岩場にある集落「シイ」の村で催される、年に一度の祭り「サウィン祭」。そこでは村の守護神である妖精「黒馬の英雄」に生贄を捧げる習わしであったが、日照りにあえぐ村では生贄の牝牛を用意できなかった。祭りを取り仕切る司教の一声で代わりの生贄に選ばれたのは、その場を通りかかった墓守の少女・エリンだった――
『シイの墓守―The Good People―』は早見さらり氏の制作による短編RPG。2022年10月22日にオンラインで開催された「クリエイターズ文化祭2022」で先行配布されたのち、同年10月30日よりふりーむでの一般公開が開始されている。猟奇・暴力表現を含むため15歳以上推奨作品(R-15)となっている。
その日、箍の外れる音が聞こえた
サウィン祭の生贄に選ばれたことで、それまで無感情に生きてきたはずのエリンに沸き起こったのは「死への恐怖」。祭りが始まる16時間後までに、どうにかして生贄にされることを回避しなければならない。
あらゆる手を、使ってでも。
当然ながら現代の倫理に照らし合わせれば許されざるものと言えるし、実際にそのような凶行をとるかどうかはプレイヤーの選択次第となるわけだが、追い込まれた状況に置かれたが故の行動原理を納得できてしまうだけの「筋の通り方」にこそ、本作の空恐ろしさが隠されている。
周りを見渡してごらんなさい。
常日頃から自分を嫌い、自分が殺される事を喜ぶ兄、
私利にまみれた司教、見て見ぬそぶりの騎士、
生贄を他人事として目もくれない村人たち。
ああ、なんと「良き人々」なのでしょう――
村を探索しイケニエ回避の手がかりを探せ
改めて本作での目的について説明すると、エリンを操作して村の中を探索し、生贄になることを回避する手だてを探すことになる。その方法は多岐にわたり、最終的には14のエンディングへと分岐する。一定歩数ごとに時間が経過し、ゼロになってしまうと火あぶりが確定してしまう。とはいえども制限時間はそこまでシビアではなく、余程意図してうろつき回らない限りはタイムリミットまでには何らかのエンディングには到達できるはずだ。それが良い結果か悪い結果かは別として…。
特定のマップを訪れたり、特定の箇所を決定ボタンで調べることでエリンが生贄を回避する方法をひらめくことがあり、その内容はメニューの「命の覚書」に記録される。一度エンディングを迎えた後、改めて最初からプレイしなおす場合でも、覚書の状況はそのままになっているので、もし何をすれば良いかを忘れてしまった時は覚書を見直すと良いだろう。
探索が中心となることからRPGというよりはアドベンチャーゲームに近い作風ではあるが、時としてターン制の戦闘シーンが発生することもある。相応の準備ができていないと勝てない状況に陥る場合もあり、逃走コマンドも存在しないためデッドエンド直行ということも発生しうる。探索で見つけた装備やアイテムなどで上手に地力を整えていこう。
わくわくケルト神話入門!?妖精伝承の深みへ
作中の世界観を織り成す妖精の伝承は「ケルト神話」が主なモチーフとなっている。ケルト神話と言われても馴染みがないという人も、他のファンタジー作品などでもよく引用されている「バンシー」や「クー・フーリン」などの名前を挙げれば思い当たるものがあるのではないだろうか。それらの伝承の数々を想起させる点が散りばめられており、「知っていればニヤリとさせられる」を地で行くのも本作の魅力だ。本作を足がかりにケルト神話について調べてみるのも一興だろう。
また、いくつかのエンディングでは妖精の領域である「水辺」についての関係が語られる。個々のエンディングでは伝承の一片のような形で「水辺」について触れられるのみだが、それらは真相究明編となるEND14で語られる内容にも結びつくものになっており構成の巧みさが光る。1つのエンディングで満足せず、ぜひ全てのエンディングを見るまで遊んでほしい。
[基本情報]
タイトル: 『シイの墓守―The Good People―』
制作者:早見さらり
クリア時間: 1時間~
対応OS: Windows
価格: フリーウェア
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(ふりーむ)
https://www.freem.ne.jp/win/game/29258