闘技場。その単語から最も想像されやすいのは、イタリアの首都ローマの観光地「コロッセオ」だろう。ローマ帝政期西暦80年に建造されたこの円形の闘技場では、剣闘士(グラディエーター)と呼ばれる者たちによる命を懸けた戦いや、野獣狩りなどが催事として行われ、当時の観客たちを熱狂させたと云われる。
このコロッセオはファンタジー世界を舞台にしたゲーム、アニメに登場する闘技場のモデルにされやすい。取り分け前者は某有名作品の影響もあり、シミュレーションRPG(SRPG)のジャンルイメージも持ち合わせている所がある。
実際に件の作品の闘技場には、色々な思い出があるプレイヤーも少なくないはずだ。資金稼ぎやエースユニット育成のために入り浸って戦闘を繰り返した結果、判断ミスで死亡させてしまい、数時間の苦労が無駄になってしまった、などなど。……ぐすん。
そんなファンタジー世界の闘技場を題材にした、一風変わったSRPGがこれから紹介する『RexColosseum(レクスコロセウム)』である。SRPG制作ツール「SRPG Studio」製のWindows PC用フリーゲームで、2021年6月から「ふりーむ!」で公開されている。
育成と運営、そして資金管理が運命を左右する異色のSRPG
闘技場が題材であることから、戦闘特化のSRPGなのかと想像するかもしれない。しかしながら、その内容は管理(マネジメント)要素濃い目のSRPG。
プレイヤーは成り行きで小さな道場と闘技団の運営を任された商人見習いの主人公「ノエル=オースティン」となり、闘士を雇用し、彼らを鍛え上げながら大小様々な大会へと参加。賞金を稼ぎ、道場を発展させ、闘技団の階級を上げながら、闘技場の頂点を決める年に1度の大イベント「レクスコロセウム」への出場を目指す。
ゲーム本編は闘技団の拠点である道場を主軸に展開。拠点の全体を表したメニュー画面から闘士の雇用、道場の発展、武器やアイテム類の購入といった事前準備をしつつ、来たる大会へと参加し勝利を目指す形になる。
大会への参加はゲーム最序盤はストーリーに沿いつつ、途中から自由に選んで決めていく形になる。賞金額の大きなものから小さなものまで、様々な大会が一覧に並ぶが、参加できるのはひとつだけ。一度決めたら後からは選び直せない。
厳密には事前のセーブデータからやり直せば再選択可能なのだが、一覧に現れる大会の種類は以前とは変わる。そのため、最初に選ばなかった別の大会を選ぼうとしても、場合によっては大会そのものが出ないこともあるのだ。そんなランダム性の強いシステムを本作は実装。プレイするたびに異なる展開が描かれるようになっている。
また、メニュー画面から行う雇用、発展などの実施にはお金が必須。さらに闘士は雇用すれば即戦力として活躍してくれる訳ではない。多くの闘士は「ノービス」なる武器類を扱えない職業になっている(※中には職業が設定された闘士もいる)。扱えるようにするには「訓練所」の項目で、何らかの職業にするための特訓を積まさなければならないのだ。
それによって武器を扱える闘士になり、大会で相手とやり合える状態になる。だが、即戦力にするためには大会での戦闘を通して経験値を稼ぎ、レベルを上げる必要がある。ついでに「訓練所」の特訓は有料。必要な資金が無ければ、戦力にするのも無理。
そのためにも、賞金が得られる大会での勝利は極力目指さなければならない。一応、大会以外にも金を稼ぐ手段で「闘士派遣」、いわゆる日雇いのアルバイトがある。
仕事内容によっては経験値も得られたりもするのだが、基本的に報酬は少ない。特に序盤は小さな仕事ばかりのため、雀の涙レベルである。より高い報酬を得るには小さな仕事で実績を重ね、評判を高めていくのが必須。何とも世知辛いが、これも弱小闘技団の宿命。そんな地道な努力も試されるのである。
なお、本作には時間(日数)の概念もあり、訓練や派遣、道場の発展を完了させるには一定の日数を要する。大会も同様で開催まで数日を挟むので、その間にできる限り準備を進めるのが勝利へのカギになる。
ちなみに大イベント「レクスコロセウム」は開催日が予め決定されている。180日後だ。
加えてこの「レクスコロセウム」には参加条件もあり、大会勝利時に得られる「闘技ポイント」を2万以上貯め、闘技団の階級を最上位の「ノーブレス」まで上げなければならない。もし、どの条件にも達していない、達する見込みがないと判断されれば、期日前に参加権が失われ、ゲームが終了。バッドエンディングを迎える。ゆえにプレイヤーは180日以内に闘技団を発展させ、強くしていかなければならない訳だ。
以上が本作の主な流れとなる。人によっては、当もぐらゲームスにも紹介記事が掲載されているマネジメント系SRPG『NSStrategy』(紹介記事)が脳裏を過ぎるかもしれないが、作りとしては概ね似ている。
ただ、大会本番の舞台となる戦闘マップは簡素で、参加者同士がぶつかり合うだけの構成に徹していたり、条件未達と判断されれば期日前にゲームが終わってしまうなど、ゲームデザインの毛色はだいぶ異なる。中でもマップは戦闘特化のため、地形を活かして各個撃破するような戦術性はほとんどない。あるのは闘士が直接ぶつかり合う駆け引きのみ。
それもあって、マネジメント部分に徹底して振り切ったSRPGに完成されている。
苦難を乗り越える楽しさに満ちた難易度。そして、漂う世知辛さ
作品の魅力も様々な計画を考え、日数の許す限り準備をして実行に移す楽しさにある。
それを際立たせているのが、シビアな資金管理。闘士の雇用、武器を扱える闘士にするための特訓、道場の発展と、至る所でお金を使うことになるので、残りがどれくらいあるのかを常に意識し、計算しながら使っていかなければならない。しかも、一連の行動や計画実施に必要な額も高い。大会で得られた資金を瞬時に枯渇しかねないほどなのだ。中でも闘士をより強くするために必要な「クラスチェンジ」に必要な額は、思わず「正気か!?」と言いたくなるほど。仮に払える程度に額が貯まっていても、雇用や発展が不可能になる影響が及ぶため、慎重に判断しなければならないのである。
あくまでもこれは全体の中の極端な例だが、他にも武器やアイテムの調達でもお金は必要だし、特に上位の武器を買うには多くのお金が必要。耐久力(使用回数)の概念があるので、場合によっては補充も避けられない。お金自体も大会で勝利しなければ満足な額は得られないし、「闘士派遣」でも十分な額を稼げるようになるためには地道に実績を積み上げていくしかない。
まさに「金は天下の回りもの」を痛感させられると同時に、プレイヤーの管理能力と先を見据えた判断が試されるバランスに調整されているのだ。それもあって、常に身を切るような思いにさせられることが多い。
特に序盤は最も資金が少なく、大会での勝利や派遣での報酬が少ないのもあってそうなりやすい。無計画な使い方をすれば、途中で大きな壁にぶつかる。
具体的にはストーリー上、強制的に参加する大会イベントなのだが、高確率で敗北すると同時に相手との戦力差の開きに気付かされるだろう。「これではレクスコロセウム参加など無理だ」という絶望も抱くかもしれない。
ゆえに勝利のためには金を計画的に使うしかない。節約しなければならない。そして、高額賞金が得られた場合であっても、一瞬で使い切らないように使うのを心掛けることが大事になってくる。
あまりにもシビアすぎると思うかもしれないが、本作の管理対象は駆け出しの闘技団。プレイヤーが扮するのは商人見習い。一連の設定にこれ以上なく忠実で、それによって描かれた手強さが見事に(かつ生々しく)表現された作りになっているのだ。
それもあって、計画が実を結んだ時の快感は格別。また事態の打開もさほど難しくはない。多少の節約、小さな大会への参加と勝利を重ねれば好転も夢ではないのだ。さらに本作はSRPGとしては短編に属する内容。1周約2~3時間程度のため、バッドエンディングを迎え、最初からやり直しになった際の負担も軽めなのである。そして、短いからこそ以前の知識と経験が残った状態で再挑戦でき、それが自らの資金管理術を洗練させることへと繋がっていく。
こういったプレイヤーの上達も感じられやすいバランスで、やり込む度に面白さも増していくのだ。加えて参加できる大会は、プレイするたびに変わる。再挑戦の際の新鮮味や刺激もバッチリ保たれるので、単調さも感じにくい。そして、変わるからこそ、時々思わぬ高額な賞金が手に入るチャンスも到来して、その後の展開が変わったりもするのである。
これらの特徴からも分かるが、本作は周回プレイが大変に面白い。そして、ゲームとしての中毒性も高い。考え方の幅が広いので、レクスコロセウム参戦を成し遂げた後でもやり込める余地がある。
より高い難易度を求めるプレイヤーへの配慮も抜かりない。途中セーブが一切不可能(中断セーブは可)な「鉄人モード」なるものがクリア後の特典で用意されており、まさに後に引けない挑戦が楽しめる。この「鉄人モード」が本作の特徴を最も色濃く表現した内容といっても過言ではないので、腕に自信があればぜひ、チャレンジしてみていただきたい限りである。
同時にマネジメント要素が好きな人に刺さる作品なのも察せるかもしれない。資金管理だけではない。人材こと闘士の管理も大事。成長はもちろん、要望にもきちんと応えないと最悪、当人が失踪して戦力ダウンが生じることもあるので、万が一も想定しながら計画を練っていかなければならない。闘士一人ひとりに設定された「やる気」のステータスも戦闘時のダメージに直結するため、休憩の場を造ったり、戦力として不十分な者には自主訓練を積ませるといった判断が重要だ。
本当に徹頭徹尾、本作はマネジメントに振り切っている。そして、それらが好きな人の心を撃ち抜く要素が満載になっている。ここまでの解説で心が揺れに揺れているのなら、言うことはただひとつだ。すぐにでも「ふりーむ!」の作品ページからダウンロードを。様々な制約下でベストを尽くしていただきたい。
マップ攻略を犠牲にしたなりの個性が凄い、沼の深い力作
ゲーム部分に注目が集まってしまうが、競技性を前面に出したストーリーも印象的。闘技場、年に一度の大会という各種設定から、裏でどす黒い陰謀が……という展開を想像するかもしれないが、意外にも(?)そのような場面はなし。闘技場の頂点を目指す者同士が己の信念を胸に挑戦する、明るく前向きな内容にまとめられている。若干ながら「スポーツ根性もの」らしさもあって、SRPGとしては珍しい雰囲気が漂っているのも面白いところだ。
登場人物もメインに限らず、雇用する闘士たちにも独自の個性が付けられていてこだわっている。さらに闘士たちは雇用する前にプロフィールが表示されるのだが、ここにも出身地や応募動機などが細かく設定されており、見ていて楽しいものになっている。一部、どこかで聞き覚えのある小ネタが紛れ込んでいるのにも注目。彼らと主人公が交流するイベントもあり、時折、予想だにしない性格が明らかになったりもするので要チェックだ。
前述の通り、全体を通して序盤が最も厳しく、計画によっては絶望を抱きかねない部分があるのは賛否が分かれるところ。さらに攻略には若干ながら運も絡む。とは言え、極端なまでに影響する程度の比重はない。「鉄人モード」以外ならセーブ&ロードによる挽回が効く余地はあるので、許容範囲には納まっている。ただ、戦闘において、相手が必殺攻撃を決めた影響で優勢が不利に陥る恐れがある点は好みが分かれるだろう。
他に戦闘マップは驚くほど簡素なので、戦術を練る楽しみは希薄。戦闘のバランスも展開によるが、相手に先制させた方が有利に働きやすいのは若干、気になるかもしれない。
しかし、全体的にはそれらの気になる箇所が記憶の片隅から離れてしまう程度に熱中度が高く、マネジメントへの振り切りっぷりが痛快な内容である。
資金管理がその後を左右するため、身を切るような体験が連続するが、プレイすれば効率的なお金の使い方を始め、マネジメントの醍醐味と面白さが味わえる本作。この手のゲームが好きな人はもちろんのこと、一風変わったSRPGを求めている人にもお薦めの1本だ。最適の計画を組み立て、栄光の頂点を目指そう。
安心してください、この闘技場は入り浸っても時間が無駄になりません。闘士たちも敗北して死亡することはありません(※離脱式になっている)。
最後の最後に重要な情報をお伝えし、締めくくらせていただきます。
[基本情報]
タイトル:『RexColosseum』
作者:海のお魚パーティー
クリア時間:3~5時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/25814