足を踏み入れるたび、地形から敵、アイテムの配置が変化する迷宮(ダンジョン)の攻略に挑むランダムダンジョンRPG、またの名で「ローグライク」。その始祖にして、2023年現在はSteamでも販売中の『Rouge』を由来に名づけられた同ジャンルは、インディーゲームの隆盛と共に沢山の作品が今もなお生み出され続けている。
その中には、ローグライクの特徴のひとつ、”自分が1歩動けば敵も1歩動く”という「ターン制」を採用せず、他のランダム要素などはそのまま採り入れたタイプの作品が存在する。特にインディーゲームでローグライクと名乗るタイトルにはこの種のものが非常に多い。それもあってか、近年は、本来のローグライクと区別する狙いから「ローグライト」と称される傾向が見られる。
ただ、ライトとは言え、根っ子はローグライクなのもあり、平均的な難易度は高め。ゆえに人を選びやすい。中には難易度選択機能を設けるなど、易しさを売りにした作品もあるが……どうも人気のある作品の影に隠れやすい傾向が見られる。
そんな作品に少しでも光を……ということで、今回ピックアップするのが『迷宮のドールポリス』だ。
『迷宮のドールポリス』は2023年9月20日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開中のWindows PC用フリーゲームである。同年10月9日からはPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」での配信も開始。こちらも価格は無料だ。
特徴的なアクションを活用し、目指すは迷宮(塔?)の最上階
ジャンルは本稿のタイトル通り、ランダムダンジョンアクションゲーム。別の言い方でローグライクアクションゲームだ。プレイヤーは主人公「ロゼドール」を操作し、30階建ての迷宮の攻略に挑む。
具体的な流れとしては、階層ごとに出現する敵を半分以上倒し、次の階層へと繋がる「ゲート」の開放を繰り返す感じだ。最終的に30階で待つボスを倒せればゲームクリア。途中でロゼドールがやられてしまったり、画面上中央に表示された制限時間が尽きてしまうとゲームオーバー。最初の1階からやり直しになる。
システム周りではプレイするごとに地形、敵配置などが変化する自動生成システムといった、ローグライク系ゲーム特有のものを採用。次の階層へと進む前に「買い物」が発生し、手持ちのトークン(お金)の限り、パワーアップアイテムを購入できるシステムも備わっている。「買い物」で並ぶアイテムのラインナップは毎回ランダム。品物数も3つと少なめである。
また、本作はアクションゲームの通り、基本的に横スクロール(サイドビュー)のフィールドを移動し、時にジャンプしたりしながら駆け回っていくスタイルとなる。相応にプレイヤーが操作する主人公、ロゼドールにも特徴的なアクションおよび技として、「ボールアタック」「バレット」「シールド」の3種が用意されている。
ユニークなのが「ボールアタック」。ロゼドールはデフォルトで2段ジャンプが可能。その2段ジャンプを決めると、ロゼドールの全身がボール(球体)に変化。そのまま敵や破壊可能な障害物に接触すれば、当たった対象にダメージを与えられるのだ。本作はこれを踏まえてか、高い足場や空を飛ぶ敵などが頻繁に登場。状況に応じてこのアクションの使用が要求されてくる。
アクションそのものは既視感……某青いハリネズミや「スクリューのアタック」が脳裏を過ぎる感じのものだ。ただ、2段ジャンプの時に限って発動という仕組みがミソ。それゆえ、障害物などへの対処時にはタイミングも多少考慮する必要がある。なので、既視感はあれど、使いこなすにはコツが必要という、少し特徴的なアクションに仕上げられている。
これだけだと「まさか、本作の敵はそのアクションで倒していくの?」と思いやすいが、そんなことはない。「バレット」と「シールド」という攻撃手段も用意されている。前者は横方向への射撃、後者はロゼドールの周りに攻撃判定のあるバリアを展開するというものだ。
ただし、この2つを使う際には画面左上に表示された「スキルポイント」(青ゲージ)を消費。空だと使えないため、連射攻撃(連続使用)が難しい。ポイント自体は使い切っても自動で補充されていく仕組みだが、その速度も遅い(※専用の回復アイテムもあるが、滅多に出現しない)。よってここぞという時に使い、ゲージが補充されるまでの間はボールアタックで凌ぐ、という切り替えが求められる感じだ。使い勝手がボールアタックより優れるなりの縛りがある仕様で、戦術性を表するアクションになっている。
他に「買い物」でしか得られない専用アクションも用意。それによって行動範囲が広がったり、利便性が向上するといった攻略の変化を演出する要素も凝らされている。
さらに、こうした特徴的なアクションに抵抗のあるプレイヤーに配慮し、「練習モード」なるダメージを受けなくなる無敵モードも収録。苦手な人にも門戸を開く工夫を凝らしているのも見所のひとつだ。
全体的にローグライクアクションとしての定番を守りつつ、アクション周りで個性を出す方向性でまとめられた内容。それでいて、アクションゲームが苦手な人へも配慮するという、”易しさ”も出した作品に仕上がっている。
”易しいけど油断は禁物”を体現した巧みなバランスが光る
ズバリ、本作の魅力は絶妙な”ゆるさ”である。
本作はランダムダンジョンアクション(ローグライクアクション)としては易しい部類に入る。ランダム要素に象徴されるシビアさもあるが、それでも全体の難易度は低い。どれぐらい低いかと言えば、初見クリアも夢じゃない程度だ。
そりゃ「練習モード」こと無敵モードがある時点でそうだろうとなるが、無敵ではない「本番モード」でも十分易しい。なぜかと言えば、理不尽なランダム要素が抑え込まれているからだ。
ランダム要素が特色のローグライクは、それによる突発的な”事故”をいかにして防ぐかという、プレイヤーのアドリブ力を問う流れが一種の醍醐味で、ゲーム全体に強い刺激を加えるものとなっている。
しかし、それは時に”理不尽なピンチ”を作り出す。敵の攻撃が過激化、地形がトラップだらけになって安全地帯が減るというのが一例だろうか。主に本編が後半に突入するほどこうなる傾向があり、アドリブが求められがちである。
逆に言えば、それを乗り越えられた時には大変な達成感が得られるが、そもそも無茶を要求されるだけあって理不尽さは否めない。ゆえにローグライクのアクションゲームと聞き、本作もしんどい体験てんこ盛りなのかと想像する人も少なくないかもしれない。
だが、本作はそうした要素を徹底して抑え込んでいる。
特に階層突破の要になる敵には理不尽の”り”の字もない。一応、後半に進むたび、新種が登場したり、接触時や各種攻撃のダメージが上昇する仕組みはある。
しかし、急にプレイヤーを囲んで袋叩きにしてくるような不意打ちはほとんど仕掛けてこない。後半になっても常にプレイヤーと対等になる形で現れ、襲いかかってくる。ローグライク要素皆無な正統派のアクションゲーム同様、個々の敵の性質に応じた対処を心がけるだけで、難なく乗り越えられるバランスに調整されているのだ。
マップも、トラップてんこ盛りの歪な地形になるような極端な変化は起きない。そもそも、本作にはトラップ自体が存在しない。基本、プレイヤーの脅威となるのは敵と制限時間だけ。移動中にそこまで神経を使うことは求められないのだ。おかげで前半は楽でも後半は……という不安を抱くこともなく、気楽に進めていける。かと言って、のんびり進めていると制限時間が足りなくなるので、素早く行動することも必要。この辺りの塩梅も絶妙で、”易しいけど油断は禁物”というバランスを確立させている。
こうした調整もあって、本作の遊び心地はいい感じに”ゆるい”。細かいところでも、階層を進むたびに自動でセーブされるため、1日1階、少しずつ進めるという”ちょっぴりプレイ”に完全対応。1周に要する時間自体も長くなく、大体25~30分ほどと、長時間拘束されにくいのも”ゆるさ”を引き立てている。
アクションゲームに限らず、ローグライク要素のあるゲームは後半、理不尽なぐらい難しくなる構成が苦手で仕方がない。そんなプレイヤーほど、本作の良心的な作りは染みること請け合い。また、ゲームテンポもゆったりとしており、素早い動作がそんなに求められないのも、アクションゲームに苦手意識がある人ほどありがたく感じるだろう。
それもあって、本作はこの手のローグライク要素のある作品に苦手意識のある人ほど親しみやすい作りになっている。では、逆に熟練者には物足りない作品なのかと言えば、そう感じやすい内容なのは否定できない。ただ、決して終始楽々と進めていけるバランスではない。とりわけ制限時間があるゆえに無駄のない行動が求められたり、買い物でどのパワーアップを購入したかで難易度の上昇傾向に違いが現れる辺りには、本作のローグライクアクションとしての揺るぎなき意地を実感するはずだ。
”ゆるく”遊べるローグライクアクションをお探しならこの1本!
さらに本作は終始、敵を倒してゲートを開けることの繰り返しなのだが、不思議と単調と感じさせないまとめ方になっているのも注目。新種の敵が出現、被ダメージ量が増えるなどに留まらず、タイミングに応じて背景と音楽が変わる、小規模な階層が登場といった変化と起伏が最小限の要素を駆使して表現されているのだ。
さらにパワーアップの中には、便利なサポート機能を解禁させるものも。それによって、ゲーム全体の快適性に変化が生じるというのも単調さを防ぐ施策として機能している。制限時間も階層を登るたびに一定時間が回復するのだが、それが後半になるにつれて少なくなっていくのも適度なスリルを生み出している。このような工夫が細々と凝らされていて、実際にプレイすれば、意外に変化のある作りに驚かされるだろう。
他に本作の優れた部分で手触りの良さがある。敵に攻撃を当てた際、倒した時にいずれも軽快な効果音が鳴り響くなど、アクションゲームで大事な部分がきちんと押さえられているのだ。各種アクションのレスポンスも良好。ちゃんと動かしていて楽しいものに仕上がっており、少し触るだけでもアクションゲームとしての盤石さを実感させられること請け合いである。
それ以外にグラフィックも地味ながら演出周りが盤石で、見るだけと遊ぶ時とで面白いほど差が出る。ボールアタックに象徴される、アクションゲーム好きほど「おや?」となる小ネタが仕込まれているのも必見だ。
一部、気になる箇所も。特に買い物で購入可能なパワーアップアイテムの種類が少ない、後半になるほど回復系アイテムばかり並ぶようになって頭打ちになる、その関係で購入時に消費するトークンが大量に余る点には若干の調整不足を感じた。
ゲートに入り、次の階層に移動した時にそのアナウンスがなく、本当に進んでいるのか心配になりやすい演出上の”漏れ”も気になるところだ。
それ以外にこれはゲームコンセプトに影響を及ぼす部分だが、「本番」よりもさらに難しい難易度はクリア後要素としてあって良かったように思う。一通り「本番」でクリアするだけでも十分に満足度はあるが、さらなる歯応えを求める人も少なからず出てくるだろう。とは言え、ゆるく遊べることを重視して省いたのなら、その判断は尊重したい。
総じて、やや気になる部分はあれど”ゆるく”遊べるローグライクアクションとして堅実に仕上がっている本作。ランダム要素に振り回されるのは嫌、ゆったり遊べるアクションゲームを求めているという人には打ってつけの良作だ。ローグライクアクションに苦手意識がある人にもお薦め。易しいけど油断は禁物な迷宮踏破の冒険に挑んでみよう。
[基本情報]
タイトル:『迷宮のドールポリス』
作者:かべろくん
クリア時間:25~30分(1周)
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/31437
・Steam
◇プレイはこちら(ブラウザ版)
・PLiCy
https://plicy.net/GamePlay/164339