誕生日プレゼントを買いに行った母親が帰ってこない。
ある小さな家で”事件”は起きた。
そして、少女は全てを悟った。
やがて”あなた”の元に彼女から手紙が届く。
『Human Killing』は、2020年2月8日にWindows PC用フリーゲームとして公開された作品だ。ダウンロードは「ふりーむ!」より行える。また、「RPGアツマール」では、ブラウザ版も公開されている。
戦闘パートもある、短編探索アドベンチャー
ジャンルとしては探索型アドベンチャー。少女「イロアス」より手紙を受け取った”あなた”ことプレイヤーは、そこに書かれたことを成し遂げるため、行動していく。そんな内容のものである。
基本、画面右上に表示される”指示”に沿って見下ろし視点のマップを移動し、ストーリーを進めていく形だ。スクリーンショットの通りだが、制作には『RPGツクールMV』が用いられている。そのため、ゲームとしての手触りは当もぐらゲームスにもレビューを掲載している『ブレスコントロールノワール』、『THE STREET FRIENDS.』などと共通している。
ただ、最大の特徴がプレイヤーのゲーム本編への参加、最小限の謎解き要素、そして戦闘パートの存在だ。プレイヤーの参加に関しては、先のストーリー紹介、構成の通り。ゲームを始めると間もなく、プレイヤーの名前入力からスタートし、以降、自らの分身となるキャラクターを動かして本編を進めていく形になる。
謎解きもこのジャンルにしては少ない。一切ない訳ではないが、ほんの少し頭を捻れば解けるものが一部、存在するだけに留まっている。基本的に指示に沿って行動するのが大半を占めるので、解法が分からなくて詰まる事態には陥り難いのだ。
反面、戦闘パートで苦戦し、ゲームオーバーになることは起きる。
意外な感じだが、本作には”敵”と戦うパートがあるのだ。それもマップ上で行われるリアルタイム方式。攻撃を3回、もしくは特定の一撃を受けるとゲームオーバーのスリリングなものになっている。
さらに”敵”を倒すに当たっては”隙を突く”ことが必須。
ステルスアクション的な判断と戦術が試されるのだ。
なので、正確には探索型アドベンチャーというより、ステルスアドベンチャーと称すのが似合っているかのような、不思議な遊び応えを持つ仕上がりになっている。だが、それ以上に不思議で、本作の魅力となっているのがストーリーである。
「Human killing=人殺し」が意味するものとは
そもそも、プレイヤーが参加する物語と言いながら、その出番は少ない。
本編は手紙を送った主、イロアスに焦点を当てたイベントが繰り広げられるのだ。
なぜ、プレイヤーが主人公なのに、彼女の出番が多いのか。恐らく、始めて間もない頃は「何のために分身となるキャラクターが作られたんだ?」と違和感を覚えるかもしれない。家が舞台のはずなのに、事務所のような所にいること、家ではイロアスを操作し、ストーリーを進めていくことにも。
だが、その謎は戦闘パートの発生と共に明らかになっていく。
詳細は言えないが、このような構成にした理由が一連の展開と共に描かれるのだ。また、先ほど伏せたが実はこの戦闘パート、難易度もやや高めに設定されている。特に初見プレイ時は、”敵”の唐突な戦術の数々に面食らうだろう。こちらから攻撃を仕掛ける際、”最良の選択”を取らねば返り討ち確定になる部分にも、開いた口が塞がらなくなるかもしれない。
しかし、そこまでして情け無用な展開続きの訳も、突破後のイベントと共に明らかになる。そして、そこにプレイヤーが参加する機会が巡り回ってくることにより、本作のストーリーにおける真の目的、テーマが暴かれるのだ。
例によって、その詳細は本編をプレイし、ご覧いただきたい。
慈悲なき設定にもどかしさを覚えてしまうはずだ。
ただ、その種の内容なのは、作品名『Human killing』から大よそ察せるだろう。直訳すると”人殺し”であるから。しかし、プレイヤーは作中の設定でヒーローである。イロアスもまたヒーロー(ヒロイン)だ。
明確にその対象となり得る存在は”敵”である。
これが何を意味するのかは、最後の最後までイベントを追い、確かめていただきたい。
ちなみにちょっとしたネタバレになるが、本作、エンディングを迎えた後にも続きがあり、そこで一連の出来事に関する解説と思しきものが挟まる。
そこには「Human killing」の意味も含まれる。
普通に進めてエンディングを迎え、「だからHuman killingか」と、納得するような思いになったらご覧になって欲しい。色んな事実が引っ繰り返ると同時に、なぜイロアスに焦点が当てられ、プレイヤーが参加する形になっているのか、戦闘パートに初見殺しが多いのかの背景が分かる。
同時に本作がいかに後味の悪いゲームであることも思い知らされるはずだ。
”あなた”はヒーローになる運命(さだめ)
なお、真相が暴かれる結末も含め、総プレイ時間は長くても1時間程度。早ければ30分以内に攻略可能だ。それゆえ、比較的アッサリ終わってしまう内容ではある。だが、戦闘パートの難易度の関係(及び初見殺し要素の強さ)で、人によってはプレイ時間が著しく上下。ストーリーを追いたい人には若干、辛く感じてしまう側面がある。もし、なかなか進めない際は行動範囲内にある物を徹底的に調べたり、探索途中で使うアイテムを思い出してみることを推奨する。それでも厳しい場合は最終手段、本作公式サイトのヒントを活用しよう。ただ、ストーリーのネタバレ情報が満載なので、閲覧時は厳重な注意を。
そのほか、グラフィックもドット絵、キャラクターイラスト共に素晴らしい仕上がり。題名通りに”殺し”を題材にしているため、暴力・出血表現もあるが、演出的には抑えていて、苦手意識のある人にも配慮している。とは言え、効果音や台詞、テキストによる表現で想像させる所はあるため、年齢的には12歳以上対象な感じだ。若干ながら、ホラー的なドッキリ表現もあるので、そこも注意だ。
戦闘パートの初見殺しの強さは賛否が分かれやすいが、それすらストーリー上の演出として表現し、プレイヤーを介入させた背景としてまとめた作りは圧巻で、細かい部分において計算され尽した探索アドベンチャーに完成されている。
作品名からして不穏な気配しかしないが、真相にはそれ以上の”救いのなさ”が隠されている本作。興味があれば、イロアスの手紙を受け取って、”あなた”として参加いただきたい。そして、ヒーローになろう。救いを見出そう。
だが、ヒーローとは必ずしも、
正義の味方とは限らない。
[基本情報]
タイトル:『Human killing』
制作者:やかろ
クリア時間:20~50分
対応OS:Windows
価格:無料
備考:暴力・出血表現あり
ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/22013
※RPGアツマール(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm13810