壁に空いた穴、ゴミの詰まったゴミ箱、女の子の人形、放置されたランドセル、棚、時計、机、ベッド、布の被された鏡、開けられないドア、カレンダー、ラジオ、押入れ、日記、薄暗い八畳の部屋。今回紹介する『One week, My room』の世界の全てである。
とある理由から小さな世界へ閉じこもってしまった少年は、毎週土曜に聴くお気に入りのラジオ番組だけを楽しみに生きている。この世界であなたがすべきことはただひとつ。一日に一度だけ部屋の中の物を調べること。ただそれだけだ。そしてそのささやかな行動が、少年を救うことになるかもしれない。
『One Week,My room』は、こやまなつみ氏とおうる氏によるゲーム制作サークル「常夜灯」の処女作となる短編の謎解きアドベンチャーだ。室内で謎解きと言うと脱出ゲームのシチュエーションを想像するかもしれないが、本作の目的は部屋からの脱出ではなく、クリスマスから始まる少年の一週間を最後まで無事に見届けることである。
前述の通り一日に一度だけ部屋内の物を調べてアクションを起こすことでゲームは進行していくが、もちろんただ闇雲に選んでいるだけでは最良の結末へ到達することは中々できないだろう。その鍵はアクションを起こす“タイミング”にあるが、決して複雑なものではない。数分ほどで終わる1プレイを何度か繰り返していれば、自然とどうすれば良いのかが見えてくるはずだ。
また、本作には何度か繰り返しプレイすることでTipsが開放されていく要素がある。このTipsはタイトル画面から確認することができ、その内容は新聞記事の切り抜きやラジオ番組からのお知らせといったものから、なぜかオンラインゲームのチャットログといった一見すると無関係な情報が存在している。
これらは文字通りヒントとなっているものもあるし、また本編では語られない少年を取り巻く環境を深く知るためのアーカイブとなっているものもある。最良の結末へ辿り着き、Tipsを全て読むことで、この小さな世界の全貌が見えてくるだろう。
筆者としてはなるべく先入観や前知識など抜きで遊んでみて欲しいと思うが故に、あっさりとした紹介になってしまったかもしれない。最良の結末まで辿り着き、Tipsを全て埋めたとしても、おそらく一時間も要しないと思われる。そんなささやかな作品である。
しかし、この作品が扱っているのは、現代社会におけるいくつかの深刻な問題だ。主観としての閉じた本編とそれを補完するTipsにより、短編というよりはショートショートほどの物量にも関わらず、その重苦しさを見事に表現してみせた。プレイヤーが考え、「気づく」ことで心に突き刺さる、秀逸なストーリーテリングをぜひ体験して欲しい。
あなたの一時間はとても貴重だが、それを費やす価値がこのゲームにはあると思うのだ。
[基本情報]
タイトル:『One week, My room』
ジャンル:謎解きアドベンチャー
製作者:こやまなつみ氏,おうる氏(サークル 常夜灯)
クリア時間:1時間(Tips全解除まで)
対応OS:Windows
価格: 無料
ダウンロードは下記より