おかげさまで連載も第三回目を迎えました。今回はフリーゲームにより興味を持ってもらうために、もう少し深く突っ込んだ話をしてみようと思います。それは連載を始めるきっかけとなったテーマ、「フリーゲームは新しい表現手段になれるのか」ということです。
技術が進化した今、自分でゲームを作る意義
1980年台から大きく花開いたゲーム産業は、時代が進むにつれて飛躍な進歩を遂げました。PS4で発売された最新ゲームのように、細密化された3Dグラフィックや物理演算処理や没入感を高めるUIなど、ゲームの世界がより現実に近くなるほどの進化をしています。一方ゲーム人口の増加とともにジャンルは細分化され、ひとつのゲームが全ての人を満足させることも無くなったと思います。ちょっとした時間にパズルがしたい人、物語を追いたい人、キャラクターへ愛を注ぎたい人。ゲームを通じて「何がしたいのか」は人によって大きく異なり、それがゲーム文化の多様性を生んだと思います。
さて、その中に「ゲームを自分の手で作りたい」という欲求があります。例えばスーパーファミコン時代のRPGで育ってきた世代なら、こんなゲームを自分で作れたらいいなと思った人は少なからずいるでしょう。フリーゲームを作ることは、ゲームを遊んでいるだけでは叶えられない願望を、自分の手で叶えることでもあります。ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ね、時には開発に失敗しながら、遂にリリース出来た時の達成感は、何物にも代えられないものだと思います。
“自由に作ること”、“自由に遊ぶこと”。その両方があって、フリーゲームは成り立っている。
多くの人が開発に携わるコンシューマゲーム(家庭用機向けに販売されたもの)以上に、フリーゲームは制作者の意向がダイレクトに反映されます。そのため、自分の思い描く世界を表現する、または自分が面白いと思うゲームを表現することが出来ます。「絵を描く」ことや「小説を書く」ことと同じように、「ゲームを作ること」も表現手段として確立し始めているのではないでしょうか。ゲーム内で“モノ”を作る「マインクラフト」や「マリオメーカー」がヒットしたことを考えると、その傾向は今後更に強まってゆくのではないかと予想できます。
フリーゲームを通した“美しい”表現
ゲーム創作による表現を語るならば、“芸術性”は切っても切り離せません。制作者として物語やゲームバランスにこだわることも大切な表現であると思いますが、やはり「美しいゲーム」への探求はフリーゲーム創作の華です。
「ちょっと待て、3Dグラフィックがここまで発展した時代に、レトロゲームライクの2Dゲーム作りでどれだけの表現ができるんだ?遊び方の幅は表現出来ても、見た目では大した表現など出来ないんじゃないかできるのか?」という人は出てくるかもしれません。しかしかつて一世を風靡した2Dグラフィックスがそうであったように、制約された状況下だからこそ、より美しく見せるための工夫が生きてきます。
そこで筆者が最近プレイした中で、2Dとしての“美しさ”にこだわったフリーゲームをご紹介します。
ASTLIBRAミニ外伝 ~幻霧の洞窟~
1作目はハック&スラッシュ型のアクションRPG『ASTLIBRAミニ外伝 ~幻霧の洞窟~』です。この作品は2015年11月8日にKEIZO氏が公開し、「フリーゲーム大賞2015」にて大賞を受賞しました。消息を絶った冒険者達の行方を追って、一人の少女が魔物の住まう洞窟に挑む物語です。
本作は市販のゲームソフトに負けていないほど、繊細なグラフィックが特徴です。光の表現まで作り込まれており、拠点となる街を歩くだけでもその美しさを感じれるはずです。
街やダンジョンのビジュアルだけでなく、ウィンドウに至るまで高い完成度を誇る。
モンスターの動きやエフェクトも派手で、簡単な操作で気持ちの良いアクションを繰り広げることが出来るのも魅力です。ダンジョンを下りながら押し寄せる敵を捌き、ドロップされるアイテムを大量に手に入れる「ハック&スラッシュ」の面白さを体感できます。
階層ごとに様々なモンスターが登場する。武器や魔法を使って一網打尽にしよう。
巨大なボスとの対決。攻撃レパートリーも多彩で、一筋縄ではいかない。
敵が落としたものを使って新たなアイテムを合成したり、キャラクターを自由に育成することも出来ます。難易度:「普通」以上の場合は戦闘に歯ごたえがありますが、さくさく進めたい人には「簡単」で進めるのもオススメです。
育成要素が豊富で、主人公をどう育てようか考える楽しみがある。
ただ美しいだけでなく、ビジュアルと「ハクスラ」のゲーム性が合致することで、中毒性の高さを生み出しています。やりこみ要素も豊富なので、本作の美しい世界に長い時間没入することが出来るでしょう。
美術空間
2作目は中編RPG『美術空間』です。こちらは2015年12月3日にふーみん氏が公開し、「ニコニコゲームフェス2016」で敢闘賞を受賞しています。美術家「ロドリゲス」によって創りだされた世界を舞台に、主人公のフレディーが「悲願の絵筆」を破壊しに行くという物語です。
本作は『ASTLIBRAミニ外伝』とは全く違ったアプローチから表現をしています。マップが一枚絵で構成されているのが特徴で、絵画のように独創的な色彩で描かれた空間は、息を呑むほどの美しさがあります。BGMとマップの相性が絶妙で、プレイヤーは不穏で奇妙な世界に飲み込まれていきます。
うってかわって地獄の底に堕ちたような場所「ベルゼブブの巣」。おぞましき虫達が巣食う。
絵画の断片のような空間を冒険する。発想豊かなダンジョンがプレイヤーを視覚的に楽しませてくれる。
戦闘はサイドビューターン制バトルを採用し、キャラクターが技を使うたび派手なアクションをしてくれるのも本作の見どころです。ストーリーの進行に合わせ敵も味方もよりインパクトのある技を使ってくれるので、後半になるほど激戦が繰り広げられます。戦闘難易度は比較的高めですが、こちらもイージーモードが搭載されています。
美しいだけでなく、物語・グラフィック共に、心を抉るような衝撃がある。一部ホラー表現があるので注意。
マップの“静”と戦闘の“動”。このメリハリが各パートの美しさを一層高めています。
これはまさに、2Dだからこそ活きる表現です。市販のゲームとは別のベクトルの表現を追求することで、フリーゲームでしか成し遂げ得ない“芸術性”を作り上げています。
表現することが、新しい交流のきっかけになる
もちろん筆者がプレイして美しく感じたゲームは、この作品の他にも沢山あります。もぐらゲームスの記事に上がっているものでは、こちらをオススメします。
『魔王物語物語』『いりす症候群!』のカタテマから6年ぶりの完全新作が登場。連鎖爆発パズル物理アクション+弾幕ゲー、その名も『ムラサキ』!
『MECHA Ritz』弾幕STGは現代アートになりうるか?フリゲで始めるSTG:第4回
台湾発フリーホラーゲーム『ファウストの悪夢』。『Ib』『魔女の家』を思わせる巧みな「物語」と「謎解き」
美しい童話的世界を旅するフリーゲームRPG『片道夜行列車』。「使い魔召喚」を駆使し、「猶予時間」の中で敵を倒す戦略性も魅力
フリーゲームADV+RPG『エインルート』。衰退していく美しい世界を救うための「儀式」に臨む物語
ゲームを通した表現は、リリースして終わるものではありません。実際にフリーゲームとして「作った作品」がきっかけで交流が生まれ、切磋琢磨してゆく人達を筆者は沢山見てきました。例え大人数が開発に関わっていなくても、誰かの心を動か出せるのがゲーム創作の魅力だと思います。
次回の連載では、ゲームを“作る”側の視点から、フリーゲームの魅力を紹介していこうと思います。ぜひまたお付き合いください。
[基本情報]
タイトル 『ASTLIBRAミニ外伝 ~幻霧の洞窟~』
制作者 KEIZO(制作者様サイトはこちら)
クリア時間 5~10時間
対応OS Windows VISTA/7/8/10
価格 無料
ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/action/game_4223.html
タイトル 『美術空間』
制作者 ふーみん(制作者様サイトはこちら)
クリア時間 8~10時間
対応OS Windows VISTA/7/8/10
価格 無料
ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_4265.html