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懐かしさと新しさが交差する”力作”コマンド選択型アドベンチャーゲーム『怪異ホラーミステリー「星影の館殺人事件」』

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コマンドを選択するシステムを備えたアドベンチャーゲームの醍醐味とは何か?

それは、プレイヤーが作中の主人公の視点から積極的にストーリーに参加できる仕組みだろう。「コマンド」という行動の意思を選択・決断する要素のおかげで、プレイヤーはそのストーリーへと直接的な影響を及ぼすことができる。

また、自らがコマンドを通して積極的に行動しなければ、本編は進んでいかない。単純に台詞を始めとする文章を読むだけでは進まず、それを変化させるための”きっかけ”……またの言い方で「フラグ」、もしくは”答え”を見つける必要がある。
このような探し出す遊びが至る場面に用意されていることが、基本的には文章を読むだけで進んでいくノベルゲームとの違いではないかと考えるところだ。

そんなコマンド選択型のアドベンチャーゲームは特に1980年代において、様々な意味で強い印象を残す名作が誕生した。現代でもそのようなアドベンチャーゲームは健在で、2022年にはシューティングゲームとの融合を目指した野心的すぎる作品も登場している。


▲1980年代のコマンド選択型アドベンチャーゲームを意識した作品のひとつ『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』(Steam版)より

同時にインディーゲーム、フリーゲームの方面では、1980年代のコマンド選択型アドベンチャーゲームへの”あこがれ”に等しい作品が誕生しては話題を振りまいている。

そして2023年もひと月が過ぎた頃。1980年代のコマンド選択型アドベンチャーゲームを強烈なほどに意識した新作が登場した。それが『怪異ホラーミステリー「星影の館殺人事件」』(以下、星影の館殺人事件)である。

探偵と勘違いされた”アナタ”が殺人事件の調査に挑む!

『星影の館殺人事件』はインディーゲームサークル「法螺会」(ほらかい)制作による、PC(Windows、Mac)およびブラウザ向けコマンド選択型アドベンチャーゲームだ。

2023年2月11日にフリーゲームとして「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」、「ノベルゲームコレクション」といったフリーゲーム配信サイトにて公開された(※具体的な配信サイトは記事末尾の【基本情報】を参照)。

また、有料版も同日より公開。こちらは「BOOTH」(※無料版もあり)と「DLsite」にて取り扱われていて、価格は税込550円となる。

内容は前述の通り、コマンド選択型のシステムを採用したアドベンチャーゲームだ。プレイヤーが扮するのは、周りから「探偵」と勘違いされている主人公こと「アナタ」。彼の視点から、タイトルにも冠された「星影の館」こと、山守(やまもり)一家の屋敷で起きた殺人事件の調査に挑む。

本編は画面右側に並べられたコマンドを選択・決定し、目の前にいる人物との会話、現在いる場所の調査などをこなしながら進行。ある程度進むと区切りを迎え、セーブ画面を挟んで次の局面へと移るという、エピソード形式の流れとなっている。

システム周り、特に画面構成は1980年代のコマンド選択型アドベンチャーゲームのスタイルを完全踏襲。当時を知る世代ならば「そうそう、これこれ」となること請け合いのレイアウトになっている。

また、事件に関する情報が手に入ったり、謎が発見・解明された際には別途設けられた「ファイル画面」が更新されるシステムを実装。登場人物、作中で登場した用語もここに格納されるようになっていて、ストーリーの全容、現在の進捗状況を随時チェックできる。

局面の移行に応じ、プレイヤーの取れる行動(コマンド)が変化する仕掛けもある。例えば関係者からの事情聴取を行う際には、舞台となる「星影の館」の全域を動きまわるためのコマンドが解禁されたり、ある程度の情報が集まった後に発生する「情報整理」では容疑者の疑いがある人物を絞り込むクイズ的なイベントが始まる……といった具合だ。

この手のコマンド選択型に限らず、ノベル形式でもお馴染みの選択肢もある。なお、本作のストーリーは基本的に1本道。選択肢に応じてその後の展開が大きく変化する分岐要素はない。あっても、会話と一部のイベントが多少変化する程度だ。

逆にゲームオーバーはある。選択肢が発生する時は大抵、その危険があることを意味している。当然、ゲームオーバーになれば最後にセーブしたところからやり直し……にはならず、選択直前からの再開となる。この辺りは現代的な設計になっている。

さらに選んだだけでゲームオーバー直行とはならなかったり、そもそも選択肢無関係にゲームオーバーになるケースもある。その詳細は見てのお楽しみだが、このようなプレイヤーに身の危険が迫る場面も所々に用意されていて、単にコマンドを選んでストーリーを進めていくだけに終始しない流れを作り上げている。

現代的な設計に関しては、既読スキップ、バックログ、音量と文字送り速度の設定も完備。そもそも言及が遅れたが、本作は「ティラノスクリプト」製である。そのため、同ツールで作られたタイトルにて定番となる機能はほぼ網羅されている。

そんな現代的な機能も備えた、1980年代風のコマンド選択型アドベンチャーゲームといった感じで、全体的には懐かしさと新しさが混在したハイブリッドな作風。それでいて、コマンド選択型特有の体験も押さえた内容にまとめられている。

コマンド選択型の醍醐味を押さえた完成度の高さと並々ならぬ愛!?

端的に本作の魅力を言えば、コマンド選択型アドベンチャーゲームとしての見事な完成度だ。特に本編全体の構成がすごく練られている。

前述の通り、局面ごとに現場検証、事情聴取、情報整理といった固有のイベントが発生。それに沿った行動(コマンド選択)を取ることが求められるため、ストーリー全体の流れが単調になりにくい。分かりやすい起伏が描かれているからこそ、先の展開知りたさに夢中になってしまう面白さがあるのだ。

素晴らしいのが、最初から事件の真相に行き着く終盤まで、この展開が続くことである。詳しくはそこまで進めて確かめていただきたいのだが、「え、こんなのまであるの!?」と驚くこと請け合いのイベント、そして”システム”が用意されている。

さらに凄いのが、あらゆるイベントの進行において、本作を構成する要素をフル活用すること。様々な情報が格納される「ファイル画面」はもちろん、前述の現代的な機能のひとつ、「バックログ」まで活躍する場面が設けられているのである。

どこで活躍するかは例によって見てのお楽しみだが、その細かい所まで作り込まれた仕上がりには1980年代のアドベンチャーゲームが好きだった世代を通り越して、本作を遊んだプレイヤーが高確率で唸らされるはずだ。誇張抜きに活かし方が美しい。そして、最後の最後までアドベンチャー”ゲーム”として楽しませようという心意気に溢れている。

筆者個人は、本作を作ったチームにアドベンチャーゲームへの深すぎる愛を感じた次第だ。とりわけシステム周りに関しては溢れすぎている。
その中でも秀逸なのは終盤のイベントで、「いくら好きにも限度があるよ!」とツッコんでしまったほどだ。ぜひ、プレイした暁にはそこまでたどり着いていただきたい。アドベンチャーゲーム好きなら、顔がニヤケまくりとなるだろう。

このような構成と共に紡がれるストーリーも見所満載だ。特にユニークなのが「怪異」なる、異形の存在による超常現象が”当たり前”とされた設定。題材こそ、殺人事件の真相解明というサスペンスの王道だが、そこに「怪異」が引き起こす非現実的な事象を加えることによって、得体の知れない不気味さと猟奇性を表現しているのだ。

そんな「怪異」こと謎の鳥「コワバミドリ」は、特異な性質と”ある能力”にゾッとすること請け合い。また、作中で舞台となる土地では謎の病「佐比病(さびやまい)」なるものが流行っている。これを患ったキャラクターで、山守一家の子息「学(まなぶ)」が登場するのだが、これがまた(いい意味で)不気味。

詳しくは言及しないが、一挙一動の数々にこれまたゾッとしてしまうだろう。(あと念のため、彼が食事をするシーンは決して食前に見ないように、と警告しておく……)

他の山守家の面々も、サスペンスドラマらしい個性付けが図られている。また、人里から離れた館で起きた殺人事件という定番の題材ながら、そこに関係するキャラクターの数は少なく、それぞれの特徴と名前が覚えやすいのもちょっとした魅力だ。

事件はこの一家の次男である「聡(さとる)」が異様な死を遂げた所から始まって、「コワバミドリ」との関係性や山守家の秘密に迫っていく形になる。

徐々に秘密が明らかになる中で、最大の山場が中盤の終わりから終盤にかけてである。一体、誰が聡を殺したのか?なぜ殺されなければならなかったのか?そもそも「コワバミドリ」なる鳥はどこから現れ、何をしてきたのか?

犯人を見つけ出し、すべての真実を明かした時、きっと多くのプレイヤーは達成感以上に背筋が凍え続ける状態になってしまうはずだ。同時に、とあるイベントの見方が180度変わる。そして、ますます背筋が凍りつくだろう。

「怪異ホラーミステリー」の名は決して伊達ではない。
少しでもこのストーリーに興味をもったのなら、その真価を体験してみていただきたい。

ハイブリッドな作りの数々も異彩を放つ”渾身の一作”

本編全体のボリュームも大きく、プレイスタイルにもよるが10時間は余裕で超える。さらに”ちょっとした”やり込み要素も用意。どんなものなのかは伏せるが、おそらく「やっぱりそう見られるのか!」と声に出してしまうかもしれない。

グラフィックもキャラクターのドットは、紛うことなき1980年代風。それでいて、背景は精微という対照的なものになっている。
コマンド選択型のシステム全般から漂う懐かしさ、既読スキップにバックログといった現代的な機能が融合した作りを象徴する、ハイブリッドなまとめ方がユニークである。音楽もこの見た目を踏まえて、”ピコピコ”な作風となっている。

他に台詞では漢字を一切使わない一方、「ファイル画面」ではバリバリに使っているところも、ハイブリッドさが滲み出ている。マウス操作でも遊べたり、セーブファイルを複数作れるのもそのひとつだ。ティラノスクリプト製なので、ある種、当然の仕様だが。

総じて力作というに相応しい仕上がりなのだが、ちょっと残念なことがある。進行不可に陥るバグが一部、存在していることだ。

特に事情聴取のイベント時に多く、手順を誤るとループしてしまったり、手に入れたアイテムが消えてしまうといった事象が起きる。このバグに関しては、本稿執筆時点でも修正アップデートが数回実施されているため、今後、改善される見込みは高い。ただ、まだ一部、深刻なものが残っているので、これからプレイするに当たってはセーブファイルを3つ以上使ってプレイすることを推奨したい。1つだけで進めていた結果、件のバグに遭遇して最初からやり直しを強いられた経験者の談である。

また、事情聴取に関しては基本、総当たりが攻略の要になるため、やや煩わしく感じるところもある。一応、「かんがえる」のコマンドを選べばヒントが得られるので、長時間も右往左往する事態にはなりにくい。ただ、事情聴取自体が割と長めに構成されているのもあって、そのバランスには賛否が分かれるだろう。

他に本作は暴力・出血表現がけっこう鮮烈である。遺体の描写に関しては最たるものになっているので、苦手な人はくれぐれも”凝視”しすぎないようにご注意を(※本稿では、その刺激の強さを踏まえて掲載を自粛した)。また、前述でも少し言及したが、学の食事シーンには要注意である。くれぐれも食前には見ないよう……。

バグの件に関しては特に注意が必要だが、それでも強くおすすめできる作品であることは間違いない。この見た目にグッときた人も、アドベンチャーゲームが好きな人もぜひ、主人公になって事件解明に挑んで欲しい。濃厚かつ背筋が凍るひと時をお約束する。

最後に無料版と有料版の違いだが、有料版には攻略ヒントを始めとする特典が複数同梱されている。本編に関しては、どちらも大きな違いはなく共通した内容だ。
無料版にするか、有料版にするかはお好みでどうぞ。

[基本情報]
タイトル:『怪異ホラーミステリー「星影の館殺人事件」』
作者:法螺会
クリア時間:7~10時間以上
対応プラットフォーム:Windows、Mac、ブラウザ
価格(税込):無料(※有料版:550円)
対象年齢:15歳以上推奨(※暴力、出血、身体欠損表現あり)
公式サイト:https://horakai.com/hoshikage/index.html

ダウンロードはこちら
◇ふりーむ!(ブラウザ版あり)
https://www.freem.ne.jp/win/game/29961

◇フリーゲーム夢現(ブラウザ版あり)
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_10862.html

◇ノベルゲームコレクション(ブラウザ版あり)
https://novelgame.jp/games/show/7694

◇Vector
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se525147.html

プレイはこちら
◇PLiCy
https://plicy.net/GamePlay/148655

◇ゲームアツマール
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm29078

有料版はこちら
◇BOOTH(※無料版あり)
https://horakai.booth.pm/items/4535645

◇DLsite
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01022457.html


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