毎年7月から8月にかけて開催されている、ゲーム制作ツール「WOLF RPGエディター」製フリーゲームのコンテスト「WOLF RPGエディターコンテスト(通称ウディコン)」。第15回目を迎えた今年も、60本もの力作が集まった。
本記事ではそのなかから、RPGでは戦闘の面白さを重視する筆者がとくにハマったRPGを3作品ピックアップ。シンプルなシステムで奥深い駆け引きを生み出しているもの、逆に複雑なシステムを把握することが面白さに繋がっているもの、さらにはアクションと、それぞれ独特の魅力が光る作品となっている。
あくまで広大なウディコンの世界の一側面を筆者の視点で切り取った形となるが、ウディコン作品を楽しむとっかかりの一つとして参考になれば幸いだ。
昨年の記事:第14回ウディコンで発見!ユニークな戦闘を楽しめるフリゲRPG3選
ビャッコーギャモン
人類繁栄を脅かす外敵を狩ってきた英傑「ダンジェロ」の乗機「ビャッコー」が、悪魔と忌まれる機体「ナールジャメル」と宇宙空間で激突。「最終兵器オベリスク」で決着をつけにいくも二つの機体は地上へと落下していく……そんなロボットもののようなプロローグから始まる『ビャッコーギャモン』は、ダンジェロを操作し多彩な武器で戦っていく2D横スクロール型のアクションRPGだ。
地上で目覚めたダンジェロは、ナールジャメルの罪業の一端を受け継ぎ七つの大罪の名を冠する領主達の存在を知り、その中の一人「怠惰」の女領主メズルと成り行きで共闘関係となりつつ、他の領主達との戦いに臨んでいく。ゲームは物語に沿ってステージが開放され、これをクリアすることで進行する。
アクションゲームとしての本作の見どころのひとつは、ユニークな武器の数々だ。ソードやアックスといった定番どころから、射撃もできるシールド、さらにはバイクなどという「武器」まで登場。ソードは長押しで広範囲攻撃、シールドは下キーとの同時押しで敵の一部攻撃を吸収して次の射撃の威力を上げられるといった武器ごとの派生操作もあり、ギミック系の武器をテクニカルに使いこなす楽しさがある。
武器はステージの最初に「ランダムに2つ提示されるものを3回選ぶ」という形で3つ購入でき、この3つを切り替えながら使っていく。ある程度運の要素はありつつも、状況や好みに応じた武器セットを構築していくのも醍醐味だ。また武器には使用回数が設定されており使い切ると壊れるが、別の武器を使っていると使用回数が回復するため使い分けもポイントとなっている。
またアクション面では、ジャンプのほかに高速移動のローリングが用意されている。出始めに無敵時間があり回避に有用というのはこの手のアクションゲームにおける定番だが、加えて本作では別に重要な役割がある。本作の武器は使い続けると「ヒートゲージ」が上がり与ダメージが増えるが、ゲージがフルになると「オーバーヒート」で攻撃できなくなってしまう。ヒートゲージは時間経過で下がるが、このときローリングで敵の攻撃を回避するとゲージを一気に減らせるのだ。
このローリングを立ち回りの基盤に置きつつ、3つの武器やジャンプを織り交ぜて華麗に戦っていくのが爽快感抜群。さまざまなシチュエーションに沿ったステージ構成や敵の調整も練り込まれており、達成感のあるバトルを存分に味わえるアクションRPGに仕上がっている。
……と、ここまで主にアクション面に着目して紹介してきた。もちろんそれも本作の大きな魅力なのだが、その上で個人的に強く推したいのが本作のシナリオやキャラクターだ。
冒頭からまず目を惹くのが、ダンジェロの決め台詞「ノーだろうよッ!!」をはじめとするケレン味と独特の味わいのある台詞回しの数々。またちょっとギャルっぽい口調が可愛らしいメズルの一人称が「余」というギャップもフックとなり、キャラへの興味を牽引する。そうした軽妙な面がありつつも、物語は領主達による謀略渦巻くサスペンスと、ヒーローものめいた熱量の高さが絡み合い骨太に展開。一時共闘しつつも最後には倒すべき敵の一人であるメズルと、ダンジェロの関係性も見どころだ。
ほかにも徐々にスケールを増していくワクワクするようなSF設定や伏線回収の妙、ドットグラフィックのアニメーションによるダイナミックな演出、既存の素材曲ながらテンション高めのフリゲ定番曲が多く採用され場を盛り上げるBGMなど、「中編クラスのアクションRPGのストーリー」として期待していたものを遙かに上回る内容に引き込まれ、余韻のあるラストには胸と目頭を熱くさせられた。
もちろんゲームとして、勝利の果てに自分で掴み取った結末だからこその没入感なのは間違いない。本作はウディコンへの投稿当初は難易度もなかなかに「骨太」だったようだが、最新版ではそれに比べるとかなりの難易度緩和がなされている。アクションゲームが好きな人はもとより、RPGはストーリー重視という人にもぜひプレイしてほしい作品だ。
[基本情報]
タイトル:ビャッコーギャモン
制作者:こげ(ヒワイロボ)氏
公称プレイ時間:5~6時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
http://drkoge.han-be.com/
零落と紺碧の海神
19歳の夏を迎えた少年「蒼海(あおい)」は自転車の荷台に白ワンピースの幼馴染みを乗せ、二人は海を目指し出発する。蒼海はペダルを漕ぎ、幼馴染みの彼女は子供の頃に繰り広げた冒険のように「魔物」と戦う――そんな現実と空想の境が曖昧になったような旅を描いたRPGが『零落と紺碧の海神』だ。
ゲームはいわゆるノンフィールドローグライクの形式で進行。ペダルを漕いで全99kmの旅路を1kmずつ進みつつ、ランダムに入手できる回数制限のあるアイテムを使って戦闘を切り抜けていく。
アイテムの効果は攻撃のほか回復や特殊なサポートなどさまざま。また攻撃アイテムなら与えられるダメージ量が固定のもの、「5~7」などとランダムな一定範囲のもの、「0または6」などとギャンブル性の高いものなどまちまちで、さらにアイテムによっては再使用に一定ターンのクールタイムが必要といった特性でも個性付けられており、その種類は非常に豊富だ。
これにより、限りある攻撃アイテムを効率よく組み合わせて使い、敵のHPをどう削りきるかの戦略が試される。使用回数を2消費する代わりに1.5倍の威力で攻撃できるという仕組みも頭を使う要素で、単純に倍率だけを見れば損だが、敵の残りHPなどを計算すると使い所が見えてくる。アイテムを選ぶだけという戦闘システムと各種数値の調整の掛け合わせによって、シンプルながら奥深い駆け引きを生み出しているのが興味深い。
なお、入手したアイテムを保持しておける枠は4つ。攻撃手段には余裕を持たせたいし、でもいざというときの回復手段もキープはしておきたいし……などとやりたい事に対して枠はあまりに少なく、常に取捨選択を迫られる。ローグライクらしい緊張感のあるリソース管理を存分に味わえるゲームバランスだ。
ただそうなると、進め方次第で「詰み」も発生するのでは……となるところだが、実はこのゲーム、ゲームオーバーは存在しない。その理由は二つあって、まず本作では進行や戦闘勝利、各種イベントでポイントを入手できるのだが、HPが尽きてもこのポイントを半分失う代わりに復活が可能。また、ランダム入手のアイテム4枠とは別に使用回数無制限の攻撃アイテム「自由帳」があり、威力は低いが他の攻撃アイテムが尽きても攻撃し続けることはできる。
これによりどう進めても完全に詰むことだけはなく、誰でも物語を最後まで見届けることが可能。一方でゲームクリア時のポイントによるネットランキングもあり、プレイを極めたければこちらへの挑戦が一つの指標となる。この手のゲームの宿命としてどうしてもアイテムの引き運に左右される面も大きいが、とくにシナリオを飛ばせる2周目以降は1周のボリュームがコンパクトなため、周回による試行錯誤もテンポよく行えるだろう。
物語は一定距離を進むごとにイベントシーンが挟まる形で進行。早朝から始まった旅だが、海に辿り着く頃には日が暮れていく。1日の終わりと旅の終わり、そして10代という子供時代の終わりを重ねるように、幻想的かつ情緒的に語られるシナリオは青春小説のような読み味となっている。夏・自転車・白ワンピ幼馴染みな雰囲気にピンと来た人にも、ノンフィールドローグライクが好きな人にもお勧めの作品だ。
[基本情報]
タイトル:零落と紺碧の海神
制作者:冒険者@シロヰ氏
公称プレイ時間:1周30分前後
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://note.com/jesuisunstylo/n/ndf90c12ff46c
未来よ心のままに
『未来よ心のままに』は、未来都市国家「バーラル」を守護するために産み出された機械人形「神の僕」であるニッシュとシュリという二人を主人公に、詳細不明の殺人機械との遭遇に端を発する事件を描いていく作品。ノベルパートを読み進めていき物語の展開に応じて戦闘が発生する、ADV+RPG的な構成となっている。
本作最大の特徴と言えるのが、ざっくり表現するなら「陣取りゲームで発動するスキルが決まる」とでも言うような独特の戦闘システムだ。その独自性は戦闘画面を見れば一目瞭然で、左右に表示される味方と敵の間、画面中央に5つのマス目が組み合わさった「スロット」が3つ存在。本作では戦闘時に使用するスキルを直接選ぶのではなく、このスロットによりニッシュとシュリ、そして敵が使用するスキルが決まる。
具体的にスキルを使う方法は、スロットに「SP」をチャージしてマス目を埋めていくこと。基本的に1マス埋めるのにSPを10消費し、チャージはSPが残っている限り何度でも行うことができる。5つのマス目すべてが埋まると、チャージしたSPの量、10から50それぞれに対応する5種類のスキルのうちどれかを発動できる仕組みだ。一人が必要SP50のスキルを発動してもいいし、ニッシュが20・シュリが30のスキルを発動といった組み合わせも行える。
ただしここでポイントとなるのが、敵もチャージをしてくること。SPが尽きたなどでやることがなくなって「ターン終了」すると敵側のターンとなり、敵もスロットの空いたマスにチャージをしてきて、それによりマスが埋まれば敵と味方(あるいは敵だけ)のスキル発動となるわけだ。
……と、かなり簡略化して解説してみたものの、それでもこの独特すぎるシステムを言葉で上手く伝えられたか正直自信がない。筆者自身、チュートリアルを経て実際にプレイしても把握するまでに結構手間取ってしまった。とにもかくにも「味方と敵でマス目を埋め合いつつ、それぞれが埋めたマス目の数に応じてスキルが発動する」くらいの雰囲気だけでも伝わっていれば幸いだ。
さておき、何より大事なのは「こうした独自システムによってどういった戦闘の駆け引き、面白さが生まれているか」だろう。これについては「敵の行動をコントロールできること」が焦点となる。
本作では敵のステータス等を戦闘中いつでも確認可能だが、その中には「敵がSPをいくつチャージするとどんなスキルを使って来るか」も含まれる。敵に使われたくないスキルがあるなら、スロットのマス目が5つ埋まったときに敵のSPが該当する数にならないよう、あらかじめこちらでマス目を埋めることである程度誘導が可能というわけだ。
また本作は敵の撃破やシナリオ進行で入手できる「素材値」の割り振りによりステータス上昇や各種状態異常耐性の付与といったキャラクターカスタマイズが可能なのだが、これは変更内容を素材値に戻して何度でもやり直すことが可能。敵も味方も基本的には消費SPが高いスキルほど大技となるのだが、それが状態異常技なら耐性をつけた上で誘導することにより、敵にSPを無駄遣いさせるなんてこともできる。
またこの際に「スロットが3つある」ことが活きてくる。あるスロットでは自分が使いたいスキルを使うためのチャージを積極的に行いつつ、別のスロットでは敵に敢えて大技を使わせるようマス目を空けておいて「どうぞどうぞ」と誘導する、なんて形で敵を手玉に取れるとなかなかに痛快。実戦を通じて一度勘所を掴みさえすれば、システムを活用する楽しさがどんどん増してくる。
このようなシステムで繰り広げられる戦闘は、ゲーム進行の形式上すべてがイベント戦・ボス戦と言えるような内容で、1戦ごとに対策を練るようなやり応えのあるものとなっている。物語は章ごとにバーラル各地での事件を解決しつつ、その裏で暗躍する存在へと迫るように展開。AIや人類の進歩といったテーマ性も感じるSFに仕上がっている。人と交わって人を学び、未来を選び取っていく機械人形達も見どころだ。
[基本情報]
タイトル:未来よ心のままに
制作者:ケイ素氏
公称プレイ時間:約3時間半
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/31204