縦横「3×3」のマス目。
このマス目から連想されるゲームと言えば「8パズル」、”マルバツ”こと「三目並べ」、そして「ナンバープレース(ナンプレ)」とも称される「数独」が象徴的な一例として挙げられる。
どちらかというと、卓上で遊ぶのを前提としたゲームに使われやすい定型だ。
そんな「3×3」のマス目で、ロールプレイングゲーム(RPG)を作ってしまった作品が参上した。その名も『3x3SAGA【3×3マスRPG】』。
2021年4月より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にてWindows PCダウンロード版、ブラウザ版の2種類が公開中。後者は「ゲームアツマール」でもプレイ可能だ。
世界も街もダンジョンも全てが「3×3」の王道ファンタジーRPG
魔王レプカドレザル復活により、未曽有の危機に瀕した世界。
「エナト王国」の王は「勇者の印」を持つ若者を招集し、魔王討伐のために必要な世界各地におさめられた「6つの宝玉」を集めることを命じた。かくして、若者は宝玉を集め、魔王を倒すための冒険の旅へと出る。
まさにファンタジーの王道全開なオープニングだが、RPGとしての作りも王道一直線。世界各地に点在する街、村、ダンジョンを巡り、時に敵と戦いながらストーリーを進めていく、伝統的なものになっている。
具体的には街や村で情報を集めてダンジョンを解禁し、現地を攻略してストーリーを進め、全体フィールドの移動範囲を広げていくのが主な流れとなる。全体フィールドというと、最初から自由にどこへも行ける印象を抱くかもしれないが、本作はストーリーの進行に準じて拡がっていく仕組みで、行動自由度は低め。その分、進行面で迷う心配は皆無の設計だ。
最大の特色はタイトル名通り、「3×3」のマス目で構成されたマップである。世界各地を巡る全体フィールドから、街に村、ダンジョンの局所フィールドまで、全てが「3×3」。さすがに舞台となる世界を始め、全部の要素が「3×3」のマス目内に集約されている訳ではなく、全体フィールドとダンジョンは複数のエリアに区分けされた形だが、RPG史上稀な狭さが異彩を放つ作りになっている。
この狭さを踏まえ、探索周りにも独特な要素を実装。厳密にはダンジョンマップだが、1マス(1歩)進む度、何かしらのイベントが発生する、「すごろく」や「マインスイーパー」を思い起こさせる仕掛けが凝らされている。
イベントは敵との遭遇(戦闘)、宝箱発見、罠発見、未発生(何も起きない)の計4種類。どれが起きるかは完全なランダム形式で、場合によっては同じイベントが連続発生したりもする。イベントが発生すると、そのマス目からは白い枠が消失。以降は移動しても何のイベントも起きない普通のマス目へと変わる。
つまり、全部のマス目でイベントを起こせば、全体フィールド、街や村のマップ同様に自由に歩き回れるようになる。ただし、ダンジョンから外へ出てしまうとマス目は全て復活。ゆえに攻略優先の場合は外に出ず、前進することが求められる。逆に経験値やお金を稼ぎたい時は外に出ては入るのを繰り返せばいいという感じだ。
随分個性的な仕組みだが、やること自体は単純。それでいて「3×3」のマス目ならではの独自性、何が起きるか分からぬスリルを秘めたマップに仕上げられている。なお、各ダンジョンのクリア条件は最奥に存在する「赤マス」で待ち受けるボスの撃破。こちらも分かりやすいものになっている。
そんなボス戦を始め、ダンジョン内で発生する戦闘も敏捷性の高い順から行動するターン制のコマンド選択型。ただ、特徴的な要素で敵ごとに設定された「色(赤青緑)」の三すくみ、「種別」の相性があり、それを突くか突かないかでダメージの量や命中率が変わる仕掛けが凝らされている。そのため、スムーズに戦いを進めたい場合はそれぞれに適した「技能(※武器を用いた必殺技)」、もしくは「魔法(※その名の通りの魔法技)」による攻撃を展開するのが重要。安易な力押しだと満足なダメージを与えられず、長期戦を招く恐れもあるため、常に考えて判断することが試される、戦術性の高い作りになっている。
また、主人公を含むパーティメンバーの「職業」の選別も戦闘の流れに影響。本作では特定の街に設けられた「訓練所」なる施設で仲間を招集し、パーティを編成する形になっている。この際に「職業」を選ぶことにもなっており、どれを選ぶかで戦い方に違いが生じるのだ。当然ながら、似通った職業のパーティにすれば戦術の偏りが生まれ、危険を招きかねない。なので、個々の力が発揮でき、偏りが生じないような編成が求められる。システム的には特に古典的なRPGにおいてお馴染みのもので、真新しさはないもの、そう言ったものも本作は採用し、戦闘面において一筋縄ではいかない手応えを演出している。
マップの狭さからくる第一印象から、気軽に遊べるRPGが想像されやすいが、その中身は結構本格派。それでいて、本作ならではの独自性も持ち合わせた、大変ユニークな遊び応えを持ち合わせたRPGに仕上げられている。
移動の手間を廃し、残る要素でボリューム感を表現したゲームデザイン
そんな本作の魅力は”狭いのに濃い”内容である。
実は本作、全体のボリュームが大きい。メインストーリーを終えるだけでも10~15時間はかかる、紛うことなき長編なのである。多少、早く進めた場合でも最低8時間近くは要する。システム周りに限らず、内容面も見た目とは裏腹の特徴を持っているのだ。
面白いのは”移動の手間”を廃してこのボリュームを実現していること。
RPGと言えば、本編を進めるに当たり、目的地への移動が求められることがお約束だ。そのためにフィールドマップを移動し、時には洞窟のような小さなダンジョンを潜り抜ける手間をかけることになる。しかも大抵、目的地は現在居る場所から遠く離れた所にあるのが多いため、相応の時間を要すことになりがちである。
本作にはそんな移動の手間自体が存在しない。何故ならマップが「3×3」。目的地には数秒足らずで辿り着けてしまう。多少、離れた場所にある目的地でも10分以上必要となることなし。驚きのテンポで進行するのだ。
なのにボリュームが大きいとはこれ如何にだが、それはダンジョンの探索と戦闘、パーティメンバーの育成と言った部分を遊ぶことに特化して作られているのが大きい。移動の手間を廃した分、一番美味しい所を際立たせる作り込みが徹底されているのだ。
取り分け光っているのはダンジョン。数の多さもさることながら、どこも何が起こるか分からない状況下で1歩ずつ踏破していく独特のやり応えに富んでいる。実の所、ダンジョンの構成自体は終始ワンパターンで、場所によっては特徴的な仕掛けが登場するなどの変化に乏しいという難点こそあるのだが、常にランダムでイベントが発生する仕様と敵のバリエーションにより、単調ながらも退屈しない不思議な面白さが表現されている。
また、仕様の関係で戦闘も発生させやすく、メンバー育成のための経験値稼ぎ、お金稼ぎをサクサク行えるのも嬉しい。多少、レベルアップに必要な経験値の基準値が高く、時間がかかりやすい所はあるが、1歩進むだけで戦闘へと入れるのは延々と同じ場所を動き回る手間もなくて快適。このような遊びやすさが表現されているのも秀逸だ。
その育成周りも濃い。特に「職業」に関してはレベルが15以上になると強力な「上級職」への転職ができる特典があるため、積極的に育てていきたくなる。「職業」もそれぞれ個性的な性能を持っており、組み合わせによっては戦術も変わるので、色々と試してみたくなる魅力が詰まっている。メンバーの入れ替えにもこれと言って制約は無く、いつでも別れたり、新たに加入させられるので、あれこれ試してみたいプレイヤーには至福のひと時を堪能できるはずだ。
これらの特徴が象徴する通り、本作はRPGの”美味しい所”を味わうことに力を注ぎ、そちらにボリュームを割いている。おかげで移動の手間がない分、相応の密度が感じられるようになっていて、独特な魅力が表現されているのだ。
同時にこの作りはRPGにおける”移動”の存在意義を問いかけるものにもなっている。確かに目的地到達まで長い旅路を歩むのは、冒険している気持ちを高ぶらせてくれる。だが、ストーリーの先を早く見たい、キャラクターの成長に一喜一憂したいとの思いが率先していると、移動というものは無駄なものとして感じやすい。
そんな移動を本作はマス目の少なさによって激減させているが、RPGの面白さは何ひとつ失っていない。むしろ、よりダイレクトに味わえるようになっている。それすなわち、RPGにおける移動はそんなにこだわる必要のある部分ではないのでは?むしろ、無くしてもジャンル自体が成立するのでは?そんな疑問を抱かせもする、何とも考えさせられる仕上がりになっているのだ。
特にRPGの移動に関し、かねてから存在意義に疑問を感じているほど、本作の作りには何か訴えかけるものを感じるだろう。それこそが面白い、欠かせないものと考えているプレイヤーも、本作の全く失われていない面白さに触れれば、少し疑念が生じるかもしれない。
そういう意味では深い問いかけを残す作りである。特に密度の濃さは、本当に見た目とは裏腹のインパクトがあるので、そんなまさかと感じたプレイヤーほど体験してみて欲しい。こんな狭くてもちゃんとRPGは成立すると実感させられると同時に、美味しい所取りな作りに時間を忘れて夢中になってしまうだろう。
ワンパターンな難点はあれど、独自の魅力が満載の”狭いRPG”
色々意欲的な本作だが、前述のダンジョン構成のワンパターンさなど、気にかかる点も相応にある。筆者が特に疑問に感じたのはダンジョンに張り巡らされた「罠」の遭遇率。率直に言って高すぎる。一応、専用のアイテムと「罠探知」なる技能を使えば、仮に遭遇してもそのダメージなどは無効化できる。しかし、重ねがけができず、効果が切れる度にメニューを開いていずれかを選んで決定しなければならないのが大変煩わしい。おまけにそうやってかけて移動した直後、罠が出現し、すぐにかけ直しになってしまうことも多い。
正直、ここはもっと確率を下げるか、一定回数の重ねがけができる仕組みにしてくれればと思ってしまった。
また、色別の三すくみの影響で、戦闘は「技能」と「魔法」に頼った戦術に偏りやすく、通常攻撃が空気気味なのも気になる。「上級職」も「武闘士」と「怪盗」など、似通った性能持ちがあるなど、差別化の弱さもさることながら、転職と同時にレベルが1に戻され、ステータスまで急低下してしまうのはシビアすぎる。その度にレベル上げもやり直さらざるを得なくなるのも面倒極まりない。この点はステータスを維持させるか、或いはレベルが維持されるなり緩和して欲しかったところだ。ボリュームの水増しになっている印象も否めず、一考の余地があったように感じてしまった。
それ以外にも物価が妙に高いのも気になった。ストーリーも王道ファンタジー一直線で、これと言ってドラマ性のある展開もなく、その辺のものを求める人には物足りなさを感じるかもしれない。
厳しいことを書き連ねてしまったが、RPGとしての個性の強さはピカイチ。本作にしかない面白さと魅力が詰まった内容であることに揺らぎはない。
マップの狭さとは裏腹に、美味しい所取りとも言える面白さが詰まった本作。戦闘や育成を重点的に味わいたい、一風変わったシステムのRPGを遊びたいというプレイヤーにはお薦めできる意欲作にして良作だ。この狭い世界で勇者になって、魔王を倒すための壮大な冒険の旅に出てみよう。
[基本情報]
タイトル:『3x3SAGA【3×3マスRPG】』
作者:Panic Apple
クリア時間:8~10時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/25465
ブラウザ版はこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/25464