今回は、フリーゲームアドベンチャー『四人の王国』を紹介する。このゲームの制作者は、ゲームとしてのクオリティもさることながら、ゲーム実況にて50万再生ほどを記録している『魔王少女エリ』や、特徴の異なる武器を使い分ける戦術性が魅力の『ウェポンアリーナ』などを制作したyako氏だ。
本作で特徴的なのは、登場人物からの様々な問いに答えることによって「主人公の性格」が確定していくというシステム。そして問いに対する答えを登場人物がずっと覚えている点だ。それによって、話すことが出来ない主人公が身振りで伝えた思いや行動を、後々になっても他の登場人物が覚えていて言及されるという、現実のように持続するキャラ同士の関係性が魅力となっている。
仲間たちと共に過ごす旅の描写自体も、まるでファンタジー小説を読んでいるかのような質の高いものだ。そういった幻想的な部分もある一方、物語の中では主人公の生き方について踏み込んだ質問もされ、中にはプレイヤーも思わず悩んでしまう内容もある。さっそく紹介していきたい。
声を失った王子と、ワケありな過去を持つ3人の冒険
このゲームの主人公は、王国の王子候補の一人。王子候補としての重圧から声を失ってしまい、喋ることの出来なくなった過去を持つ。王子を決める試練である「王の試練」にも乗り気ではなかったが、国王から「王の試練に合格したら、自由に生きることを許してやろう」という条件を持ちかけられ、部隊長という役職ではあるがメンヘラ気味の女の子「クーフィア」、どんな時でもウソを付くことが出来ない「カシュー」、寡黙で存在感がないが情に厚い「ジャン」という一癖も二癖もある3人の側近とともに、王子となるための「紋章」を集める冒険の旅に向かうことになる……。
本作の特徴的なポイントは、仲間たちや登場人物から様々な問いかけをされるが、その受け答えによって「主人公の性格」が決まることだ。また受け答えによっては内容をキャラクターたちが覚えており、後々になってそのことに言及されるなど、まるで現実を生きているかのような生活感を体験することが出来る。
加えて本作の妙となる部分は、登場するキャラクターそれぞれに、これまでの人生で得た価値観があり、そういった価値観を基点とした行動を行っていることが丁寧に描写されている点だ。過去の体験を元に現在の振る舞いを決めるという、リアルな人間関係を見ているような臨場感を楽しむことが出来る。
主人公は喋ることが出来ないため、顔の表情や身振りなどで意思疎通を行なう
主人公や仲間たちの性格・特徴などは物語を進めることで記述されていく
主人公たちのほかにも「王の試練」に参加者はおり、そういった人々との交流も楽しいものになっている。他の王子候補も、非常に我の強い「ダン」、誰に対しても丁寧な「ライツ」など個性的な面々ばかりだ。時にはそういった王子候補やその仲間たちと行動を共にすることもあり、様々な人物に触れていくことになる。
冒険中には戦闘が発生することもあるが、主人公一行にはレベルが存在せず、新しいスキルなどを覚えることもない。そして主人公以外の3人の仲間は、コマンドが選択できずオートの戦闘になる。しかし、決して「演出」のためだけの戦闘シーンというわけではなく、戦闘中にタイミングを見計らっての行動選択が重要となる場面もあり、油断していると負けてしまう手に汗握る戦闘も存在する。
「王の試練」の冒険の先には…
主人公たちの旅の行き先は、古びた遺跡、荒れ狂う吹雪の地、慣習に縛られた古風な村……など様々な場所に渡る。仲間たち4人での旅は、ファンタジー小説そのもので、まさに冒険活劇といえる面白さがある。しかし、旅を進めていくにつれて、そういったファンタジーの世界観の中に、ときおり現実感が影を挿すような出来事も交わってくる。仲間たちの過去にまつわるエピソードや、ときには主人公自身の生き方について問われるシーンも存在するのだ。
次第にプレイヤーも、「この質問にはどう答えるべきか…」と真剣に悩んでしまうことだろう。本作はそれくらい没入度が高く、作りこまれた作品となっている。
冒険を進めていくうちに、仲間たちから様々な問いを投げかけられていく
プレイ時間は約8時間ほどの中編となっており、ゲームとしては長すぎず、短すぎない絶妙な物語の分量が、作品に現実感を与えている一因にもなっている。筆者としてはゲームをクリアした後に、他のプレイヤーとつい感想を話し合いたくなるほど印象的な物語となっていた。ぜひともプレイしてほしい作品だ。
[基本情報]
タイトル 『四人の王国』
制作者 yako(制作者様サイトはこちら)
クリア時間 7~8時間程度
対応OS Win ME/XP/VISTA/7/8/10
価格 無料
ダウンロードはこちらから
http://www.freem.ne.jp/win/game/10099