戦局は終盤を迎え、勝敗もすでに決していた。
だが、今もなお無駄な戦闘は続く。
そして、ひとりでも多くの生存者を残すべく、最後のミッションが発動される。
そのミッションの内容とは「生き抜くこと」。
戦線に残された操縦士の澪(レイ)、整備士の律(リツ)もまた、戦線からの離脱を試みる。果たして、2人は無事に生還できるのか。
今回ピックアップする『RAGING BLITZ(レイジング・ブリッツ)』は、そんなバックストーリーと共に展開される縦スクロール型シューティングゲームである。
2023年4月にWindows PC用フリーゲームとして「フリーゲーム夢現」、「Vector」にて公開。同年7月には一部、新要素の追加を図る大型アップデートも実施された。(※本稿は大型アップデート後の最新版「ver.1.52」を元に執筆している)
全10ステージを生き抜き、離脱を目指す特殊系シューティング
ゲームの内容は冒頭で言及した通りである。縦スクロールのシューティングゲームだ。プレイヤーは操縦士のレイ、整備士のリツ2人が搭乗する戦闘機を操作し、全10のステージ(※本編表記は「airSpace」)からの離脱に挑む。
その概略からして明らかだが、本作はステージの攻略条件がシューティングゲーム定番のボス撃破ではない。ストーリーでも語られている離脱、生き抜くこととなっている。ゲーム本編に即した書き方をすれば一定時間(区間)、敵の猛攻と障害物の嵐を耐え抜くのである。無事、耐え抜くことができればステージはクリアとなり、そのまま地続きで次のステージが開始。以降はその繰り返しで、それを10ステージ分、達成できればゲームクリアという構成になっている。
万が一、その過程で撃墜されてしまうとゲームオーバー。最初のステージ1(airSpace 1)からやり直しになる。撃墜された場面からのやり直し(コンティニュー)は不可能という、”一発勝負スタイル”となっている。
「なぜなら、本作は生き抜くシューティングゲームだからである!生き抜けられなければその時点ですべてが無に帰すのだ!」と訴えるがごとき仕組みだ。
ある意味、ストーリー設定に忠実とも言える。
生き抜くことを目的とするなりに、システム周りも変わったものになっている。そもそもプレイヤーの操縦する自機からして異端。ショット攻撃がフルオート仕様である。ボタンを押さずとも、勝手に撃ってくれるのだ。
フルオート仕様のショットは、主にスマートフォン向けに展開されているシューティングゲームではお馴染みのものである。それを本作は採用している。そのため、対応するボタンを押しっぱなしにすることも、某名人並みの連打力も一切求められない。自機を動かすだけで簡単に迎撃可能な設計になっている。
そして、ショットの代わりに「オーバーホール」なる操作を用意。自機の修復(回復)を図るというものである。これを押しっぱなしにすることで、敵の攻撃などでダメージを受けた自機の修復が実施されるのだ。
その特徴からも明らかな通り、本作はダメージ制を採用。敵の攻撃を受けたり、障害物に接触しても即撃墜とはならず、持ち堪えてくれるようになっている。逆に前述で紹介したように残機の概念はない。よって、これが尽きてしまうことがゲームオーバーを意味する。
ダメージは画面右上の「FAS」(Fighter Aircraft Status)と記された値で表示される。最大値は5.0で、1回被弾すると1.0減少。0.9以下の時に被弾してしまうと自機が撃墜され、ゲームオーバーになってしまう。逆に一定時間、被弾せずにいると0.1ずつ機体の修復が進む。そして前述のオーバーホールを実施すれば、修復速度を速くできるのだ。だが、オーバーホールの実施中はショット攻撃が停止。襲い来る敵を迎撃できなくなる。なので、猛攻の真っただ中で使えば、どんなデメリットを被るのかはご想像の通りである。
このような特殊な操作およびシステムが備わっており、襲い来る敵の迎撃だけに終始しない展開が描かれるようになっている。
また、容易に回復を図れる自機の特徴も踏まえ、各ステージで展開される敵の攻撃も激しく、画面全体に弾に次ぐ弾の嵐が吹き荒れる。敵に限らず、隕石群やスペースデブリを始めとする障害物も脅威として迫ってくるほか、一部ステージではボスも登場。しかも、基本的に倒すことは不可能に等しく、ひたすらに生き抜くことを前提にした回避が求められてくる特殊な構成だ。
テーマが離脱という時点で、相応の珍しさがあるが、シューティングゲームとしてもシステムから本編の流れまで、一線を画す仕上がり。戦術面でも本作ならではのことが試されるなど、まさに特殊系シューティングゲームと言い切れる作品にまとめられている。
離脱が目的ゆえの激しい展開と、それを踏まえたゲームデザインが光る
特殊系なりに魅力もハッキリとしている。離脱のテーマを突き詰めたゲームデザインだ。
特に「オーバーホール」の最適な使いどころを考えながら進めていくのが面白い。基本的に本編は敵の猛攻にさらされると同時に、隕石を始めとする障害物も容赦なく降りかかってくる。それもあって、素早く修復を図りたい時には一瞬の隙を見つけることが何よりも大事になってくる。また、弾幕や敵の相次ぐ出現などで隙が少ない最中でも、実力で突破できそうに感じたら進んで飛び込んでみることも重要。状況によってはさらなるダメージを負ってしまう結果にも繋がるが、無事乗り越えられれば自機の安定化という大きなリターンが得られる。
この常に大丈夫な瞬間がどこにあるかと見極めつつ、適切に立ち回っていくのが特殊系のシューティングゲームならではとも言えるスリルに満ちている。同時にベストなタイミングを図りながら動いていくのもあって、終始、刺激が保たれ続ける。
実のところ本作は全10ステージと言いながら、背景は共通、登場する敵や障害物、仕掛けもある程度パターン化されていて、途中、同じような展開が何度も発生する。
また、先ほどボスも登場すると言及したが、これも1体しかない。ステージが進むと、違うボスが登場するというようなことはないのだ。こうした作りもあり、ステージごとの変化は正直、非常に乏しいと言わざるを得ない。
だが、不思議と単調さはない。同じような展開が繰り返されど、最初から最後まで自機は敵の猛攻や障害物の嵐にさらされるので、緊張に次ぐ緊張が連続するのだ。そして、撃墜されてしまえば最初のステージ1からやり直しである。文字通り後に引けない一回勝負なので、最後までやり通すならば集中し続けなければならないのだ。
加えて本作、難易度は標準のノーマルであっても高め。敵は次々と現れては容赦なく弾幕を展開し、生き抜くことを妨害してくる。ショットで撃退可能とは言うものの、数が多いのでどうしても弾幕は展開されてしまうに加え、雑魚でも地味に耐久力があって簡単には倒れてはくれない。それもあって、本当に気の休まる瞬間というものも少ない。あるとすれば、次のステージへの移行タイミングぐらいだ。
このようなプレイヤー側へ真剣に取り組むことを促す調整が図られているため、単調さを感じることはほとんどない。同じような展開があっても、気を緩めずきちんと対処することが要求される。その上、撃墜された時のデメリットが大きすぎるのもあって、嫌でも集中しては緊張感ピリピリのプレイになるのだ。
逆に言えば、シューティングゲームとしては難しい部類に入るため、気軽に挑もうとすれば火傷確実な側面はある。そもそも、終始弾幕に襲われ続けるというだけでも、シューティングゲームが苦手な人には薦めにくい作品だ。難易度イージーも用意されているとはいえ、そちらも割と厳しいバランスだったりするので油断大敵である。(v1.51のアップデートでイージーには再調整が入ったが、ダメージ後の無敵時間延長の反動でオーバーホールの発動が遅くなり、回復しにくさが増している)
だが、それらが離脱をテーマにしているゆえの”必然的なもの”として表現されているのは特筆すべき部分。コンティニューできないのも、離脱の最中という主人公たちの置かれた境遇にこれ以上なくマッチしている。そのおかげもあって、離脱の難しさとそれを見事乗り越える凄さを(文字通り)痛感させる体験が詰まった、個性的なシューティングゲームに完成されているのだ。
「シューティングゲームなのに離脱がメインって、なんだそりゃ……?」と最初は思うかもしれない。各種システムやコンティニュー不可な所にも厳しすぎだろと物申したくなるだろう。だが、ちゃんとそれぞれに意味があるものとして完成されている。同時にやればやるほど、本作でしか味わえないスリルというものが見えてくる。
前述の通り、挑むとなれば少し覚悟は必要だが、一風変わった体験が得られるのが気になるのなら、玉砕前提で挑んでみていただきたい。ここまで記してきた離脱をテーマにしたゲームなりの手ごわさと、そのための攻略を考える面白さを思い知るはずだ。
また、コンティニュー不可とは言え、ゲームクリアに要する時間は15~20分程度と短め。それゆえ、最初からやり直しになってもそれほど大きく戻されるわけではないのもちょっとした特徴だ。ただ、短いとはいえ、その中身は非常に濃い。何より、常に生き抜くことへの危険にさらされ続けるのだ。プレイ中は嫌でも時間の流れが遅くなりやすい。そのような錯覚を味わえるのもちょっとした見所だ。
ただ、繰り返しになるが、弾幕は本当に容赦ないため、そこは覚悟の上で。
生き抜くのって本当に難しいんです。(遠い目)
著名クリエイターによる音楽にも注目の意欲作にして異色作
ゲームデザイン以外ではグラフィック、音楽も非常に凝った仕上がりである。前者は背景パターンの乏しさこそあれど、爆発を始めとするエフェクトは派手に仕上げられており、見栄えする仕上がりになっている。音楽も曲数は少ないが、すべてオリジナル。しかも作曲担当は1989年にPC-8801向けに発売され、その後にシリーズ化を遂げたアクションRPG『Xak(サーク)』の新田忠弘(U-HYO)氏。「フリーゲームという域を超えた」と公式に言及しているなりの凝った仕上がりになっているので要チェックだ。
また、本作はスコアアタックも生き抜くことを目的にしているなりに、自機のFASを5.0まで保ち続けるとボーナスが入る要素を盛り込み、独自の遊び応えを演出している。獲得したスコアがオンラインへ転送される機能も備わっていて、公式サイトではそのランキングを見ることも可能。上位へのランクインとその維持を目的にすれば、末永く遊び続けられるだろう。
特殊系の作品なりの独自性と新しさが凝縮されている本作だが、各種仕様もあって賛否が分かれやすい側面もある。特に敵を素早く倒しても、弾幕をそれほど薄くできない辺りは人によっては気になってしまうだろう。
主に80年代のシューティングゲームでいくつか見られるものだが、基本的に先制攻撃を仕掛けることが自機の安全に繋がりやすいためだ。だが、本作は離脱をテーマにしたなりの都合もあるのか、先制攻撃してもそれほどメリットはない。結局、弾幕に覆われてしまいがちなのだ。
弾幕シューティングに慣れている人なら、この辺りはまったく気にならないかもしれない。逆に先制攻撃が安全につながるタイプのシューティングゲームを好む人には、この辺りが極端なストレスに繋がる可能性もあるので、注意しておくといいかもしれない。
他に終始、刺激的な展開が続くとは言え、ステージパターンの少なさはどうしても隠し切れていない。唯一、登場するボスも大型アップデート後に倒せるようにアレンジされたとはいえ、そう簡単には倒せない程度に苛烈な攻撃を仕掛けてくる。それに倒したとしても、その場から消滅せず、離脱するまで残り続けるため、あまり倒せるようにした意味を出せていないのはちょっと引っかかる感じだ。
色々、荒っぽい部分や賛否の分かれる部分こそあるが、総じて風変わりなシューティングゲームになっていることは揺るぎない。
離脱をテーマに据えたなりの生き抜く難しさと乗り越える達成感は本作特有のものになっているので、気になれば厳しい戦いに挑むとの覚悟の上でお試しいただきたい。
また、本作のこのシステムは公式に「PSGストラクチャー」と称されていて、その第1弾と紹介されている。つまるところ、将来的に第2弾が出てくる可能性もあり得るわけだ。既に本作の時点で独自の体験を提供するシステムであることはある程度証明されているが、それが次回作にてどんな風に発展していくのか。そんな今後の展開にも注目だ。
[基本情報]
タイトル:『RAGING BLITZ (レイジング・ブリッツ)』
作者:ぺんぺ(ぺんぺねっと)
クリア時間:20~30分
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
・公式サイト
https://raging-blitz.penpe.net/dlhtml.php
・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/shooting/game_11092.html
・itch.io
https://penpenet.itch.io/raging-blitz
・Vector
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se525405.html