「ヤンキー」。日本国内においては不良少年・少女を意味する俗語として、主に1980年代中頃から1990年代初めにかけて広まったとされる。その影響の大きさは、当時から30年以上の時が流れた現代においても健在。とりわけヤンキーのイメージ像に関しては、リーゼントヘアに学ランといった容姿が固定概念として根深く定着している感じだ。
そして、漫画にアニメ、ゲームといったエンターテインメントの分野においても、ヤンキーを題材にした作品、キャラクターは誕生し続けている。筆者もヤンキーと言えば、忘れられるに忘れられない”ヒロイン”がいるのだが……この話は止めよう。いや、実はつい最近、その人物に声が付いたのだが、予想だにしない声優さんが起用されて未だに戸惑っておりまして……。
とにもかくにも、今回ピックアップする『漢気ヤンキース』もヤンキーを題材にしたフリーゲームである。
本作は2023年6月下旬より、「ふりーむ!」「フリーゲーム夢現」にて公開中のWindows PC用フリーゲームだ。また、「PLiCy(プリシー)」ではパソコン、スマートフォンで遊べるブラウザ版も公開中である。夜露死苦。
一週間ごとの行動を決め、己の力と”漢気”を鍛え上げろ!
舞台となるのは「西京(さいきょう)高校」なる高等学校。
プレイヤーの分身となる主人公はこの学校の特待生に選ばれ、2年生の春という中途半端な時期から転校することになった。本人いわく、最初は迷ったとのことだが、学費の免除に住む場所のお世話までしてくれるとのことで決断したらしい。
だが、彼はこの学校にまつわる気になる”うわさ”を耳にしていた。それは「この学校の生徒は不良(ヤンキー)しかいない」というものである。その疑問を校長の善光寺 正治(ぜんこうじ まさはる)に直接伺ったところ、返ってきたのは……。
「大丈夫ですよ。あなたが来てくれたおかげで100%が99%くらいに減りましたから。」
……という”うわさ”を肯定するに等しいコメントだった。
そんな訳で、不良だらけの高校で過ごすことになっちゃいましたとさ。ちゃんちゃん。
これだと話が終わってしまうので続けると、その後なんやかんやのアレコレを経て、主人公は不良たちの頂点(テッペン)を獲る戦いに身を投じることとなった。そのために己を鍛え、時に漢気を振り絞りながら高校での日々を送っていく……というのがストーリーのあらましだ。ちょっと重要な流れを端折ったが、そこは実際に本編を遊んで確かめてくれ。夜露死苦。
ゲームジャンルは公式には不良バラエティゲームと称されている。実際のところはコマンド選択型のアドベンチャーゲームと、ロールプレイングゲーム(RPG)を重ね合わせたアドベンチャーRPGといった具合だ。
前述の通り、プレイヤーは主人公を鍛え、頂点(テッペン)を獲るに相応しい力を身に付けることに挑む。そのために様々なトレーニングに取り組んだり、他の不良と戦ったり、時にはアルバイトでお金を稼いだりしつつ、高校生活を送っていくのだ。
具体的な流れを紹介すると、本編は1週間ごとの行動を決定していく形となる。行動はメニュー画面から選択して決める仕組みで、「トレーニング」「うろつき」「アルバイト」「回復」の4種類が行動に該当。これらのうち1つを決めると1週間の行動が実行され、時間経過と共に次の週へと移る。以降はその繰り返しになる。
この一連の流れにはそれなりにゲーム……特にスポーツゲームに明るい人なら、既視感という名の”サクセス感”を抱いたかもしれない。
「それはおおむね正しいでやんす!」と言及しておこう。
ただ、本作はRPG。そのため、時間の経過とイベントによって戦闘が発生する。
戦闘システムは素早いキャラクターから順に行動する、ターン制のコマンド選択型。まさに王道の作りだが、戦闘に勝っても経験値は得られず、特定のステータスが一部上昇するだけとなっている。基本、キャラクターを重点的に育て上げるのは前述の行動コマンドが主体。強くできるか否かは、そこで何を選んだかにかかってくるのだ。
また、各種行動に当たっては「やる気」「体力」「漢気」という3種のパラメータが影響。
これらの量に応じてトレーニングでのステータス上昇値が増えたり、ケガによる強化失敗の発生率が下がるといった変化が出るのだ。
さらに「体力」に関しては、回復を怠ると主人公に大きな負担がかかり、画面右上の「リスクゲージ」が上昇。満タンに達するとゲームオーバーになってしまうため、空にならないよう、現在の値に注意を払うことが求められてくる。
残る「漢気」も頂点(テッペン)を獲るに当たって必要な「仲間」を集める際に重要。これが十分にたまっていれば、仲間にするための説得を試みられるようになるに加え、前述の「やる気」を回復させることもできてしまうのだ。
ただ、これをどこまでためられるかは1週間のうちにどの行動を選んだか次第である。
このようにプレイヤーの取った行動次第で、その後の展開が激しく変化する過程が楽しめる内容に仕上げられている。そこに敵対する不良たちとの戦闘イベント、仲間を集めるといった要素を加えることによってRPG的な手応えも演出。そのような特徴もあって、本作はまさにアドベンチャーRPGと称せる作品にまとめられている。
1周15分~1時間ほどの短編だが、その中身は底深!?
なお、本作は規模的に短編となっている。
1周に要する平均的なプレイ時間は長くて1時間。早ければ10~15分程度となる。
そのことから、空き時間にサクッと遊べる手軽さが本作の魅力……じゃねーよ。
本当の魅力は、行動次第で15分にも1時間に規模が変動する、波乱万丈すぎる本編の作りである。
前述の通り、本作は複数(実質的には4つ)ある行動の中から1つを選び、進めていくのが基本となる。そして、1つ選んだら残る3つは選択しなかったものとして処理される。これが何を意味するのかと言えば、本作には多彩の一言では済まされない分岐パターンが用意されている。しかも、選択次第では15分程度で幕を下ろしたり、そのまま続いて1時間に延長するといった露骨な変化が現れるのだ。
このため、1周だけで本作の全容を解明するのはほとんど不可能。明かしたければ、何度も周回が必要とされる程度に大変な攻略が求められる作りになっている。1周は短いが、やり込みを含めれば10時間は余裕で超過する程度にボリューム満点なのである。
加えて本作、難易度も高い。主に戦闘イベントはその象徴で、きちんと計画を立てて主人公を成長させていかないとボッコボコの返り討ちである。前述にて、本作は行動次第では15分で幕を下ろしてしまうと言及したが、そこに直結するのがまさに戦闘イベント。あるタイミングで、それまでの行動の成果を問う”高い壁”が立ちはだかるのだ。
正直なところ、初見時はその壁の高さに翻弄されてしまうだろう。誇張抜きに”デタラメ”であるからだ。また、壁にぶつかっても時間をさかのぼってやり直せばいい、という考えも通用しない。負ければその時点でエンディングを迎えるためだ。よって、鍛え直してチャレンジしたければ、本編を最初からやり直すしかないのだ(※途中経過を細かく記録したセーブを活用する手もあるにはある)。
ただ、本作にはランダム要素は一部を除き存在しない。そのため、繰り返すたびに最適な行動が徐々に見えてくるようになっている。さらにシステムと仕様の理解が進めば思い切った行動を取る余裕も生まれ、壁に突破口があることも分かってくる。
難易度が高いとは言ったが、決して理不尽にあらず。トライ&エラーを重ね、システムの理解が進むほど攻略法が変化するという、上達する嬉しさを感じ取れるバランスになっているのだ。基本、やることはコマンドを選択するのに終始するが、様々な要素が複雑に絡み合うことによって、直感の赴くがままではどうにもならない手ごわさを演出。それらの成果が戦闘イベントという名のRPGのターン制システムに現れ、戦術を始めとする様々な変化を生むという点で、独特な魅力を発するものに仕上げられている。
壁を乗り越えた後の展開も面白い。少しネタバレするが、乗り越えるとそれまでの行動を通して関係を築いた仲間たちとの学校生活が楽しめるようになるのだ。この仲間も行動次第でメンバーが露骨に変化し、プレイヤーそれぞれ違ったメンバー編成が生じるのが面白い。また、仲間の参加以降は「トレーニング」を始め、行動全般も変化。「なかよし度」という親密さを示すステータスが加わって、それを深めるたびに特別なイベントや戦闘時に使える必殺技が増えるといったメリットが得られるのだ。
だが、1週間のうちに1つの行動しか取れないのはここでも変わりなし。関係を深められる仲間はどうあがいても限定されるので、”推し”を決めなければならない。
そして、これらの展開を経た後にも新たな戦闘イベントが発生するのだが……それは見てのお楽しみである。このように本作、1周に要する時間は短いが、難易度の高さに分岐パターンの豊富さ、そしてその度に生まれる違いもあって、驚くほど密度が濃い。加えて、ストーリーも大筋は共通ながら、周りにどんなメンバーが集うかは行動に左右されるため、何が起こるかも人それぞれ。まさに波乱万丈であり、やり込み甲斐も申し分のない内容に仕上げられているのである。
1周の短さから、手軽なイメージがにじみ出ているが、いざ遊んでみるとそのイメージとは裏腹な濃さに驚くこと請け合い。同時に「なめんなよ!」の精神(?)を実感するだろう。
驚愕のおまけ要素「RPG編」も要チェックの力作
ただ、難易度の高さは逆に難点にもなっている。特に件の壁にまつわる戦闘イベントはベストな準備を整えようが、相手にクリティカル攻撃を決められると敗北一直線になるなど、運の要素が出すぎているきらいがある。この辺りに関してはクリティカルの発生率を下げる、あるいは発生させないように設定した方が妥当だったように思える。
分岐パターンの豊富さも逆に多すぎるゆえ、プレイヤーを困惑させやすい側面がある。他に本作には5種類のエンディングが用意されているのだが、そのうちの2番目の条件がややシビアなこと、周回用にイベントカットに限らず早送り機能も用意して欲しかったというのがある。
なお周回に関しては本作、引き継ぎ要素はない。この辺はゲームの方針もありそうだが、やり込み要素のコンプリートを踏まえると面倒な部分があるため、できれば何かしらあると良かったかもしれない。
気になる点を列挙したが、難易度の高さやパターン周りはプレイを重ねていけばそこに隠された魅力が見えてくる側面もある。
また本作はストーリーも侮りがたい仕上がり。基本はギャグだが、登場人物それぞれの掘り下げが丁寧で、随所に印象的なエピソードが用意されている。ヤンキーたちも個性の強さとツッコミどころ満載のメンツ揃いで、交流を重ねれば重ねるほど愛着が湧いてくる。
男性に限らず、女性のキャラクターも数名おり、その中でも主人公の妹には色んな意味で恐怖を覚えること請け合いだ。
さらに本作、成果を問わず1周を終えると「RPG編」なるモードも解禁。これがなんと本編とは異なるストーリー、戦闘システム、イベントが楽しめる驚愕の内容になっている。システムの詳細は割愛するが、本編を一通り遊びつくしたならば、ぜひチェックいただきたい。名称からしておまけっぽいが、きっといい意味でがく然としてしまうはずだ。
1周単位の時間は短いが、やり尽くすとなれば膨大な時間を必要とする本作。”サクセス感”のあるゲームシステムにコマンド選択型の戦闘要素が組み合わさったゲームデザイン、意外に見所満載のストーリーも必見の力作である。この一風変わった組み合わせと、手軽なのに密度は濃いという特徴に惹かれるものを感じたのなら、ぜひお試しいただきたい。
ヤンキーたちとの素晴らしき高校生活を謳歌してみようぜ。夜露死苦!
[基本情報]
タイトル:『漢気ヤンキース』
作者:うぶげのことり
クリア時間:15分~1時間(※各種やり込み要素のコンプリート、RPG編を除く)
対応プラットフォーム:Windows、スマートフォン
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/30893
・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/simulation/game_11216.html
◇プレイはこちら(PLiCy)
https://plicy.net/GamePlay/158284