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Channel: フリーゲーム –もぐらゲームス
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双子と悪魔の”愛と罪”を緩急ある構成と共に紡ぐ、長編ホラー探索ADV『ラジアータの愛染罪』

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数年前より、各地で犯罪に手を染めた者たちが相次いで失踪する謎の事件が起きていた。

モデルで姉のアザミ、医学生で弟のアセビの双子の姉弟は、いつもの日常を送る中、なぜかその事件の元凶と思しき者に襲撃される。それによって意識を失った2人は、謎の世界へと送り込まれてしまう。
その世界には、行方不明の犯罪者たちがいた……。

そんな異様な世界からの脱出劇を描いた探索型ホラーアドベンチャーゲーム『ラジアータの愛染罪(あいぜんざい)』。
制作途中フリーゲーム3選(2022年1月号)」にて取り上げた本作だが、11月12日に最後のCHAPTERを追加するアップデートが実施され、堂々の完成を迎えた。

最終章の追加によって、どんな見所を持つ作品になったのか。
改めて、単独記事にする形でその内容を紹介していこう。

なお、少しだけ序盤のネタバレに言及することをご容赦いただきたい。

現実世界への帰還を目指し、双子と”悪魔”が協力し合う

ゲームの内容は章(CHAPTER)を順に進めていく、マップの探索要素を持ったアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは主人公の双子、アザミとアセビのいずれかをストーリー展開に沿って操作。行く手を阻む仕掛けを解いたり、襲い来る脅威から逃れるといった様々なイベントを攻略しながら、現実世界への帰還を目指す。

探索型アドベンチャーゲームとしての作りは王道寄り。主人公が双子なことから、操作対象が2人となっているが、交互に切り替えて謎を解く類の要素はそれほどない。前述の通り、基本はストーリーに沿ってどちらかを操作する形を採っている。厳密には最後まで交互に切り替える要素なしという訳ではないのだが……詳しくは本編にて。

ただ、探索の際に”仲間”が同行し、彼らの協力を得て謎を解くという要素がある。「制作途中フリーゲーム3選」での紹介時は、その仲間に関する言及を避けたため、改めて紹介しよう。
(見出しで言及済みだが)仲間というのは”悪魔”である。

主人公の双子が送り込まれたのは、人間を食らう悪魔が活動する「魔界」

この魔界で2人は諸々の成り行きを経て、「レナ」と「リコリス」という2名の悪魔と協力して現実世界への帰還を目指していくのだ。

彼らが仲間になると、探索の選択肢が僅かに拡大。レナは力に秀でていることから重いものを持ち運べる、リコリスは魔力に秀でていることからそれに絡んだ謎解きの答えを導き出せる……という具合に、先に進むための突破口として活躍してくれる。

とは言え、本編はストーリー主導で進むため、あまり個々の力を自由に駆使できる類の場面はない。マップも移動範囲に強めの制限がかかる関係で尚更である。

ただ、終始ひとりで探索を繰り広げていく訳ではないことで、主に謎解き周りでは協力し合う楽しさが表現されている。時折、(双子を含む)いずれかのキャラクターを選んで、固有のルートを辿れる分岐イベントが設けられているのも、この設定特有のものといったところだ。(ちなみにエンディングにも分岐の仕掛けがある)

他に彼らとは雑談ができる場面もあって、そこで得た情報に応じてプロフィールが更新されていく要素もある。双子にも同じ要素は設けられており、ゲームが進むに応じて徐々にその人となりが明かされていくようになっている。

このようにゲームの方向性としてはストーリー重視。その点ではジャンル的に真新しさは薄いが、悪魔と協力して謎を解く、操作対象がストーリーに応じて切り替わるなど、起伏が大きく、退屈させない作りにまとめられている。

元々、未完成の時にもその魅力は存在したが、完成版は章の追加に伴うボリューム増強により、さらに磨きがかかった格好だ。

緩急の明確さとバランスの良さが光る本編と、そこに秘められし恐怖

本作の魅力は緩急の明確な構成、難易度も含めた全体のバランスの良さだ。

緩急に関しては、「制作途中フリーゲーム3選」当時のバージョンでも「CHAPTER 1」はストーリー重視、続く「CHAPTER 2」は謎解きを始めとするイベント重視という具合に違いが明確に示されていた。
この作りはアップデートと共に追加された「CHAPTER 4」以降も健在。変化に富んだイベント、謎解きの数々でプレイヤーを退屈させない内容にまとめられている。

また、謎解きのテンポが大きく向上した。具体的には攻略に要する時間が短縮。注視する対象物が減ったり、手間に感じやすい部分が省かれたりして、スムーズに解いていけるようになっている。それでいて、難易度は直感で解けてしまう程度に低下していない。ちゃんと周囲の状況から手がかりを見つけ出し、解法を導いていくという頭で考える必要のあるバランスが徹底されている。ただ、その解く過程で手間だったり、無駄に感じる部分が取り除かれたことで、攻略に必要な時間は減少している。手応えは維持しつつ、間延びさせないという適切なバランスでまとめているのだ。

とりわけ初期バージョンでもプレイできた「CHAPTER 1」から「CHAPETR 3」までは、再調整による影響が最も顕著に現れている。

再調整自体は完成版の前、2022年5月時点で実施されたものなのだが、公開当初のものを触れて以来という人であれば、その変化にきっと驚かされるはずだ。そして、難易度を含む全体のバランスが良くなっていることも実感させられるだろう。

バランスの良さに関しては探索面にも言える。ストーリー(イベント)の進行、それに伴う行動制限、そして調べられる対象物を具現化させるガイドアイコンの表示により、右往左往しにくくなっている。特にガイドアイコンは、嫌でも目が向いてしまうほど分かりやすく表示され、どこを調べればいいのかが瞬時に把握できるようになっている。

かといって、常に「ここを目指せ」とガイドしてくれる訳ではなく、一部の謎解きでは複数の部屋を巡ることが試される。この親切ながら、時に突き放す措置も絶妙であり、探索周りのバランスの良さを引き立てている感じだ。何かしらゲームオーバーへと直結する出来事が待ち受ける際にも警告を表示するなど、初見殺しを際立たせない配慮が凝らされているのもまた然り。いずれも地味な工夫と言えばそうかもしれないが、かなり行き届いたまとまり方になっていて、神経を配って調整されていることを実感させられるはずだ。

これら探索面の工夫をストーリーに活かしているのも大きな見所。前述の通り、なぜか魔界に送り込まれてしまった双子が現実世界への帰還を目指し、奮闘していく脱出劇だが、事態は後半に差し掛かるにつれ、新たなキャラクターの登場によって混迷を極めていく。また、主人公の双子にまつわる謎も深まっていく。

そもそも、彼らを魔界へと導いた元凶とは誰か?魔界の探索を進めるたび、アセビが時々思い出す過去の光景は何を意味しているのか?一連の事柄は、最終章「CHAPTER 5」にて明らかにされるが、色んな意味でひっくり返されるような体験をするだろう。そして、本作の行動制限に隠された、本当の意味にも気付くかもしれない。

幾つか興味を引く事柄を出してしまったが、とりあえずは何も考えず、真っ白な気持ちでオープニングから始めていただきたい。そして、最後まで終えたらマップのあちこちの作りを振り返っていただきたい。そうすれば色々……分かるはずだ。

なお、本作はホラーを名乗っている通り、相応の不意打ちも結構ある。また、暴力・出血表現も苛烈だ。ついでに言うと、前述の真相部分にもその種の強烈な表現、多少ながら触れると精神面を抉ったり、生理的嫌悪感を抱かせる類のものが含まれている。

元々、推奨年齢は15歳以上に設定されているタイトルではあるが、一連の表現に苦手意識があるという人には割と堪えるだろう。今後、プレイする予定のある場合はあらかじめ念頭に入れておくことをお薦めしたい。

深夜の寝静まった時間帯に遊んで欲しい、背筋の凍る力作

演出面では豊富かつ美麗な一枚絵(スチル)の数々にも注目。

ストーリー絡みの会話イベントに限らず、前述のホラー絡みの不意打ちでも用いるなど、効果的な使われ方をしている。人によっては思わず声が出かねない。効果音もその衝撃を際立たせるように活用されていて、プレイヤーをとことんビビらせようとする、大変いい意味での嫌らしさを感じさせられるはずだ。

グラフィック周りでは、マップ上のキャラクターのドット絵もオリジナル。アンテナのような髪の毛がちょこちょこ動くなど、細かく可愛く描かれている所にこだわりが見られる。そんなキャラクターたちが動き回るマップ上で血痕が飛び散ってはこびりつき、一部に至っては身体がバラバラになったりするのも、色んな意味でギャップが激しくて印象に残りやすい。

ボリュームも平均7~8時間以上と大きめ。前述にて少し言及したエンディングの分岐、それに関連した「ギャラリー」のコンプリートなどの収集要素もあり、全てをやり尽くすだけでも結構な満足感が得られること請け合いだ。

探索とマップ構成、謎解きとその難易度と、高い完成度でまとまっている本作。ただ、ちょっと気になるのが、タイトル画面より任意のCHAPTERを選んで始められる「CHAPTER SELECT」の機能。最終CHAPTERはゲーム初見時は選択不能でよかったのではないだろうか。

元々、この機能は未完成時、新たなCHAPTERが追加された際、セーブデータがなくてもすぐに続きから始められる救済措置だった。

完成版でもこれは残され、最終CHAPTERを選んで始められるのだが、そこはセーブデータがある人限定にしてよかったように思える。その前のCHAPTERで張られた伏線が回収される場面、終盤にかけて暴露される真相の衝撃性を思うと、である。小説、映画(ソフト)のようにいきなり結末を見て、後からそこまでの過程を追う遊び方を許容するため……という意図があるなら、ストーリー重視の作風を思えば、手法としてアリだとは思うが。
ただ、一連の展開が強く印象に残った身としては気になってしまった、と記しておきたい。

他に気になる所としては、画面が赤く染まる場面ではガイドアイコンの視認性が落ちることだろうか。ストーリーも真相部分がわりと苛烈なため、好みが分かれやすい。とは言え、未完に終わる訳ではないので、そこはご安心を。

そんな好みを分ける部分もあるが、力作なのは間違いない。この独特な雰囲気、そしてバランスが取れているという部分に惹かれたならプレイいただきたい1本だ。そして、プレイするならぜひ時間帯は深夜で。存分に背筋を凍らせましょう。

[基本情報]
タイトル:『ラジアータの愛染罪』
作者:紅芋けんぴ
クリア時間:7~8時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

ダウンロードはこちら
◇ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/26247

◇フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_9718.html

プレイはこちら(ゲームアツマール)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm21481


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