008年にかけて開催されたアマチュアデジタル作品のコンテスト「コンテストパーク」(通称:コンパク)において、それぞれ金賞に輝いている。そのことから、コンパクの常連作品としての印象を持っている人も少なくないかもしれない。
また、シリーズ第4作の『ミチル見参!魔界境物語』は「RPGツクールVX」の公式サンプルゲームとして、シリーズ第6作の『ミチル見参!月夜の踊り子』は「アクションゲームツクール」の公式サンプルゲームとして収録されている。こうした経緯から、ツクールシリーズのユーザー間においても、『ミチル見参!』は名の知られた作品と思われる。
そんな『ミチル見参!』だが、前述の2010年公開の『ミチル見参!月夜の踊り子』以降、シリーズ展開が中断。長らく新作が出てこない状況にあった。
そして前作から実に12年の時が経った2022年9月29日。ついに長き沈黙を破り、『ミチル見参!』の新作がフリーゲーム配信サイト「フリーゲーム夢現」にて公開された。
それがこちらの『ミチル見参!運気奪還 侍と魔女の珍道中』である。なお、10月3日からはフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」での公開も始まっている。
魔女っ娘と侍がドラ猫どもを追いかける、ステージクリア型アクション
『ミチル見参!運気奪還 侍と魔女の珍道中』は前作『ミチル見参!月夜の踊り子』に引き続き、横スクロールのステージクリア型アクションゲームである。制作ツールも前作と同じ「アクションゲームツクール」……のはずがない。「アクションゲームツクールMV」で制作されている。なぜなら、12年越しの新作であるからだ。
ゲーム制作ツールの進化は日進月歩なのである。
なお、『ミチル見参!』は多くのシリーズ作が出ているが、どれもストーリーは独立している。そのため、どの作品から始めてもほとんど支障がない。今回の新作でもその特徴は引き継がれていて、『ミチル見参!』というゲームを全く知らないという人も事前知識ほぼ不要で遊べる安心設計となっている。
とは言え、『マギスク』というゲームのことは少し知っておくといいかもしれない。
『マギスク』とは、2019年に『ミチル見参!』の作者、ふくしんすけ(旧名:あさソン)氏が制作したWindows PC用フリーゲームで、魔法学校を舞台にしたコミカルRPGだ。本稿執筆時点でも「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」の2つのサイトにて公開中である。
『ミチル見参!運気奪還 侍と魔女の珍道中』のストーリーは、そんな『マギスク』とコラボしたものになっているのだ。ただ、念のため、別に『マギスク』のストーリーを1から10まで知っておく必要はない。最低限の知識さえあれば十分に楽しめる。
とりあえず、主人公が「ノリス」という魔法使い兼何でも屋の女の子であることを覚えておくといいだろう。間違っても「ノリスケ」じゃないぞ。(???「ハーイ」)
随分前置きが長くなってしまったが、内容の紹介に入っていこう。
ストーリーは、ノリスが東の国「ワッフー」を訪れた所から始まる。ノリスは何でも屋の仕事として、「お土産屋」へと荷物を届けにやってきた。しかし、その途上で猫のようで人間のような”なにか”とぶつかる。その者はノリスにひと言残したあと、すぐに姿を消してしまったが、ふと気づくと持ってきたはずの荷物が消えている!
お土産屋の店主より、ぶつかってきた”なにか”の正体が開運グッズ、縁起物を盗む「ドラ猫盗賊団」と知ったノリスは、荷物を取り戻すため、そしてお土産屋の店主のお願いに応えるため、彼らの後を追う。そんな流れを経て本編は始まるようになっている。
……って、あれ?ミチルは?
ミチルは「ドラ猫盗賊団」の猫人間たちを見るためにノリスに同行します。
いや、それ以前にお前、どこに隠れていた?
お土産屋でノリスに挨拶した後、一部始終を見ていたようですよ。
それで主人公?
主人公ですよ。
そんなので大丈夫なの……。
どうなんでしょう。
何はともあれ、基本的なゲームの内容は前述にて少し触れた通り、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームだ。ミチル、ノリスの2人のキャラクターを操作し、様々な仕掛けと敵が待ち受けるステージを攻略していくというものである。最終的に各ステージ最後に待つボス戦(※一部ステージでは、雑魚敵の襲撃イベント)を乗り越えればステージクリア。ジャンルとしては王道中の王道とも言える構成となっている。
システム面も残機、ダメージ制といった定番の要素を網羅。道中に散らばっていたり、敵を倒した時に落とすクリスタルを集めると「スキルゲージ」が溜まり、満タンになると強力な攻撃が出せるようになるものもある。
特徴的なものではキャラクターチェンジ。(Xboxコントローラ使用時)Bボタンを押すと操作するキャラクターを変更できるようになっている。ちなみにデフォルトはミチルである。ノリスに同行するだけの存在のくせしてデフォルトとは生意気だ?いやいやいや!何を言うか!このゲームの主人公はミチルだぞ!当たり前だろう!
とにもかくにも。そんなミチルは木刀による斬撃を基本の攻撃としている。ノリスは魔法の杖による魔法……ではなく、それによる殴打となる。「魔法使いなのに物理攻撃とはなんと野蛮な娘ッ!」とか言いたくなったかもしれないが、ご安心あれ。
ちゃんと魔法も用意されています。ただし、簡単なコマンドの入力が必要。方向キーの上と攻撃ボタンを同時に押すといった手順を踏まなくてはならないのだ。
逆にミチルだとコマンド入力で剣術の技を繰り出せるという仕組みである。このような攻撃面での差別化が図られており、それぞれ異なる戦術で敵への対処が行えることをシステム上の醍醐味としている。ステージにもこのシステムの活用を促す場面がいくつか。ただし、普通にステージをクリアするだけなら、強制はされないというのがミソ。ミチルかノリス、どちらかでなければ絶対に乗り越えられないような極端な仕掛けはなく、プレイヤーの直感に委ねた攻略が楽しめるよう設計されているのだ。
そうした作りからも、アクションゲームとしてはお手軽寄りの作風。詳しくは後述するが、完全なクリアを目指す場合はキャラクターチェンジの使用不可避だが、単純に最後まで遊びきるだけなら縛られることはない。
そんな”ゆる~く”遊べちゃう作りが本作の大きな魅力。ストーリーの導入部分、キャラクターたちの雰囲気の全てがまさに想像を裏切らないのだ。
狙いすました”ゆる~い”作り。そして、チラつく某名作の影!?
”ゆる~く”遊べるなりに難易度も易しめ。
後半ステージにシビアなジャンプアクションが試される場面こそあるが、何十回もトライ&エラーを何度も繰り返すほどではない。
その種の場面が長続きすることもないので、アクションゲームがあまり得意でない人も安心して挑戦できるバランスになっている。ついでに言えば、本編に用意されたステージは6つだけ。エンディング到達までに要する時間も短めだ。
裏を返せば、アクションゲームに手慣れた人には物足りなさを感じるボリュームではある。ただ、6つのステージはいずれも仕掛けなどの個性付けが明確に加え、一部には横スクロールのシューティングステージもあったりと変化に富んでいる。また、単純にクリアするだけならばホドホドだが、隠された「招き猫」の全回収を目指した場合、キャラクターチェンジの活用、ステージ全体の探索が求められてきたりと、そこそこ手強くなる。受けるダメージを最小に留めるプレイを目指した場合もまた然りだ。
そのような遊び方次第で異なる手応えが得られる点で、繰り返しプレイに耐え得る作りになっているのは、短めのアクションゲームとしては大きな強みといってもいいだろう。
特にキャラクターチェンジは、普通にステージをクリアするだけならほぼ強制されないのが落とし所として絶妙だ。攻略の面白さを引き立てるシステムを採用しながら、強制させる工夫をしていないのは宝の持ち腐れだと言いたくなる側面もある。ゆえにこの落とし所に関しては賛否が分かれやすい。ただ、本作の”ゆる~い”作風を踏まえれば適切。
何より、この種のシステムは活かし方を誤れば、制作側が指定した攻略法をなぞっているという”やらせ”の印象を実感しやすくなる負の側面がある。使い方に極端な制限を設けたりすれば、折角の2人それぞれで異なるアクションも気軽に楽しみにくくなる。
なので、そういった遊びは「招き猫」探しに割り振って、他は純粋に2人を使い分けるアクションを存分に楽しむ形にするこのまとめ方は、とても理に適っているといってもいいだろう。ガチガチの本格アクションという方向性なら、逆に物足りなさが生じたかもしれない。しかし、”ゆる~く”遊べるアクションならこのバランスが合っている。
そうした説得力のある易しさが表現されているだけでも、このバランスは十分に魅力として評価できるだろう。あえて他作品の名前を出してしまうが、筆者個人としては初代『星のカービィ』に近い思想を垣間見た印象だ。
そして、全編に渡って愉し気な展開が続く所には、長らくシリーズ展開が止まっているどころか、2022年現在も復刻が停滞気味の『がんばれゴエモン』シリーズが脳裏を過ぎった次第である。
というか、明らかに『がんばれゴエモン』(具体的には『がんばれゴエモン2 奇天烈将軍マッギネス』)で見たような仕掛け、敵が登場する時点で狙っている。
なおかつ音楽も和風でノリノリなジャズ中心である(しかも、ほとんどが本作オリジナル)。経験者なら意識してしまうのも無理はない。それどころか、人によっては余計にゴエモンシリーズの現状を憂う気持ちになってしまうかもしれない。
かくいう筆者はそうなってしまった次第です。
いつになったら帰ってくるんだよ!がんばれよ!
というか、『きらきら道中』を現行の環境で早く遊べるようにしてくれよ!
……って、一個人の勝手過ぎる叫びをお詫び申し上げるでござる。
最初から最後まで笑いに溢れたゲームをお探しならぜひ!
そういった往年の名作が脳裏をよぎる小ネタも詰まったステージは見所多し。道中に現れる敵も特に「ドラ猫盗賊団」絡みの面々が実に印象的だ。というよりも、デザイン的に見ているだけでジワジワ来る謎の存在感と味わい深さがある。一部ステージで戦うことになる幹部勢も、やたら強烈な個性付けが図られているので注目である。
そんなジワジワくる魅力(?)を秘めたグラフィックも素敵な仕上がりだ。中でもミチル、ノリスはそれぞれのアクションを決める際、その見た目に違わぬ可愛らしい動きを披露するので、見ているだけでも楽しい。ステージクリア時の決めポーズも必見だ。
操作に関しても、コマンド技は方向キーとボタンの簡単な組み合わせで出せるので、煩わしさは感じさせない。ただ、ダッシュ移動が方向キー2回押しで、やや指に負担がかかりやすいのは人によっては気になるかもしれない。このダッシュとの組み合わせで発動する技が、汎用性高めであることもそれに繋がっている。また、通常攻撃(ミチルの斬撃、ノリスの殴打)はリーチにそれほど違いがないのも少し気になるところ。ミチルの木刀は正直、もう少し長くしても良かったように思えた。
他に気になった所は、スコアがあまり意味を成していないことだろうか。これに関しては、全6ステージをセーブなし、クリア済みステージの再訪不可能という縛りを設けた「アーケードモード」でもあれば意味を成す気がするが、そのようなものがないため、浮いてしまっている印象が否めない。あえてバッサリ切り落とすのも選択肢だったのでは、と思った次第である。
あと挙げるものとしてはボスを撃破した時の演出が非常に素っ気ない、シューティングステージで弾を打ち込んだ(命中した時)に効果音が無いために手応え(手触り)が弱い、ストーリー的にミチルの影が薄いことだろうか。ミチルの扱いは狙っている可能性大だが。
色々挙げたが、実は本作、公開後にアップデートが行われていて、一部機能の改善が図られている。そのため、今後改善が図られる可能性もあるので、何らかの手が加わることに期待したいところだ。
念のためだが、現段階でも”ゆる~く”遊べるアクションゲームとして綺麗にまとまった仕上がりだ。ストーリーもシリアス要素皆無のギャグ主体のため、最初から最後まで笑いに溢れたゲームをお探しの人にも打ってつけ。短編のため、僅かな時間にサクっと遊べる強みも持つ本作。アクションゲーム好きからあまり得意ではない人にもおすすめできる1本だ。
魔女っ娘と侍の2人を使いこなし、バチ当たりでなんだか”ジワジワ”くるドラ猫たちを成敗しよう!あと、最後に大事なことをひとつ。
主人公はミチルですよ!
[基本情報]
タイトル:『ミチル見参!運気奪還 侍と魔女の珍道中』
作者:ふくしんすけ(あさソン)
クリア時間:50分~1時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちら
◇フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/action/game_10546.html