とある見知らぬ遺跡。
そこで「ラク」と呼ばれる少年が目を覚ます。
そして間もなく、どこか懐かしさすら覚える何者かの声が響く。
「お前には、はたさねばならぬことがある」……と。
その声に導かれるがまま、ラクは遺跡の中を歩み始める。
その先に待ち構えるは数多くの謎めいた石板、石像の数々。
一体、この遺跡は何なのか。そして、”はたさねばならぬこと”とは?
そんなオープニングストーリーと共に幕を開ける『ガルーダの眼』は2020年1月20日、Windows PC用フリーゲームとして公開された作品。ダウンロードは「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」にて行える。
不思議な遺跡で謎解きに挑むパズルアドベンチャー
ジャンルとしては探索主体のパズルアドベンチャーゲームとなる。主人公の少年「ラク」を操作し、行く手を阻む仕掛けを解きながら、不思議に満ちた遺跡内部を進んでいく。最終的な目標は謎の声の主が語る”はたさねばならぬこと”を発見すること。そこに繋がる手がかりを求めていく形だ。
探索主体なので、仕掛けを調べたり、時に起動させたりするのを繰り返していくのが基本になる。時々、アイテムが手に入ることもあり、それを用いた謎解きに挑む場面も用意されている。また、いわゆるダメージの概念もなければ、戦闘要素も存在しない。しかし、ある程度、ゲームが進むと前者が追加実装される。合わせて、ゲームオーバーも解禁。
同時に特殊能力が備わりもするのだが、これ以上の詳細は伏せる。詳しくはゲーム本編でご覧いただきたい。ちなみにプレイヤーのできることは件の特殊能力以外では移動、物を調べる基本動作に加えて、「瞑想」がある。
広いマップに限り使える、全体俯瞰機能である。本作はマップのスケールが比較的大きめに設定されており、時々、これで全体像を確かめたりすることがある。また、ゲーム開始時から行ける範囲も広い。
裏を返せば、初っ端から突き放される。
作中のラク同様、何をすべきか分からないまま、遺跡内へ放り出されるのだ。
ついでに言うと、目立ったストーリーがあるのは序盤だけ。
以降は遺跡探索に集中し続ける展開になる。
そんな”語らず突き放す作り”が本作の特徴になっている。
”突き放す”スタンスが演出する主人公との一体感
それは最終目的が”はたさねばならぬこと”の発見な点で明らか。
そもそも、何を果たせと?
遺跡内を進むのも、それがラクに対して何をもたらすと?
いずれも全く分からない。
ただ成すがまま、遺跡内部でやるべきことを見つけ、ひとつずつ解き明かしていくのだ。”はたさねばならぬこと”の真意を見つけるために。清々しいぐらいの突き放しぶりである。
そんな特徴も相まって、本作の探索全般の難易度は非常に高い。
何せ、ストーリーに関するイベントがほとんどないのだ。次に進むべき目的地がどこかは一切教えてくれないし、察することもできない。基本、プレイヤー自ら観察し、切り開いていくのである。当然、一連の謎に関するヒントもない。一応、それっぽいメッセージテキストが書かれたものも存在する。だが、大半が断片的な表現でまとめられているため、プレイヤーが真意を探り出すしかない。
それでいて、マップが広い。序盤から色んな場所へ行けてしまう。そのため、本編が始まって間もない序盤は目的もよく分からないことから右往左往しやすい。一応、次に進むべき道を示唆する存在はあるのだが、”地味に”ミスリードを誘うものになっているため、別の道へ行ってしまいやすい。その結果、30分……酷いと1時間も行き先が分からず、遺跡内を巡り巡ることになる。
無事、それを突破できても試練は続く。意味深な燃え方をする炎、中央がくり抜かれた石板と言った仕掛けがノーヒントで現れ、プレイヤーに答えを要求してくる。さらに別の広いマップも登場し、探索範囲が急激に広がる。だが、それが何を意味するかは例によって全く語られず。ラクと共に答えを探し出し、さらなる道を切り開いていくしかないのである。
ごく一例の紹介ではあるが、探索難易度の高さが察せるかと思う。さながら、ひと昔前のパズルアドベンチャーを髣髴させる難しさ。古き良き時代の味わいを良くも悪くも追求した仕上がりになっているのだ。そのため、かなりの根気が試される。特に仕掛け周りは徹底してノーヒントを貫き通しているのに加え、一部、物申したく類の解法もあるので尚更。探索アドベンチャー……具体的には”しらみ潰し”のプレイスタイルに苦手意識のある人には応える作りなのは言うまでもない。
ただその分、自力で解けた際の達成感は格別。何より、見知らぬ遺跡に放り出されたラクの状況にこの上なくマッチ。何がなんだか分からないまま遺跡を進む、ラクそのものになったかのような体験が終始、味わえるのだ。ストーリー性の排除、どこにでも行けてしまう行動範囲の広さもそれを際立たせ、圧倒的な孤立感(もしくは孤独感)を表現。迷えば迷うほど、ラクに自らを投影してしまうような感覚になるのである。その感覚が維持された状態で、エンディングに辿り着けた時の高揚感たるや、なかなかのもの。
まさに突き放すなりの醍醐味が詰まった仕上がりになっているのだ。また、ここまでのスクリーンショットが示す通りだが、グラフィック周りの作り込みも凄い。背景から仕掛けに至るまで、全てがオリジナルの手描き仕様になっている。加えて遺跡全体の幻想的な雰囲気を表現する意図で、アニメーション周りのフレームレートも24fpsに固定。いかにも手描きらしい、(いい意味で)ぎこちないものに仕上げられているのだ。
こう言ったこだわりも相まって、単に不親切なゲームとは斬り捨てにくい魅力を持ち合わせている。さすがに全編悩まされるのは……というプレイヤーに配慮し、ゲームファイルとは別にヒントを書き記した画像もセットで収録されているので、妥協すればクリアするのは容易だ。ただ、一連のこだわりの数々から、ヒントなしによるプレイが強く推奨される。特に右往左往するにつれ、ラクにプレイヤーが投影されていく感覚はユニークで、公称にしている”不思議なパズルアドベンチャー”の真価が味わえる。
そこに至るまでが長いので、人によってはストレスを感じるかもしれないが、それでもノーヒントで全編を楽しんでみて欲しい。このような設定にした意図が分かると同時に、様々なパートが印象深い出来事として記憶されるはずだ。
推奨動作条件高めながら、見所満載の1本
ただ、そのような魅力があるとは言え、一部、異様に不親切な仕掛けの存在は擁護できない。特に先述した「くり抜かれた石板」にまつわるアレやコレやは、さすがに意地悪がすぎる。もう少し、理に適った解法にしていただきたかった。
また、グラフィックの派手さが示す通り、本作は動作条件が高め。推奨環境がメモリ2GB RAM、GPUがDirectX 9、OpenGL 4.1以上に対応のビデオカード、VRAMが1GB、そしてCPUがIntel Core i7な点で察せるだろう。最低でもメモリ1GB RAM、GPUはDirectX 9、OpenGL 4.1以上対応のビデオカード、VRAMが128MB、CPUもIntel Core i5が必須。どの条件にも満たさない場合は残念ながら、プレイするのは断念した方がいいだろう。さらに推奨環境に達していても、フレームレートは24fps固定なので、操作感は重い。この点もまた、快適さを求めるプレイヤーには賛否が分かれるかもしれない。
ボリュームもノーヒントなら2~3時間、ヒントありなら1時間以内も可能な程度に短め。ストーリー的にも中途半端な所で終わるので、もうちょっと……となりやすい。ただ、密度は濃い。特にノーヒント時であれば、非常に骨のある謎解きを終始、堪能できるので、手応えを求めるなら最初はそのスタイルで挑んでみていただきたいところだ。
全編、制作側の強いこだわりによって作られているため、人を選ぶ内容ではある。ただ、徹底して突き放したなりの主人公キャラクターとの一体感、それによって印象深いものへ様変わりする結末、そして美麗なグラフィックは鋭く光る魅力があり、良くも悪くも強烈な印象を残す作品に完成されている。特に謎解き主体のアドベンチャー、雰囲気を味わうゲームが好きな人にはおすすめできる出来。不思議な遺跡を巡り、”はたすべきこと”を探す小さな冒険に挑んでみよう。その道のりはあまりにも厳しいが、終わった頃には何かが残る……かもしれない。
最後に余談ながら、本作は説明書も大変凝った作りになっている。クリアの前後を問わず、こちらもチェックしてみて欲しい。そして「ふりーむ!」などの作品紹介ページに書かれている情報だが、このタイミングで言及しておこう。
本作、RPGツクールMV製です。
[基本情報]
タイトル:『ガルーダの眼』
作者:男子工房
クリア時間:1~3時間
対応OS:Windows
価格:無料
紹介サイト:http://ketu.x.fc2.com/animege-mu/gemu/garuda/index.html
ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/21909
※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_8474.html